第4話
研究の背景を俺が頭の中で振り返っている間も、ボスの言葉は続いていた。
「……しかも霊能遺伝子群は、アポトーシスにも関係するらしい。そうなると
話を聞きながら、渡された研究資料をパラパラとめくる。
研究費申請の書類もあり、そこに引用されている論文のタイトルを見ていくだけでも理解できた。霊能遺伝子がアポトーシスを引き起こすという報告が、既にいくつか出始めている。
それらの研究をしていたグループは今頃、もっと先へ進んでいるはずだ。発表論文をまとめるには時間もかかるため、一つ仕上げながら次の研究に取りかかっているのが普通なのだから。
ならば、今さらアポトーシス関連から霊能遺伝子研究に入っていくのは、もう手遅れなのでは……。
「大丈夫、彼らはアポトーシスの専門家ではないからな。うちのノウハウを使えば、もっと違う研究も出来る」
この言葉だけでは気休めに過ぎないが、ボスには一応、具体的な方針もあった。
「それに、これまでの報告はヒトの遺伝子を使ったものばかり。でもうちは、マウスのホモログでやるつもりだ」
「マウスのホモログ……?」
「うむ。論文になっていないどころか、学会発表すらまだなんだが……」
いかにも内密の話という雰囲気を漂わせて、ボスがニヤリと笑う。
霊能力者に関わる遺伝子なので当然、霊能遺伝子群はヒトから発見されたけれど、実は動物の脳内にも似たような遺伝子があるという。
霊能遺伝子関連はマスコミも騒ぐため専門家は慎重になり、他の研究以上に非公開の情報が多くなる。そんな中、一部の研究者の間では
「これが公的に同定されたら、今以上に研究人口も増えるぞ。動物実験も容易になるからね」
ヒトだけが持つ遺伝子ならば、人体実験になってしまうから、生体を用いた実験は難しい。しかし動物にもあるならば、研究は飛躍的に発展するだろう。
ただし「飛躍的に発展」してからでは遅い。今のうちに霊能遺伝子ホモログで動物実験を始めておけば、霊能遺伝子ホモログが
ヒトの霊能遺伝子群の研究では乗り遅れたが、同じ失敗は繰り返さない。そんな思いが、ボスの言葉からは感じられるのだった。
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