第6話☆体力測定

「ひーなー、土日の試合どうだった?」

「おはよう。準優勝だったよ。都大会決まった」

「おぉー。おめでとー。やっぱり天才レスラーは違いますなぁ。決勝の相手は強かったの?」


ブロック大会は4位以内に入ったので都大会進出が決まった。

準決勝の相手は3年生で強かったけど試合時間ぎりぎりで抑え込んで3カウント。

決勝の相手も3年生で昨年4位で都大会に進んだ実力者だった。

寝技中心の苦手なタイプで延長戦にもつれ込んだが負けてしまった。

投げ技が武器だから寝かされると決定打を与えるチャンスが減る。

このあたりは都大会までに修正しなくちゃ。


勝った試合は全てジャーマンスープレックスで決めた。

一番好きで、一番得意な大技だ。

自分が気に入った技で勝つ。やっぱりこれが最高に気持ちいい。

最後の試合でもその流れに持ち込めれば、きっと勝てない相手ではない。

結局、もっと練習しなくちゃという結論になる。


「うん。ちょっと苦手なタイプでね。上手く戦えなかった。惜しいとこまでいったんだけどさー」

「そっかそっか。まぁ次いけてよかったじゃん。その有り余るエネルギーで私の分の体力測定もやってほしいもんだわ」

「あー、今週から体力測定だったね、そういえば」


この時期の体育の授業は体力測定をする。

プロレスではスピード、パワー、スタミナが鍛えられるから、体力テストの種目は得意だ。


夏は冷房、冬は暖房をガンガンにかけた部屋で絵を描いたりゲームしたりするあかねは毎年体力測定が近づくのを嫌そうにしている。

運動好きじゃないとか言いながらそこそこの結果を求める負けん気の強さは小さい時から変わらない。


体育の授業は男女別で隣のクラスと合同だ。

今日は50m走をやって時間があれば立ち幅跳びもやってしまう予定らしい。だからてきぱき動くようにと体育教師が声を張り上げた。

運動部の顧問って感じの先生だ。うちの顧問もこれくらいだと気が引き締まるんだけどなぁ。


4月下旬の空は曇っているとまだ肌寒い。ジャージの上着を羽織って自分の順番を待ちながらクラスメートが走っていくのを眺める。

出席番号順に2人ずつ、隣のクラスの子と一緒に走る。

私は後ろの方だから列の後ろの方だ。


あかねは前の方でもうそろそろ順番が近づいている。あかねと一緒に走るのは…。

ショートカットであかねより少し背が高い。スラっとしている。肌白いなぁ。

入学したばかりで隣のクラスのことはわからないから名前は知らない。

あかねが何やら話しかけているが、軽く頷いたり短く返事をしているだけのように見える。

おとなしい子なのかな。あかねが初対面でずけずけと話しかけるのに驚いているからか。


そんな様子を眺めている間に2人はスタート位置に着いた。

あかねは運動は嫌いだが短距離は結構速い。理由は速く走って早く終わらせたいから、らしい。

中学の運動会ではクラス対抗リレーで美術部ながらアンカーを任されていた。


体育委員の子がヨーイドンの合図をすると同時に2人は飛び出した。

あかねの脚はもの凄いスピードで動く。隣の子よりもピッチが早いが後ろから見ているとどっちが先行してるかはわからない。


あれ?と思った。先に走り終えたのは隣の子だった。

ほんの僅か遅れてあかねがゴールする。ように見える。

またあかねは話しかけていた。


その後の立ち幅跳びでも例の子はクラス上位だった。

ぱっと見の印象だけなら運動部というより文化部だけどスポーツが得意であることは間違いなさそうだ。


「50m走負けちゃったよ。大塚さんめちゃくちゃ速いんだもん」


立ち幅跳びが終わってしれっと私の隣に来たあかねがそう言った。


「大塚さんっていうんだ、あの子」

「え、何?ちょっと陽菜!?」


背中にあかねが声を感じながらも、私は大塚さんの方に駆けていった。

あの短距離の瞬発力と幅跳びのバネ。

動きにも無駄がないというか、自分の体を操るのがきっと上手い。

立ち幅跳びを終えた大塚さんはちゃんと列の後ろに移動して体育座りをしていた。

不思議な雰囲気の子だな。

仲良くなれるかな。


「ねぇ、大塚さん!女子プロレスサークル、入らない!?」


大塚さんは私の方をじっと見返した。私と彼女の初めての会話だった。

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