第7話ファンタジーは身近にあるのにゴミ拾い

 小惑星には岩はもちろん水や鉱石まで含まれていることもある資源の宝庫である。


 小惑星帯の資源調査は、元居た実験船でもやっていたことで、新たな資源の探索は積極的にどのコロニーでだって行われていた。


 実験船にて僕の主な仕事だったデブリ拾いも、ゴミ掃除という側面以上に資源調査的な意味もあったわけだ。


 そして現状、僕が置かれているのは極めて特殊な環境ではあるが、それでもスペースコロニーであることに変わりない。


 周囲の宇宙空間は小惑星が数えきれないほど存在し、資源調達が可能で、それが有用だと僕は判断した。


 ただ、自分で率先してやっていることは間違いないが、ちょっとだけ思う―――。


「あんまりやってることは、変わらなすぎだなぁ。僕の住んでいるところは宇宙に浮かぶ植木鉢なのに」


 あまりにもファンタジーなそのすぐ横で、石拾い。


 こんなにも幻想的な場所だと言うのに、日々の日常とはこうまで根強く僕の中で生きているものなのかと感心しながら、僕は石をまた一つ拾った。


「ホントに……不思議だなぁ」


 このコロニーって光源が二つあるんだよね。


 一つは太陽なんだけど、もう一つは昼の時間にでっかい樹木の葉っぱが光るんだよ。


 シュウマツさんの話じゃ、魔素を生成した時の副産物なんだとか。


 ソーラーパネルからバッテリーも溜まって、魔法も使いやすくなるなんてあまりにも効率のいい話じゃないか。


 なのに僕は石拾い。


 まぁ自分で進んでやっているんだけれど。


 そんな不毛な思考に陥りかけて、僕はプルプルと頭を振った。


「いやいや、どんなことも地道な一歩からだ」

 

 いつか魔法と言う現象すら僕らの言葉に置き換えてやろうという気概を持つのは大切である。


 ただこの地道な作業には、漠然とした目標以外にも理由があった。


 実は少し落ち着いてから、僕はコロニーの中の設備を見て回ったのだが、ほとんどが正常に機能しているとはいいがたい代物だったからだ。


 いや、機能は完全にしている。ただ……そのほとんどを魔法で補っている状態だった。


 部品のほとんどは魔法なしには動かない。だから僕には整備の一つもまともにできなかったわけだ。


 しかしそれでは、スペースコロニーの維持管理まですべてシュウマツさんがやり続けることになってしまう。


 その力が底をつくものであったり、疲弊したりするものであるのなら少しでも負担を軽くするために、魔法に頼らないスペースコロニー本来の機能を復活させていこうと言うのが、今のところの僕の目標である。


「まぁ地道に行こう。時間はかかるだろうけど、面白そうだ」


 今後のプランを考えながら、慎重に作業を続けているとすぐに持ち運べる限界量はやって来る。


 牽引して作業用のゲートからコロニー内部に入ると、ピカピカ光る球体のシュウマツさんが出迎えた。


「お疲れ様。どうだったかね?」


「いいね、やっぱりこの辺りの資源は相当豊富だ。含まれている金属も多彩だね。なにより水が多いのもいいよ」


「こんな星から外れたところにも水はあるものなんだね。思ったより早く海も川も作れた」


「しかし大丈夫なのシュウマツさん? それ全部魔法ってやつでやってるんだよね?」


「まぁそうだ。まだ余裕はあるから心配しなくてもいいよ」


 シュウマツさんの声色はなんて事なさそうだが。僕としてはとても心配だった。


「……少しずつでも資源は回収しに行くよ。あって困るものではないから。図面はあるんだ。ひとまず足りない部品を作るのにはどうしてもシュウマツさんの力を借りないといけないけれど」


「ふむ、助かる。しかし一人で回収するのは効率が悪いのではないかな?」


「そのうちどうにかするよ。でも今はまだ無理かなぁ。コロニーに住んでるのは僕一人だからねぇ」


「フーム。……だが時間を無駄にするのもなんだ、私の方でも何か考えてみるとしよう」


「そうだね。魔法の事は僕にはよくわからないから。工夫ならいくらでもあった方がいいよ」


「どうだろうか? 魔法が使いたいというのなら私と契約を……」


「それはやらない」


「……そうかー。契約すれば僕も君も、出来ることが増えると思うのだがなぁ」


「え? 今以上に?」


「そうだが?」


 これ以上ってどんなことになるんだよって正直僕は思ったが、ぐっと言葉を飲み込んだ。


 しかし相当おっかないけれど、いよいよ大ピンチになった時のために契約とやらのことも頭の端っこの方にとどめておくことにしよう。


「……まぁ魔法ならシュウマツさんが使えるんだから、分担していこう」


「それはそうだね。まぁ、そう言う前向きな思考はとても好ましいと思うよ」


 前向きなのは大切である。


 メンタルがやられないように、シュウマツさんとは気安い関係を構築していきたいものだった。


 それに正直に言えば、魔法は非常に興味深い。


 眺めているだけで、僕の中の少年が喝采を上げていた。


「それにシュウマツさんのアイディアも楽しみにしているんだ。なんだかんだ魔法を見るのはすごく楽しいからさ」


「そうかね? そう言われると張り切ってしまうな」


 気楽に僕は笑っていた。


 だが、僕はまだ魔法を甘く見ていた。


 自分の軽率な発言を僕はすぐに後悔することになった。

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