第21話☆石井百合vs前田陽菜

Fグループの第一試合の対戦カードは私と石井百合だった。

交流試合ではグループ内の人同士でセコンドにつく。だから前の試合が終わるまでの間、話したりすることもできる。お互いの部活や練習の話、全く関係なくアイドルグループの話をする人もいる。まだまだ女子プロレス部のある学校は多くないから、こうやって他校の人と交流する機会があるのは楽しい。


でも今はそんな和やかな雰囲気ではない。

私の隣にいるのは高山美優だ。

そして彼女は全然喋らない。


前の試合も5分以上かかるだろうし、ずっと無言なのも居心地悪いな。でも話しかけにくいオーラ出てるし、うーんどうしよう。あかねならこんな時でもお構いなしに話しかけるんだろうけど。


「高山さんって、中学からプロレスやってるの?」


せっかく話せる機会なのに黙っていることがもったいなく感じて話を振ってしまった。

絶対中学からやってるに決まってるのに、我ながら雑な質問だ。


「ええ。小学生の時にテレビでプロレスを観て、やってみたいと思いまして」

「えっ、そうなの!?私も!誰の試合観たの?」

「お名前は覚えていないのですが、海外の方の試合だったと思います」

「へー。海外レスラーかっこいいもんね」


海外プロレスから入ったのか。プロレスと言えばやっぱりアメリカというイメージがある。日本の女子プロレスラーも海外挑戦といえば、アメリカの団体に移籍するケースが多い。


「将来はアメリカとか、海外でも試合したい?」

「いつかは行きたいと思っています。しかしまだまだ国内でやるべきことがありますから」


やるべきこと?と思ったけどそれが何かは聞けなかった。


「終わりましたね。前田さん、健闘を祈ります」

「あ、うん、ありがとう」


前の試合がちょうど終わったところだった。

高山美優に堅苦しく送り出され、私はリングに上がった。


やるべきことって何だろう。

全国優勝のことかもしれない。だとしたら聞かなくてよかった。高校に入って既に結果を出している高山さんに先に口にされたくない。置いていかれそうな気がするから。

都大会も突破してない私が南関東ベスト4の人に言えることじゃないけど。


この話の続きはまた今度しよう。何より今から私の試合が始まる。都大会以降の練習の成果を存分にぶつけてやるんだ。


石井百合。千葉県にある私立高校の2年生。

この前の南関東大会には出ていなかった。お互いファイトスタイルがわからない状態での対戦だ。

見た感じ背は低めでがっちりした身体ってわけでもない。打撃と関節技主体とかかな。


ゴングが鳴って組み合う。


うん、パワー負けはしなさそう。

ロープ際まで押してエルボーを打ち込む。

そのまま反対側のロープに振ってドロップキック。

よし、いい感じ。

今度は石井百合がロープに振ってくる。

ドロップキックは…このくらいね。


次は間合いを詰めて組み合った。素早く足を取って持ち上げ、ボディスラムで叩きつけた。

さらに起こしてロープに振ってドロップキック。石井百合も素早く立ち上がっている。

ここで間合いが切れた。

じゃあローキックで様子見して…しまった、タックル!

大丈夫、足は取られてない。


足を取るのを諦めた石井百合がエルボーを打ち込んでくる。さらにロープに振って今度はラリアット。

これはまぁまぁ効いた。私を立たせるとまたロープに振ってラリアット。

でも同じ技は何度も食らわない。少し後ろに飛んでラリアットの衝撃を緩和させる。

すぐさま後ろ受け身を取って立ち上がりタックルを仕掛けた。


足を取った。

でもこのままテイクダウンしても逃げられそうだ。

だったら、まずはドラゴンスクリュー。

取った石井百合の足を抱え込んで体を回転させる。足を攻める技だ。

これで倒してからの、アキレス腱固め!

これでギブするか、いや、まだ暴れる。

ロープが近い。

あぁロープブレイクだ。

でも石井百合はかなり息が上がってるし動きも落ちてきた。次で仕留める。


ロープにすがりながら何とか立ち上がる石井百合がまたタックルを仕掛けてくる。自棄になって突っ込んできても足は取らせない。

冷静に対応するけど、そこからまたロープに振ってくる。

ロープに跳ねた私の胸元にラリアットを打ち込んでくる。これも上手く受け身を取れた。

でもまた腕を掴まれてロープに振られる。

もう石井百合のラリアットの間合いはわかった。

ロープに跳ねた直後、石井百合が腕を振りかぶって向かってくるのが見える。腕が振りぬかれる直前に身をかがめた。ラリアットを空振りした石井百合の背中側についた。

すぐさま石井百合の腰を両腕でホールドし、ブリッジしながら後方に投げ飛ばす。


石井百合をリングに叩きつけてそのままブリッジをキープして抑え込む。

レフェリーがリングを3度叩き、ゴングが鳴った。


「お疲れ様です」

「はぁ…はぁ…ありがとう」


高山美優が声をかけてくれたのを、呼吸の合間に何とか応えた。

一試合目はやっぱり動きが固い気がする。その分、変に息が上がるんだよね。


「見事なジャーマンスープレックスでした」

「好きな技なの。強くてかっこよくて。ジャーマンで勝てると嬉しいんだ」


今日の試合で高山美優にも決めてやりたい。あ、でも警戒されたかな。対戦するまで見せない方がよかったかな。いや、いい。高山美優が警戒する技となればそれはそれで。その警戒をもかいくぐって決めてやるだけだ。


まずは好きな技での1勝。残りは2試合。

高校最初の交流試合はまだ始まったばかりだ。

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