第十五話 古賀さんとギャル友と商店街2

テキトーに商店街をぶらついていると、僕は、インスタ映えのようなミニハンバーガーを持ちながら食べ歩いている天子さんを見つけた。


「あっ、中森っち!並ぶのやめたの?」


「あっーと、今、り、理子さんが並んでるから」


「あーなるほどね~ん」


「中森っち!も1個食べる?」


「い、いやいいよ」


「そっか、うーんま」


と言って彼女は、ミニハンバーガーを一つ頬張った。


「中森っち、諒花と何処まで進んだん?」


「ぶふっ!」


僕は思わず吹き出した。


「何その反応?どこまで?ねぇ、どこまで?」


「まだ、、手も繋いでないです」


「えぇー!?キスとかならまだ分かるけどえぇー!?ハグ超えて手もまだなの!?えぇー!?」


めっちゃ大きな声で驚かれる。周りの視線が痛くて恥ずかしい。


「まぁ、でも諒花なら仕方ないか」


テンションが打って変わって、天子さんは、呆れるかのようにそう言った。


「え?」


唐突に彼女は僕に近づき、耳元でささやいた。その瞬間、少しいい香りが漂った。


「ここだけの話、諒花ね、恋愛、特に性の知識とかには超疎くてね...全然あんなことやこんなことを知らないの」


「えぇっ!」


「だから諒花が積極的じゃなくても気を悪くしないでね。あと、諒花を何かで攻めたいなって時は、そういう観点で攻めるべし!アタシのガチのアドバイスだかんね!有難く頂戴しな!」


「あ、ありがとうございますっ!」


古賀さんにそんな一面があったなんて。古賀さん、意外と初心うぶなんだな...


「あっ!そいえば、さっき菜々子に会ったんだけど、なんか中森っちに話があるみたいだったよ?そこの骨董品屋にいるから行ってみそ」


「う、うん。分かった」


「じゃあね~」


ダウナー系ギャルの菜々子さんが僕に話ってなんだろう。変な事じゃないといいけど..



「あっ、中森くん、よく来たね」


骨董品屋に入ると、ダウナー系ギャル菜々子さんが居た。


正直、彼女が一番ギャル友の中で思考が読めない。何を考えているか分からない強敵だった。


「あのさ、これ、どう思う?」


「この、壺、ですか?」


「うん。いくら位すると思う?」


「さぁ、、せいぜい1万か2万ですかね」


そんな大きくもないし、とても地味な壺だった。


「それがね、これ15万するんだ」


「えぇ、これが!?」


「君は、見て分からないかい?この壺の美しい曲線うねり具合が」


「さぁ、、、分かりませんっていうか、話ってこれですか?」


「いや、違う。今のはどうでもいい話だ」


本当にこの人は読めないなと思った。


「諒花についてなんだが、、ズバリ彼女のファッションセンスどう思う?」


「うーん、、たまーに凄い変わったこと言いますけど、基本的にはオシャレかなと」


まあ、最初は完全にオシャレだと思ってたんだけど、僕へのコーディネートの時がね。ちょっとね。


「だろう?オシャレだろ?あれ、あーしが教えこんだんだよ!」


「そうだったんですね」


「ああ、最初諒花に会った時に、絶望的に服のセンスがなかったから一から叩き直したんだ」


なるほど。ちょっとおかしかったのは、元々の古賀さんのセンスか。


「まあそういう事だから、今の可愛い諒花があるのもあーしのおかげってことで感謝してくれよ、はい話終わり」


「あっはい、ありがとうございます...」


「じゃ、帰っていいよ」


マジでなんだったんだこの人。



僕が唐揚げ屋の行列に戻ると、古賀さんはもう唐揚げを買い終えていて、両手に唐揚げが沢山入ったカップを持っていた。


「あれ、り、理子さんは?」


「あー理子ならどっか行ったよ」


「どっかって...」


「まあいずれ帰るでしょ!それよりも食べて食べて」


「まあ、古賀さんがそう言うなら」


と言って、僕は一口唐揚げを食べた。おいしかった。


でもこの時は思わなかった。この判断が間違えだったということを。



「おーい、二人ともーもどったよー!」

「戻ったよー」


天子さんと菜々子さんが戻り、一緒に唐揚げを食べている中、ずっと一向に理子さんは戻ってこなかった。


「うーん、さすがに遅いな。理子。何かあったかもしれないし、探しに行こう」

古賀さんも流石におかしいと思ったのか、深刻な表情でそう言った。


「理子なんかあったの?」


「うん。一向に帰ってこないんだよ」


「で、電話とかメールは?」


「それが全く繋がらないんだよ」


「それは流石にやばいんじゃね。早く探さないと。アイツ、相当な方向音痴でここの場所も忘れてるだろ」

菜々子さんによると、理子さんは方向音痴だと言う。方向音痴はやばいなと思った。ただでさえ、商店街は広く、入り組んでいる。


「手分けして探そう、り、理子さんがいきそうな場所とか分かる?」

僕はみんなにそう言った。


「あー、理子はアニメ好きだからなぁもしかしたらマニアショップにいるかもしれない」


古賀さんはそう答えた。


しかし、商店街は広く、マニアショップも各方向、散り散りに多くの店舗を構えている。見つけるのは困難を極める。でも、やるしか無かった。


僕達は、四方に別れ、マニアショップを重点的に探した。


僕の見立てだと、大盛商店街で一番大きなマニアショップであり、女性向けの商品を多く取り扱うアニマニイトにいるんじゃないかと見た。


僕は、商店街の多くの人集りの中、人にぶつからないように注意を払いつつ精一杯のスピードで走りながら探した。


もし、アニマニイトの中にいない場合、道に迷ってこの人混みの中を彼女一人でさ迷っているかもしれない。だから、人混みの中も、掻き分けて、一人一人目を凝らしながら見ていく必要があった。


しかし見つからない。


アニマニイトの中も、その回り周辺も探したが、理子さんは、見つからなかった。


RISEには、まだ理子さんが見つかったという報告は無い。


くそ、どこに行ったんだ理子さん。


確かに彼女は、初対面の僕に当たりが強かった人だ。でも、、大事な古賀さんの友人なんだ。この方面で見つからなかったとしても、諦めずに探したい。困っている人を僕は放っておけない。


こっち方面じゃないのかもしれないと思い、別方面を探そうと、別ゲーとの入口前の、シャッターの降りた店の前で、体操座りして俯いている理子さんを僕は見つけた。


「理子さん!」


「あ、アンタ!なんでここにいるのよ!」


「なんでって、探したんですよ!」


「ふっふーん、よく見つけたわね。別にアンタなんかに助けてもらわなくても良かったけど」

理子さんは動揺したようにそう言った。


「なんで、電話に出なかったんですか?」


「それが、これ。人混みにぶつかった時に、落として、踏まれて、、壊れたの」


理子さんはそう言って、手に画面の割れたスマートフォンを見せた。


「なるほど、でも、液晶が割れてるくらいだから、これくらいなら携帯ショップに行けば直せるかも」


「ほ、ほんと?」


「うん。取り敢えず、みんな心配してるだろうからRISE送ってきます。その後、近くの携帯ショップに行きましょう」


そう言って、促すと、彼女は立ち上がり何かを口ごもった。


「あ、あの」


「なんですか?」


「あっ!、ありぃ、、、はぁ、アンタ、敬語気持ち悪いから普通にしてていいよ」

僕から向けられる視線を背け、とても、苦しそうに、藻掻くように、理子さんはそう言った。


「は、はぁ...」


僕は、戸惑った。やはり理子さんと仲良くなるのは無理なのかもしれない。


そう思った時だった。


「それと、その、あ、ありがとう...助かったわ」


彼女は少し照れたように、空気に溶けるような小さな声で、そう、お礼を言った。

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