第八話 初の私服デートと共通点

スーパーマーケットでの出来事から一週間が経った土曜日の夜、僕は自室でソワソワとしていた。


それは、明日古賀さんと、初のお出かけデートをする日だったからだ。これまで数回デートしたがどれも下校デートで、互いに制服だった。しかし今回は、私服!古賀さんの私服が拝める!それが初のお出かけデートの一番の楽しみだ。 同時に僕の私服も見られるからソワソワしてるんだけど。


とにかく今は、ああ、早く明日にならないかなあのその一心だった。



よし、決まってるな。デート当日の日曜の朝、僕は鏡の前で、僕が今一番いいと思う最善のデートコーデを着こなした。


「じゃあ、行ってきまーす...」


「あんたァ!どこ行くの!」


「別にどこでもいいだろ!本屋だよ!本屋」


「へぇ~、気ぃつけていってらっしゃいよ!」


母親にそう言われて、僕は小さく返事を家を出た。母は変に勘の良いところがあるから、なんか勘ぐられてないといいけど。


電車に乗り、十数分、一番都会の街に降りて、数分歩く、古賀さんとは、現地集合となっていた。


時間より30分くらい早く着いた。モテる男は何事も無かったように少し遅れてくるんだろうけど、私服の初デートにガッチガチに緊張してる余裕のない童貞の僕は、どうしても早く着いてしまうのだ。


「ごめんごめん!遅れた!」


予定時間丁度に、古賀さんは現れた。


古賀さんの私服は、黒と白を基調にしたオシャレなスニーカーとベージュのストレートデニムを履きと、白色ロゴカットソーの上に深緑色のニットカーディガンを羽織ったなんのも少し大人っぽい、大学生風のコーディネートだった。


僕の予想では、彼女はギャルだから、もっと派手でオシャレな服を選んでくると思っていた。だから、こんな落ち着いてまとまって、それでいてオシャレでオーラを放つモデルのような清楚な服装を来てくると思わなかったからギャップ萌えした。

個人的には、派手で目立つ服装よりも、このようなまとまった服装の方が好みだったので、胸がガッと掴まれるようなものがあった。


「おっ、渡くん、オシャレじゃん」


彼女がそう褒める。いやいや全然、僕なんてオシャレじゃないから家にあった一番マシそうなTシャツとコートとズボンを履いてきただけでって、、、え?


今、渡くんって言った?


「い、今、渡って」


「ダメ?名前で呼びあってみようよ。最も君は、もう一回呼んでるし、あんまり抵抗ないだろうけど、結構恥ずかしいね、これ」


少し照れた顔をしている彼女は可愛かった。


ううっ~...


僕はこんな恥ずかしいことをしていたのか!よくやれたな。あの時の僕。勢いだったとはいえ、陰キャの僕がスクールカースト最上位であろう最強ギャルの古賀さんを呼び捨てだぞ!


もしかしたら、僕ってそういう刺激のある環境で伸びる人間なのかもしれない。


いや、違う。僕は、古賀さんの前向きな性格に引っ張られてるんだ。きっとそうだ。


「じゃ、じゃあ、気、気を取り直して古賀さん、行こうか!美術館!」


「あっ、自分だけ苗字呼び!このヘタレ〜!」


でもやっぱり、僕は僕だった。



美術館の中に入ると、西洋の絵画展がやっていた。


様々な絵画が飾られている。僕は、好きな画家がいる訳ではなかったが、作品についての好みとしては少しこだわりがある。


「す、凄いねこの絵」


古賀さんが、僕の耳元でそっと呟いた。

少しゾワっとした。

僕と古賀さんの目の前にあるのは、金箔の装飾が施された一際派手な絵画だった。


「僕こういう絵画結構好きだな」


「どんな所が好きなの?」


「この絵は、一見派手だけど、画家の込められた想いが絵の細部に現れてて、これが、良くて好きで、あそこがあんまりで...」


やばい少し語りすぎたか。こういうの早口で語ると女子って引くんじゃ...そう思って僕は古賀さんの方を慌てて伺う。


「へぇ~、結構奥深いんだね。でも分かる。なんか分かるよ。絵じゃないけど、ウチも映画の制作裏とか見るの好きだもん」


彼女は、首を縦に動かし、うんうんと頷いた。よかった。引いていないみたいだ。


「そ、そうそう、そんな感じ」


「結構こだわり強いんだ」


「うん、まぁどちらかと言えば...かな」


「へ~ウチも結構こだわるタイプでさ~...」


僕達は、色々な互いの好みについて小声で語り合いながら、鑑賞し、美術館を一周した。ただ、作品を見るだけじゃなく、二人の心の距離も少し縮める事ができた気がする。



作品を見終わった後、僕達は、売店に来て、美術館のお土産コーナーを見ていた。


有名絵画をプリントした、クリアファイルやキーホルダーなど様々で目を引いた。その目の引いたものを僕は全部買った。


僕は、こういうものには、金を惜しまないタイプなのだ。


「何買ったの?」


「ええっと、クリアファイルとキーホルダーとトランプとか色々」


と言って、僕はお土産の入ったビニール袋を見せた。


「おお!結構買ったね」


「好きな物にはお金使っちゃうタイプなんだよね」


「あー、分かる、趣味にはお金使いたいよね」


古賀さんは、僕の買ったお土産のトランプをみつけ、声をあげた。


「えっそのトランプすごい。裏に絵画が印刷されてる!」


「これ凄いよね。買った中で一番お気に入りかな」


「トランプよくやるの?」


「最近はあんまりやらないけど、昔はよくやったかな」


「あーウチも昔はよくやったなぁ、家族でも」


「お正月とか家族で集まる時よくやるよね」


「うんうん、ババ抜きとか大富豪とか」


「僕のよく大富豪やるんだけど、勝つまでやってたなぁ」


「へぇ?意外と負けず嫌いなんだ?」


「こういう小さい勝負事の方がなんか熱くなってしまうというか」


「ウチも同じ。勝負事だと熱くなるタイプ!やるからには、勝つまでやりたいというか完璧を求めちゃうというか」


古賀さんは、僕のトランプ如きの負けず嫌いに収まらないで、もっと大きな勝負事のことを言ってそうだなと思った。


「完璧を求めるというと、、」


「ん?」


「いや、今文化祭の準備しててさ、結構準備進んでるんだけど、クラスの人が妙にやる気で大変なんだよね」


「今の時期に文化祭?早くない?」


「うちの高校、何気に進学校だから3年生の受験の為に文化祭を時期早めて6月にやるんだよね」


「へーそうなんだ!大変そうだね文化祭の準備!」


「もう、本当に大変」


「まぁでもそういうのも、やっぱりやれるだけ完璧に近づけた方がいいからね!」


彼女の向上心の高さと、何かをやる情熱や相手の為に動ける能力は、生徒会長として生徒をストーカーから救っているところから知っているし、この発言が自然と出てくるのもかっこいい。最強ギャルの名はやはり伊達じゃなかった。きっと、文化祭でも自分の仕事をいち早く終えて、他の人の仕事を手伝うだろう。


「渡くん、南高校の文化祭行ってもいい?」


「えっ、いやぁ、、まぁ来てもいいけど」


「やったー!なにやるん?」


「メイド喫茶?みたいなやつ」


「みたいなやつ?」


「男子も、メイドになる」


「えっ、渡くんがメイドになるの!?」


「う、うん一応」


「ほーう、じゃあ尚更行くべきだね」


なんでだよ!でも、女子って男が女装するところに萌える層が一定数いるイメージがあるからな。最強ギャルの古賀さんもそういった一面があるのかもしれないなと思った。



古賀さんと別れ、家に帰った後、僕は今日の初デートをお風呂の中で振り返っていた。


古賀さんの私服が可愛かったこと。そして、意外と意見が合うことが多かったこと。そうだ、今日会話していて、結構同じことが多かった。僕達は意外と共通点が多いのかもしれない。


そういえば、好きな物も、渋いもので同じだったし!なら嫌いなものも、同じかな。これで同じだったら本当に運命レベルで凄いと思ってしまう。


僕は、お風呂から出て、着替え終わった後、古賀さんにRISEをした。


『今日はありがとう、とても楽しかった!』


『突然だけど、古賀さん嫌いな食べ物ってある?』


突然すぎるけど普通に気になった。さあどう出る、同じか?僕の嫌いな食べ物は、色々あるけど、特に人参が嫌いだ。


『こちらこそ今日はありがと♩』


『えっ突然すぎるねw』


『うーん、ウチはバナナが苦手かなー』


バナナか、、僕はバナナ好きだな...


『じゃあ、人参は好き?』


『人参?まあ好きだよ?ウチ野菜は全般なんでもいける!』


嫌いなものは合わなかったか...まあすべて合うわけないよな。それだったら奇跡だし、、きっと運命だし。


『急にどうしたの?こんな質問して笑』


『いや、今日互いに共通点多かったから、嫌いなものももしかしたら同じかもって』


『ああ~そういうことね笑』


『確かに共通点が多いのは話しやすいしいいことだけど、ウチは違いも楽しみたいかな』


僕は、単純思考で古賀さんが運命の人であって欲しかったから、嫌いなものが合わなくて落胆した。でも古賀さんは違った。


共通点だけでなく、二人の違いを楽しむ、、、古賀さんはやっぱり流石だなと思った。



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