ガチ恋距離は13cm

漢字かけぬ

第1話 この先輩ほんとブレないよね




  

 ー #荒れ果てた街 #理想主義な先輩視点 ー



 「あっ紅先輩、新しい街が見えた」




 原付バイクを運転する少女が片手をあげて目標を指す。



 防塵用のゴーグルと砂除けのベージュのコートを纏った後輩のジエンド。


 彼女は決して自分や人の本名を呼んだりしない。


 過去に親と何かあって不登校になったからだ。


 親を全て否定したくて名前を呼ぶことを嫌っている、

だから俺は彼女のフルネームを知らない。


 逆に俺の名前は偽名というか姉が中二病の時に付けた必殺技、

 ” 紅の双璧くれないのそうへきシステム ” が元となっている。



 


 「ふむ・・・・・見えた。


 ビルは建ってなさそうだな」



 加減を知らない大人共が始めた核戦争によって世界は混乱を極めた。



 ただ無料WIーFIアンテナが各国に配備されていたのは救いだ。




 行く当てのない旅ではあるがWI-FIが羅針盤になるというか、

誘蛾灯のように人が集まるというべきか。



 俺は彼女の服にしがみつきつつ、彼女を見る。


 顔と顔の距離は13cm。


 それ以上は俺が恥ずかしくて目を背けてしまうからな。





 ☆☆☆



 ー #薬局内 ー



 ジエンドがガラスドアをバールのようなものでこじ開け入店。



 内部に生者は存在せず、

レジはことごとく破壊され金目かねめな物は略奪されつくしていた。



 彼女は買い物カートを1つ取り出して

 ” 全品100パーセントセール ” を開始した。

 

 


 「酷い有様、先輩は目を開けないほうがいいよ?」 



 ジエンドが語るが内容はいつも見てきたことだ。



 残った人間同士が食料を奪い合い同士打ちしたんだろうな、

死体がゴロゴロと転がっている。



 そして大抵の死体は ” 左腕 ” が切り落とされている。



 結婚指輪だったり時計と言った装飾品は利き腕とは逆につけるからな。






 「缶詰に乾電池、粉ミルクの賞味期限は・・・・切れてるけどこれも。


 そろそろ目を開けてイイですよ?


 お待ちかねの洗剤コーナーですから」


   

 

 食料品と違って洗剤コーナーの在庫は充実していた。



 核戦争の避難に洗剤を持っていくヤツは俺ぐらいしかおるまい。



 「あー、先輩スマホより重たい物持てなかったっけ?

今蓋開けるから」



 片っ端から洗剤を開けていくジエンド。


 正直洗剤のニオイが交じってクラクラしそうになるが、

俺の体ではキャップを開けるのがせいぜいだ。



 新しい土地に来たのならば

洗剤もまた違うメーカーの商品が売っているはずだ。



 全てを嗅ぎジエンドの服に合った洗剤を見つける。




 ー #数10分後 ー





 

 「もう満足した?」と言われ俺はヒョイと持ち上げられてしまい、

 ” 定位置 ” である彼女の制服の胸ポケットへ収納された。



 諸事情あって俺の体は ” 13cmの稼働フィギア ” になっている。





 ☆☆☆



 ー #ファミレス #ジエンド視点 ー




 「なぁ!これ飼ってもいいよな!!!!!」わくわく



 「ダメに決まってるじゃん」きっぱり



 血のような真紅髪の先輩が

ネコ型配膳ロボットを見て目を輝かせてる。



 私より年上なのに、はしゃぎすぎじゃない?



 正直私達って核戦争から逃げてるわけだし。




 「なら!せめて!!!!!!」



 「あー、わかったから。


 私が料理作ってる間にぱぱって改造すれば?」




 私が言うまでもなく紅先輩は自分の体より大きなドライバーで

配膳ロボを分解してるし。



 ー #20分後 ー



 幸い電子レンジが動いてたから此処での調理は問題ない、 

と言ってもパックご飯とレトルトの丼ものだけどさ。



 

 先輩もロボットの調整が終わったみたいで彼女?達を送り出している。




 「食事をお持ち致します」

 「食事をお持ち致します」

 「食事をお持ち致します」



 ネコ型配膳ロボットは軽快な音楽を鳴らして野に解き放たれた。



 この行動に意味があるかは分からない。



 どうせ核の炎に焼かれるのだから・・・・・

でも少しでも延命させたいという先輩の偽善だと思う。



 もし逃げ延びたら

きっとまた元気に食事を運んでくれるんじゃないかな?



 ・・・・・淡い期待はあるけれどあのロボットたちと同じで

私達もいつか戦争に巻き込まれる、けどそれは今じゃない。


 だからお互いやりたいことは止めないし、干渉しない。




 「元気で暮らせよ~」腕ブンブン



 ・・・・多分この先輩はそんな悲観的な感情を持ち合わせていない。



 洗濯して機械を治して寝る。



 何も変わっちゃいないけれどこの先輩は変わる必要がないタイプだ。



 今も私に利用されて当てのない逃避行に付き合ってくれてるし。




 ☆☆☆



 ー #ジエンド視点 ー



 今日からこのファミレスを拠点として生活をすることになった。


 

 私としては仮眠室のベットで寝れること、

紅先輩にとっては稼働する洗濯機を見つけたことが決定打。





 ・・・・・・・この先輩、洗濯の事しか考えてないんじゃないかな?


 

 もし宇宙から洗濯星人が襲ってきても

お互い好きな香りで討論の末、和平結びそうだし。




 ☆☆☆



 ー  #10年後 #崖 #ジエンド視点

  



 世界を巻き込んだ核戦争から逃げていた私達。


 

 それもおしまい。



 ゆっくりとだけど確実に魔の手は迫っていた。



 相手は核兵器なのに10年も逃げ切れた理由は

紅先輩と同じ13cmのロボット同士の対決だから。



 2大勢力のうち1つは先輩の姉である機械部副部長が在籍してる。


 そして紅先輩もその機械部製。



 学生の玩具対決で滅ぶ世界っていうのも情けないというか、

そもそも ” 玩具に核兵器積むのは無しでしょ ” って言いたい。




 「ん?どうした、そんなまじまじと見て?」



 「あー何でもない」



 無意識のうちに紅先輩を見てたみたい。




 高台だけど下は海で、遠方から青白い光が迫っている。


 

 デーモンコア搭載の3頭身ロボと、2体合体の核融合ロボ。



 このまま相打ちしてくれないかなーって思うよ、本気で。





 「なぁ、最後だから言うが、生まれ変わったら何になりたいのだ?


 俺は洗濯機か洗剤だ!!!!!」




 「ふふっ」



 「笑うなって!!!!!」



 いや輪廻転生があるなら人になってほしいんだけど、

私は先輩とまたこうして馬鹿な話がしたいし。




 「俺には今までの価値観を変えた洗剤に出会ったから

辛いことも、どんな理不尽だって耐えられた。


 だからさ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」














 何?この長い溜め。 









 「生まれ変わったらジエンドの洗濯機になりたいんだ。


 好きな人にはいい香りに包まれて生きていて欲しいだろ?」





 「もしかしてプロポーズのつもり?」




 素直に好きって言えばいいのに、この先輩は本当に・・・・

ほっとけないくらい、どうしようもない人だ。




 「じゃあジエンドはどうなのだ!!!!!!!!」




 「耳元で騒がないでくれるかな・・・・・・



 私はもう十分じゅうぶん



 大人だって世界を巡って旅できる人なんてごく僅かだと思うし。



 あっ・・・・」





 「どうした?」



 「そう言えば私達 ” キス ” してなかったかも」



 「10年もあったのだぞ?1度ぐらいは・・・・・」あせあせ



 「あー私先輩の提案した13cmルールを律儀に守ってたから。


 本当にまずった」



 「いや恥ずかしいだろ!!!!


 その・・・・・まじまじと見られると呼吸がな」ぷいっ




 最後の最後でツンデレを発動する先輩、

年齢は28で大人だよね?ちょっと心配になってきた。


 この人私無しだとすぐご臨終しそう。





 「じゃあ、今しようか」



 「まっ、待て待て待て!こ、心の準備が!!!!」



 私は胸ポケットから先輩を取り出し顔を近づける。



 ・・・・・なんかはたから見たたら巨人の捕食シーンに見えそうだけどね。


 これはキスだ、頑張れ私。





 




 先輩と交わした13cmルールを破り距離が狭まっていく。



 12,11,10。



 手からも先輩の鼓動が速くなってるのが伝わる。



 頑張れ私、負けるな私。


 

 あと少し、手を自分の方に手繰り寄せれば・・・・・・





 「ジエンド!!!!!!!!!後ろだ!!」




 突然叫ぶ紅先輩に驚き後ろを見る。



 例の核兵器共が放つ青白い光が迫っていた。



 百合の間に割り込む核兵器ロボってもう罪だよね?



 崖から飛び降りる時間もないし、私にできることは・・・・・




 ” 先輩を両手で守ること ” ぐらい。




 先輩のオススメした洗剤で洗った服が燃えている。


 先輩が褒めてくれた私の肌がただれていく。

 

 先輩と共に歩んできた骨が溶けてもう歩けない体になった。


 先輩の声を聴くための耳がもう聞こえない。


 先輩と談笑してきた口も原形をとどめていない。


 そして、先輩のニオイを感じ取れる鼻も・・・・・。




 私が生まれ変わったらやりたいことが今できた。


 キスもそうだけど伝えきれてないことが。


 私が好きなのは先輩の選んだ洗剤じゃなくて・・・・・・。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る