どう考えてもあなたナニかやってるよね?

@samayouyoroi

第1話 ご挨拶の草稿

コホン。


「えー、紳士淑女の皆様、本日は御来場を頂き誠にありがとうございます」

私はニコヤカな笑顔でまずそう言った。


「招待状に記しましたように、本日はチャリティ・オークションを……」

そこまで言って私は一旦止めた。


「……招待状に記した、だとくどい?」

招待状を見たから来てる筈のお客様に対しては些かくどい気がする。


「本日は予定通りチャリティ・オークションを開催を致します」

これもなんか上手くない。


「既にご存じの通り」

うーん、言うまでもないだろ?みたいな。


「チャリティ・オークションを開催を致します」

知ってるから来てるんだよ、みたいな。


「それより『本日』より『今夜』ね」

私はまず簡単なところから訂正した。


ふよふよ


「えー、今夜は予定通りチャリティ・オークションを開催致します」

いやそうしたら出だしとかぶってる。


にこにこ


「紳士淑女の皆様、今夜はチャリティ・オークションにお越し頂き」

お?これまとまってない?


むちむち


「紳士淑女の皆様、今夜はチャリティ・オークションにお越し……どっか行け!」

私は持っていたペンをそいつに投げつけた。


にこにこ


「この悪魔が……」

しかしそいつはペンを投げても表情も変えなかった。なぜならば当たってないから。


「ねえ!あなた言葉わからない!?」

私は激昂してそう叫んだ。


ふよふよ


「…………」

しかしそいつは焦点の合わない微笑を浮かべたまま全く反応を示さなかった。


「……せめてなんか着なさいよ……」

男だったら最高だろうけどモロ見え過ぎて不愉快なのよこっちは!


むちむち


「……太っとい脚して……」

私は思わず下品な事を言ってしまった。


「お嬢様、どうかなさいましたか?」

イザベラが扉の向こうからそう言ってきた。


「ああ、なんでもないの、大丈夫」

私はそう言い繕った。


「何か御用がありましたら」

イザベラはそう言い残して去っていく気配がした。


イザベラにはこの女は見えない。またもし見えてもそれはそれで大問題である。何せ一糸まとわぬ裸の美女が部屋の中を漂っているのだから。

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