第2話 意外な説明(2/3)

「あなたの疑問は、こうじゃろ。


ワシのような老人が、毎日欠かさず同じベンチに座っている。単なる暇つぶしでもなければ、ホームレスでもないようだ。そして遊具で遊ぶ子供を見て、おかしな手振り身振りをする。一体何の目的があって……」


老人の言う事は、いちいち私の心を見透かしているようで、大変に身が縮む思いがした。しかしここまで来たら、もう開き直るしかない。


「はい、おっしゃる通りです。私はこの何十年、家族のためにひたすら家と会社を往復するだけの人生でした。これと言った趣味もない。しかしあなたの行動を見るにつけ、忘れていた好奇心というのでしょうか、何かワクワクする冒険心のようなものがかき立てられて来たのです。そして、是非真相を確かめたくなりました」


私は思いの丈を、一気にはきだした。


実際その言葉に嘘はなかった。別段今の生活に不満があるわけではない。平凡ではあるが大したトラブルもなく、そこそこ幸せに暮らしている。しかし先の見えた平凡さに、心のどこかで物足りなさを感じていたのだ。そんな時に出くわした老人の不思議な行動。私は少年のような純粋な好奇心に心が満ちあふれているのを感じていた。


「そうかの。今までも少しばかりの好奇心で、ワシの事を見張っていた者は何人かいた。しかし、お前さんほど熱心な人は初めてじゃ。それでちょっと、話をしてみたくなったんじゃよ」


老人は、落ち着いた口調で続ける。


「ワシの行動の理由を知りたいのかの?」


「はい、ぜひお願いします。このまま理由を聞かずに帰っては、精神衛生上よくありません」


私は、何としても秘密を聞き出そうと食らいついた。


老人が深く息を吐き、話しはじめる。


「これから話す事は絶対に秘密じゃ。この事が外へ漏れれば大変な事になる。秘密を守れるかの?」


「勿論です。必ず守ります」


私はついに明かされる老人の秘密に、心臓の音が聞こえるほど興奮した。


「ワシは発明家での。若い頃から様々な発明をしたもんじゃ。当然、そこらにいるような町の発明家ではないぞ。政府や大企業から密かに依頼を受けて、彼らの望む機能を持つ品の発明に従事してきたのじゃ」


老人は、ポケットから煙草を取り出す。


「そういう発明だから、おもてだってワシの名前が出る事はない。詳しい事は言えないが、世間に知られては困るような発明も沢山してきたしな。まぁ、そういう発明家もいるという事だ」


煙草に火がつけられ、老人はそれを軽く加えた。


「そして某国政府から、新しい発明の依頼が入ったのじゃ。それは究極の抑止力兵器を作ってくれというものじゃった。現在は核兵器が抑止力となっているが、今では多くの国が持ってしまったので、その効果は薄れてしまっている。


まぁ、抑止力とは言いつつ、結局は自国有利に国際活動をしたいと願うのが本音なわけだから、現在の状況では余り意味がないという事なんじゃろ」


老人の説明に、私はかすかに不安を覚えはじめていた。少し話が大きすぎるのではないか。そんな私の思いをよそに、彼の話は続く。


「そこでワシは、必死に考えた。核に勝る究極の兵器は何か。悩みに悩んだ末に、ワシはようやく一つの結論に達した。究極の抑止力兵器、それは”地球破壊爆弾”だ。


核兵器ならば、地下シェルターに逃げ込めばある程度は助かるし、人類が滅びるわけではないから、再び戦争は起こるじゃろ。その上、放射能は残るから、これはもう、悲惨な末路しか待っておらん」


老人は、白い煙をくゆらせながら更に続ける。


「その点、地球自体を木っ端みじんに破壊してしまえば、二度と戦争はおこせん。もちろん放射能などの被害もない。被害を受ける土地自体がなくなるのだから当たり前じゃ。更には反撃もクソもないし、そもそも使用すれば自らも滅ぶのだから、使う側にしても、これは究極の抑止力となるわけじゃな」


私は高鳴っていた心臓が、だんだん静まるのを感じていた。


「思い立ったが、すぐに仕事を始めるのがワシの性分でな。一気に完成させ、意気揚々とクライアントに連絡をしたんじゃよ。しかし連中は、こんなものは抑止力でも何でもない、ただの自殺兵器ではないか、と言い放ったんじゃ。そして爆弾の廃棄を命令してきおった」


私の興奮がおさまるのに反比例して、老人の頬は赤々と生気を増している。


「ワシがそんな事は認められんと言うと、奴らはワシの命を狙ってきおった。しかし、そんな時の対策も万全じゃ。クライアントどもが、世間に顔向け出来ない発明を依頼してきた確かな証拠をしっかり保存していたので、それを公開すると脅してやった。


そしてなにより、ワシは地球破壊爆弾を持っておるわけだからの。奴らも諦めざるを得なかったというわけじゃ」

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