第10話

「前田さんお疲れ様。残念だったね」

「全然だめでした。もっと練習します」


1年生にして都大会進出はたいしたものだ。

普通ならそう言われるだろう。

でも自分と同じ1年生がこの都大会を勝ち進んでいる。よく頑張ったなんて思えなかった。


「相手の子、強かったみたいね。どれくらい力の差があったのかは先生はわからないけど、でも、それでもよく諦めず食らいついていったわ。自分より強いと感じた相手に立ち向かっていくのは簡単なことじゃない。それでも前田さんは最後までやり切った。あなたも強かったわ」


格闘技ではどんなに劣勢でも一発の打撃が、ひとつの関節技が、完璧に決まることがある。その一瞬で勝敗が決まることもある。

諦めたら勝てないけど、諦めなければ勝てるというほど甘くもない。多くは無駄な抵抗に終わる。


それでも諦めないのは可能性をゼロにしない唯一の方法で、苦しいことだ。それを先生は見ていてくれた。

負けた悔しさは薄れないけど、どこか救われた気持ちになる。


「ありがとうございます。次は勝てるように頑張ります」


汗と一緒に熱くなる目頭をタオルで拭った。


「すごい技も一つ決めてたしね。諦めなかったからこそ作れたチャンスなんだろうねきっと。大塚さんもきっとかっこいいって思ったんじゃないかしら」

「はい…えっ!?」


返事してから気付いた。

何事もなくさらっと口にした先生のことを見つめてしまう。


大塚さん?


「大塚さん、さっきまで結構前の方で見てたのよ。試合終わってどこか行っちゃったけど」


体力測定の時に初めて話して、都大会のことも話はしていた。実際に試合を見てみるのが一番わかりやすいから。

でも部員が一人だから学校では見せられなくて今日のことを伝えておいたんだ。

まさか来てくれたなんて。伝えておいてあれだけど、普通は来ないと思う。


「先生!私ちょっと探してきます!あ、出番終わっちゃったのでもう着替えます!お休みの日にありがとうございました!」


せっかく付き添いに来てくれた先生を放置してしまうようで申し訳ないが、先生は微笑みながらお疲れ様とだけ言って、預けていたジャージを渡してくれた。


会場には見当たらない。もう帰っちゃったかな。どうやって来たんだろう。電車かな。だとしたら追いかけたら駅までには追いつくかな。

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