第二十二話 カラオケ

夏休みが終わり、新学期が始まった。


今日は始業式で、早く帰れるものの、僕はとてもとても眠くて、体育館で校長の話を立って聞いたまま寝そうだった。


それもそのはず、僕は昨日、一夜漬けで、夏休みの課題を終わらせた。


諒花と遊んで、浮かれて全く課題を終わらせていなかったのだ。


眠るか眠らないかのはざまで、僕は混濁した意識の中、いつの間にか始業式は終わっていた。


ピロリリン。


下校中、RISEの通知音がなる。この音を聞くと、毎回僕は胸を掴まれたように、ドキッとする。それは、決して悪い緊張ではなく、たかぶるような、良い緊張だ。


RISEの相手はやっぱり、諒花だった。


そうそう、RISEの名前も古賀さんにしてたけど、諒花にした。


今でもやっぱり違和感が半端ない。でも、優越感も半端なかった。


『今さ、みんなとカラオケ行くって話してるんだけど、渡くんも来る?』


カラオケか。みんなというのはギャル友だろう。

僕は正直歌に自信が無かった。とはいえ、諒花が行くなら絶対に行きたいし、最悪僕は歌わず、みんなの歌を聞けばいいだろう。


『行きたい』


『じゃあ、大島田駅近のカラオケ屋にするね』


『あそこね。おっけい』


大島田駅のカラオケ屋か、あそこは何回か行ったことあるな。



「あ、渡くんこっちこっち!」


カラオケ屋の前では、諒花とギャル友達がいた。


「お待たせ」


「おー、中森っち!お久!」


「ワタルじゃん、久しぶり」


「よし渡くんも来たしじゃあ入ろっか」


諒花の一声で僕らはカラオケ屋に入っていった。


「ひっさしぶりだなーカラオケ来るの」


菜々子さんはそう言った。それに続き

天子さんも同じくと言った。


僕も小学生の頃、家族と行ったきりで、久しぶりのカラオケだった。


「えーそうなの?理子は、週二くらいで通ってるけど」


「理子凄いね、ウチは月一くらいだけど」


一方、諒花と理子さんは、結構通ってるらしい。歌上手そうだな二人とも。


「それじゃあ!アタシ一番行かせてもらっていいっすか!」


天子さんはそう言って、曲を転送し、カラオケは始まった。


天子さんの選曲は、何かの女性組アイドルグループの曲で、明るくポップな曲調で、ノリノリな曲だった。


それに合わせて諒花や理子さんは手拍子をしていたので僕もした。


「いぇーい!盛り上がってるー?」


「「いぇーい!」」


お前が言うなスレはここですかと言われるかもしれないけど、天子さんはそこまで歌は上手くなくて、少し安心した。上手さで魅せるより、エンターテイメントで魅せる感じで、何も魅せられない僕よりは全然マシだけど。


「じゃあ次、あーしが歌おうかな」


続く菜々子さんは、倖○來未や安室○美恵、○崎あゆみ系の曲を歌った。


「菜々子上手いね~」


諒花の言う通り、菜々子さんは結構上手かった。点数も90点付近をさまよってたし。


「渡くん、次歌う?」


諒花は気を使ってくれるように、そう僕に聞いた。


「いやー僕は歌わなくていいかな」


「えぇ、なんで!?」


「いや、僕は歌下手だから歌いたくない」


「そっか...まぁ歌いたくないなら無理強いは出来ないね」


「諒花は次歌うの?」


「うん!」


「ブフッ!」


諒花が返事をした瞬間に、理子さんは飲んでいたジュースを吹き出した。


「え?中森っち!今...!」


「ふーん、、、あんた達そこまで」


そこで僕は、気づいた。

ギャル友のみんなは、僕が古賀さんじゃなくて、諒花と言ったことに反応しているのだ。


「もう、何。みんな、今から歌うから!聞いてて!」


彼女は、めちゃめちゃ照れながらそう言って、歌い始めた。


諒花が歌う曲は、洋楽が多く、発音も綺麗で今まで歌った人の中では一番うまかった。流石は、諒花だなと思った。

「諒花は日本の曲歌わないの?」

僕は聞いた。


「うーん、歌えるけど、歌って欲しい?」


「うん、聞いてみたい」


「よしじゃあ、シャミーのシング エブリイで」


「「シャミーのシング エブリイ!?」」

僕とギャル友は驚いた。シャミーの シング エブリイはとても難度の高い曲だ。


「流石諒花!シャミーのシング エブリイとはやるねえ」


理子さんはそうはやした。


みんなの注目が上がる中、イントロが流れ始め、諒花が歌い始めた。


「シング エブリイー シングエブリイ~」


おぉ上手い。上手すぎる。日本語の曲だからやっぱり上手さがわかりやすいし、この曲は聞き慣れてるから諒花どれほどの技量か分かる。


「私が~願えば、叶うー、強い瞳が全てを奪い、あなたを求める~」


諒花の歌声は、力強くありながらも、透き通るような声で、澄み渡ってもいた。


点数の方も、安定して90点代以上を出した。


「凄い上手かった。諒花」


「へへん、ありがとう!じゃあ次は、理子かな?」


「じゃあ行かせてもらうわね」


次に理子さんが歌い始めた。


静まり返り、そして、イントロが流れ始める。そのイントロはとても激しく、僕が聞いたことのあるアニメのオープニングテーマだった。


「これ、Destiny move morningのオープニングだ」


「お、渡くん知ってるの?」


「もちろん。この曲激しくて、リズムも早いし音程も難しいんだよ」


それにもかかわらず、理子さんは、速いリズムも難しい音程も苦にするどころか、気持ちよく自分の歌かのように歌う。その風貌は、大物歌手だ。まるで、理子さんは神で、この世の全てを支配するかのような、そんな威圧感のある歌いっぷり。そのような迫力のある声量と技術。歌のことは詳しくは無いが、加点の欄が埋め尽くされ、ビブラート、フォール、しゃくり、こぶしだらけだった。


「ふぅ!ざっとこんなもんよ!」


と言って、採点を見ると、99.768点を叩き出していた。


「す、凄すぎる...」


僕は思わずそう呟いた。


「おぉー!流石は理子」


「りーこ!りーこ!」


「んじゃあ、大トリと行こうよ。これまで一向に歌わずあったまってるみたいだし、理子を超えてくれるよね?中森君?」


菜々子さんは僕に期待の目を向けてそう言った。


え?菜々子さん?ちょっと、待って?


「ちょ、菜々子!渡くんは、歌が苦手で...」


そう言って諒花は庇ってくれた。


「カラオケに来てそれはないっしょ~。やっぱ歌ってなんぼだし」


しかし!菜々子さんはそれで屈しない!


「そうだよ!中森っち!」


しかも!天子さんまで何故か菜々子さんの味方に!


「ワタル!男なんだから、音痴とか気にしなくていいのよ、勇気出して歌いなさい!」


えぇ、理子さんも!?


「ちょっ、ちょっとみんな!まぁでも確かに、渡くんの歌、ウチも聞いてみたいかも...」


ちょっ、えっ、諒花まで!?


結局、菜々子さんから始まった無茶振りのせいで僕は、歌うことになった。


選曲は、今流行りのJ-POPの本格系のOfficialハゲ団rhythmの曲。


よし、やるぞ!


「僕は、何度だって、君をー助けに行く~」


『ボゲェ~ボエ~ボエェ~』←《諒花&ギャル友にはこう聞こえる》


「何、、この酷い歌...」


「うぅ頭が~っ!」


「ワタル、流石にこれは音痴すぎるわ...」


「えぇ、、、」


僕自身は気持ちよく勇気を出して歌ったのに、まさかこんなにも犠牲者を出しているなんて。ギャル友達は全員撃沈していた。


「あははっ!渡くん!良かったよ!!最高!」


「ほ、ほんと!?」


しかし、諒花だけは、笑って褒めてくれた。


「諒花!マジで言ってんの?ワタルの今の歌やばかったじゃん」


「まぁたしかにある意味やばかったかも」


「えぇ!?」


「でも、声は出てたし上手くなるよ何より面白かったからOKなんだよ」


ギャル友たちは、諒花のその言葉にひきつり笑いしていたが、諒花はお構い無しと言った感じだ。


「よし、渡くん!一緒に歌おう?」


「え」


「ウチと一緒に練習すれば上手くなるよ!」


と言って諒花と一緒にもう一度、ハゲ団の、Tomorrowを歌うことにした。


「ウチの声聞いて、音程合わせてみて」


「あぁ~」


諒花の綺麗な声が響き渡る。それを記憶にインプットして、真似る。


「あ、あぁ~」


「もうちょい上!」


「あぁぁ〜」


「そうそう!」


「え、諒花となら歌えてんじゃん」


「おお、中森っち!いい感じだよ!」


「ワタルもやれば出来るじゃんか」


「よしじゃあ、次は1人で歌ってみなよ」


またも菜々子さんは悪巧みするような顔で、無茶振りをかましてくる。


「さ、流石にそれは...」


「いいからいいから」


菜々子さんに強引に促され、またも、ハゲ団のTomorrowは流れ始め、そして、


「あぁ~」『ボェ~』


僕は歌い始め、歌いきった。


「ど、どうだった?」

歌い終わり、僕はみんなに聞いた。


気持ちよく歌ってゾーンに入ってみんなの様子を見てなかったけど、諒花以外、ギャル友全員倒れていた。


「あ、えっとー、うーん、良かったよ!」


諒花はそう言って笑った。


あっやっぱりダメっぽい。

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