第56話☆井上ひかりvs前田陽菜
開会式が終わるとすぐに試合が始まる。私はBグループの第1試合なので先にアップをして身体を温めた。
冬の午前中なので少し身体が固いのでアップは入念にやった。咲来にも付き合ってもらってロックアップからの動きも軽く確認しておく。
第1試合の相手は井上ひかり。千葉県の2年生だ。リングに上がって向かい合うとかなり小柄に見える。150cmあるかどうか、くらいか。
ゴングが鳴ってまずはロックアップ。やっぱり軽い。すぐさま抱え上げてボディスラムで叩きつけた。
小柄だけど井上ひかりのドロップキックは打点が高い。私の胸元にしっかり決めてきた。ロープへの振り方も上手い。ロープで跳ねた後の絶妙なタイミングでジャンピングネックブリーカーを決めてくる。
いい飛び技持ってるなと受けていて清々しい気持ちになる。いやダメだ、防御防御。
相手のペースに飲まれないようローキックで探りを入れる。これはしっかり対処してきた。リーチが違うから向こうからは打ってこないけどこっちの攻撃はちゃんと対応される。もう一発、あっ、足取られた、しまった!
井上ひかりが私の足を抱え込んで身体を回転させる。ドラゴンスクリューだ。相手の動きに合わせて回って足のダメージを軽減する。こっちも上手く対処できたものの、片足を取られた状態で寝技に入られた。
私の足を首にかけようとしている。井上ひかりの狙いはストレッチマフラーだ。そのスキにロープに、よし掴んだ。ロープブレイク。
寝技を回避したのも束の間、今度はタックルを狙ってくる。でもこれは上手く対処した。身長差があって私の目線は下向きだから、高低差で急に視界から消えるタックルというわけではない。それでも井上ひかりの動きは素早かった。
タックルに来た井上ひかりを上から押しつぶすようにしてリングに組み伏せる。今度はこっちの番だ。背後にまわれるか、いや、警戒されている。だったら腕狙いだ。
井上ひかりが仰向けになったところで左腕を取る。腕を伸ばされないよう両手をバインドさせてきた。でも関係ない。相手と直角になる位置に入って、両足で腕を挟み込み、ボディと頭部を押さえつける。これで逃げられなくする。あとは両手のバインドを少しずつ緩めていくだけだ。相手の腕を抱きかかえるようにして身体全体で肘を伸ばしにかかると、バインドしている手が外れかかった。
もう一息、よし、切れた!腕をまっすぐに、肘を返されないようにしてそのまま極める!
井上ひかりは一瞬ロープに逃げようとしたが、すぐさまタップした。
できた。関節技も試合で通用した。これが私の新しい武器だ。
ジャーマンスープレックスは好きだしこれで勝負を決めると気持ちいい。でも関節技で決めるのもプロレスの幅が広がったみたいでわくわくする。ジャーマンで決めた時とはまた違う快感だ。相手のガードを少しずつ、でも着実に外していってフィニッシュする。関節技使いはこんな感覚だったんだ。
あー、もっと試したい。練習した技をもっと使ってみたい。
試合が終わったばかりなのに次の試合が待ち遠しく感じた。
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