第38話 反撃の一手
聖遺物召喚。
それは神話時代とも呼ばれる太古の昔、悪魔と死闘を繰り広げていた際に地上へと散らばってしまった伝説の宝具。それを手にした物は、神にも匹敵する力を得ると言う。
事実、カケルがデュランダルと契約した時も、それまでとは違う並々ならぬ強大な力を感じた。そうして実際に使用してみれば、カケルが元いた世界の武器(少し語弊があるが)にそっくりだわ、エネルギー切れも無いわ、魔法を打ち消す能力を持ち合わせているわで色々と肝を抜かれたが、そこらの魔法アイテムなど玩具に思えるくらいの性能を保持していた。
ただし、そんな聖遺物も多く存在するわけではない。そもそも太古の時代にあった物が、長い刻の流れに耐えうるはずがない──その殆どが風化して形も残っていない物ばかりだし、完全な状態で現存していたとしても、大抵は強固な封印を施されている確率が非常に高い。おそらく、偶然発見した神の使いや聡明な魔法使いが、邪な人間による悪用を危惧して、厳重な封印を掛けたのだろう。
中には聖遺物特有の強大な魔力に魅かれた精霊などが、我が物顔で守護している場合も多々あるので、並み大抵の力量で入手できる物ではないのだ。カケルが持つデュランダルもそうだったように。
しかし、逆に言えば。
聖遺物を手にしているという事は、つまり相当な実力者という何よりの証拠であり──
「来てくれてありがとう、ミストルティン」
と。
視界を白く染め上げていた閃光が止み、光の残滓が散らつく謁見の間の中で、召喚を終えたアレスが、右手に持つとある物体を労うように、その表面を撫でていた。
聖剣『ミストルティン』──。
しかしそれは、およそ武器と呼べる形状ではなかった。
なんせ、それは柄だけしかなく、刃がどこにも付いていないのだから。
「はっ。何だその玩具は」
それまで事の成り行きを静観していたルトが、そんな嘲りを含んだ言葉を吐き捨てて失笑した。彼女の目には、今しがた召喚した聖遺物がまともな武器として映っていないのだろう。正直言ってカケルも全くの同意見だったので、ルトが嘲笑してしまうのも無理からぬ話だった。
聖遺物召喚と聞いて、いざ蓋を開けてみればご覧の有様。ただでさえ動けるのはアレス一人のみ(もっとも、そのアレス自身も既にボロボロだが)だけだというのに、あんな投擲するぐらいしか使い道のない道具で、どうやってルトに勝とうというのか。
それとも。
あるのだろうか。この絶望的な状況を一変させるだけの勝機が、あの聖遺物に──。
「玩具……か。確かに、見た目だけならそう思うのも仕方ないのかもしれないね」
あくまで、見た目だけならね。
何やら意味深な事を呟いたかと思えば、今度は虚空に手を翳して、アレスはこう続けた。
「君は知らないだけさ。ミストルティンの真の姿を」
「真の姿……だと?」
怪訝に眉を顰めるルトに、フッと冷笑を零すアレス。あれだけ負かされていながらも、決して屈するつもりはなさそうな強気な笑みで。
「これがそうさ。目覚めよ──『ミストルティン』!!」
瞬間。
アレスの言葉に応えるかのように、先ほどまで何ら変化の兆しも見せなかったミストルティンが、突如として煌々と輝き始めた。
ミストルティンを包むように全体を覆っていた光は、やがて刃の無かった空洞部分へと集中し、さながら幾万の星を散らばせるかの如く、天井高く昇っていく。
そうして──
「さあ、これがミストルティンの真の姿だ」
そこには影も形も無かったはずの刀身が、眩い白光と共に顕現していた。
刃渡りは70センチほどだろうか。ルトに折られる前に手にしていた剣よりもやや細身に見受けらるが、しかし十二分に剣と呼称して申し分ない造形をしていた。
つまり、今までのは単に力を解放させていなかっただけで、先の動作でようやくその真価を発揮させたという事なのだろう。
さしものミランとカケルも、この光景を目の当たりにして、驚愕に身を震わせて──
「なんだか、ライトセーバーっぽい感じデスよね」
「スレイヤーズに出てくる光の剣っぽくもあるよな」
いなかった。
「いや、光の剣って。それはちょっとマニアック過ぎやしませんカ? せめて邪王炎殺剣ぐらいにしないと」
「そっちも十分にマニアックじゃねぇか! それなら霊剣って言った方がまだ分かりやすいわ」
「なんデスか、ひょっとして比喩でこのワタシと競うおつもりデスか? そんなに俳句を詠みたいので?」
「死ぬのオレ!? どっかのニンジャみたいに!?」
「死ぬほど恥ずかしい思いをするだけという皮肉デスよ。そんなにワタシと比喩で勝負したいなら、せめてバブルス君を捕まえて、奥義を習得してからにするんデスね」
「界王拳使わないと比喩で勝てねぇの!?」
しかも知能面でなく、肉体面を強化する技のはずなのに!?
「いや、比喩勝負なんてこの際どうでもいいんだよ! それよりも、もっと気すべき所があんだろうが!」
「……それもそうでしたネ。ついつい脱線してしまいましタ。申し訳ありませン」
「まったく。じゃあ話を戻すけど…………やっぱ光の剣の方が、世間的には伝わりやすいとオレは思うんだ」
「まだこだわってんじゃねぇカ」
話しの修正点はそこじゃねぇでしょうヨ、カケルさん。
呆れきった顔でそうツッコミを入れつつ、「問題はあの聖遺物デスよ」とミランは今度こそ話の道筋を戻す。
「一見すると
「んー。同じつっても、オレ以外の所有者なんて初めて見るしなあ。少なくとも、あんな光の刃みたいな性能はデュランダルには無いな。第一、デュランダルには元から刃があるし」
「ワタシはそのデュランダルという聖遺物を見た事がないので何とも言えませんが……しかしなるほど。聖遺物にも色んな種類があるようデスね。ワタシ、気になりまス」
言葉通り、興味深げな視線をミストルティンへと注ぐミラン。研究職も兼任しているだけに、やはりああいった不可思議な物に対する好奇心が人一倍強いのだろうか。人と言うか、ゾンビだけども。
「まあ、あのミストルティンって奴が凄そうなのは分かるけど、でもだからどうしたって感じだよな。窮地に立ってるのに変わりはないし」
「デスね。ルト様も以前無傷のままピンピンしてますし。逆に
「……ほう。なかなか面白そうな物を持ってるじゃないか」
予言通り──と言うよりはミランの懸念通り、そこには先ほど退屈そうな顔が嘘のように、獲物を狙う猛獣のように瞳をギラつかせているルトが、酷薄な笑みと共にミストルティンを眇めていた。
「聖遺物を直に見るのはこれで二度目だが、なるほど。確かにその剣から強大な何かを感じられるな。ククク、面白い──ゴミ虫にしてはなかなか面白い代物を持っているではないか。その唯一の希望が絶たれた時、貴様は一体どんな表情を浮かべるのだろうなあ。実に見ものだ」
「なにあの子超怖い」
この世全ての悪を詰め込んだような酷薄な笑みを浮かべるルトに、若干震えた声で感想を漏らすカケル。そこにカケルと接していた時の可愛らしい仕草などは、微塵も垣間見えなかった。マイケル・ムーアかと思ったら、実はデスタムーアだったぐらいに違いがあり過ぎる。
「なにあれ、アイツどんだけ戦闘狂なの?
「だから何度も言いましでしょウ? ルト様は基本的にバトルマニアだと。それが強そうな相手なら尚更に」
つまりルトのあの嗜虐的な笑みは、アレスを単なる雑魚から少しは楽しめそうな相手だと修正したという事なのだろう。それだけミストルティンに何らかの脅威を感じているといるのか、はたまた、そうさせるだけのアレスが油断ならないのか。
だがしかし、先のカケルの発言にもあった通り、現状アレス一人だけという状況には変わらない。加えて既に満身創痍。あの体では、たとえミストルティンにどれだけの力を秘めていようとも、その真価を正しく引き出せるか怪しいものだ。
「さて、そろそろ再開しようか。楽しい楽しい殺し合いを」
「そうだね。でもその前に──」
ショータイムの始まりだよ。
その言葉が合図だった。突如としてアレスの足元に、巨大な魔法陣が浮かび上がったのだ。
「『聖剣に秘めし大いなる力よ。我が命に応え、従いたまえ』」
粛々と呪文を唱え始めたアレスの周囲を、魔法陣がゆっくり時を刻むように回っていく。淡い光の粒子が火の粉を散らすように魔法陣の中から現れては消える。まるで昔地元で見た花火のようだとカケルは思った。
いや、そんな呑気な事を考えている場合ではなかった。花火もそうであるが、以前似たような光景を──否。むしろそのものを体験した事がある(もっとも、そう何度かあるわけではないが)。
そう。あれは──
「付属魔法っ! 付属魔法だあれ!」
「……? 付属魔法とはなんデス?」
「聖遺物にだけ備わった特殊な魔法の事だよ! あの金髪野郎、付属魔法を使う気なんだ!」
仔細に語るなら、魔法アイテムのように魔力が無くともその力を行使する事ができ、聖遺物にのみ備わっているこの特性を、総じて付属魔法と呼称する場合が多い。
ただし、魔法アイテムのように誰もが簡単に扱えるものではないし、そもそも聖遺物を扱い慣れていないと、発動させる事すらままならない。要は、付属魔法が使えるかどうかは、その所有者次第というわけだ。
つまりアレスは、付属魔法を使えるだけの才に恵まれているという事であり。
そしてそれが、今まさにこの場で発揮されようとしているのだ。この危機的状況を打破する為に。
「付属魔法、デスか。初めて耳にした能力デスが、そんなに凄まじいものなんデスか? ルト様の攻撃魔法のような、最高に灰ってやつになる類いの」
「いや、攻撃だけとは限らない。オレもそんなに詳しいわけじゃないけど、中には時間を止めてしまう聖遺物もあるらしい」
「何を言っているか分からないと思うけど、自分にも何が起きたか分からなかったというやつデスか」
「ああ」
というかそのネタ自体、一部の人にしか分からないと思う。
「まあ、何となく付属魔法とやらの凄さは分かりましたが、それなら尚更こんな所にいていいので? 仮にワタシ達にまで被害に及ぶ攻撃系のものだったら、単純に危なくないデスか?」
「多分大丈夫だろ。それならあの金髪野郎だってただじゃあ済まないだろうし、何より最強無敵の魔王様が防いでくれるだろうしな!」
「さすがはカケルさん。『いざとなればオレが守ってやんよ!』なんて発想は微塵たりとも無いんデスね。可愛い弟子を命懸けで守った、某ナメック星人を少しは見習ってほしいもんデス」
「キッコロさんか……」
「ピッコロさんデスよ。あのモジャ公は関係ありませン」
「ピッコロさんでもコロッケさんでもどっちゃでもええわい! それよりほら! もうじき金髪野郎の呪文が言い終わるぞ!」
ミランとの会話を半ば強引に打ち切り(決して名前を間違えた羞恥を誤魔化す為ではない。ええ決して)、金髪野郎──もといアレスの方へと注意を促す。
「『我招くは聖光。求めるは癒し。我が元に集え、顕われたまえ』!」
カケルの言った通り、アレスの呪文は終盤を迎えようとしていた。足元の魔法陣も前より回転がずっと早くなっており、輝きも一層増していた。
ちなみにこの間、ルトは静観していただけで、一切手を出さなかった。一応、聖遺物召喚時と同じように結界が働くようになってはいるが、ルトなら容易く破る事が出来るはずなのに、その気配すら見当たらない。どころか、待ち遠しげに腕を組んですらいた。これが強者の余裕というやつなのか。ミランの言う通り、単にバトルジャンキーなだけなのかもしれないが。
そんなルトに鋭利な眼差しを向けて警戒を払いつつ、アレスはミストルティンを頭上へと高く掲げた。
「翔べ! 『ミストルティン』!」
その直後だった。ミストルティンの刃が矢のように射出し、天井高く翔び上がったのは。
真上に飛翔した光の刃は、すぐに天井付近でピタリと止まり、やがて散り散りに分かれ始めた。
分裂した光はじきにふよふよと雲のように辺りを漂い、とある地点で静止した。
よく見るとその下に丁度アレス達がおり、その三人を囲う形で広がっているように窺える。
そうして──
「雨……?」
不意にポツポツと降り始めた光の粒子を見て、思ったままを呟くカケル。
雨──まさしく雨としか表現できない光景が、カケルの眼前で広がっていた。
光の雲から突発的に降ってきたその雨は、真下にいるアレス達三人へと注がれ、地や体に触れては仄かに燐光を散らして消えていく。
雨と言っても本当に水滴が降っているわけではないらしく、濡れているようには一切見えない。むしろどこか心地良さそうな──寒い冬の日に暖炉の火に身を寄せているかのような、そんな安らかな表情すら浮かべている。それはまるで、溜まっていた疲れや傷が次第に癒えていくかのようで──
「いや、ようじゃない! 本当に怪我が治っていってる!?」
間違いない。光の雨がアレス達に触れる度、それまで受けていたダメージが治癒しているのだ。その証拠に、つい先ほどで意識を失っていたリタとカンナが、ピクっと僅かながらに体を反応させていた。してみると、やはりあの付属魔法は──
「なるほど。あの光には怪我を治す効果があるみたいデスね。侮り難し、ミスティンティン」
「ミストルティンな。それ完全に下ネタだから」
正直、女性の下ネタはやめてもらいたい。男同士で冗談混じりに言い合うならともかく、異性の下ネタはリアクションに困る。
「んな事より、まだあんな隠し玉を持ってやがったなんて。こうなってくると、他にもまだあんじゃねぇのか?」
「それはどうでしょウ。様子を窺うにあれが本当に最後の切り札って感じデスし、武器の類いなら当に使っているはずでしょうしネ。まあ仮にあったとしても、敵であるルト様にわざわざバラすものでもないでしょうし、せいぜい警戒するぐらいしか対処法はないんじゃないデスかね」
「バラモスじゃない、か……」
「バラモスなんて言ってねェ。バラすものじゃないって言ったんデスよ」
つーか、何でいきなりバラモスが出てくるんデスか、とすかさずツッコミを入れるミラン。
「にしてもあの付属魔法とやら、随分と厄介な能力デスね。この先何度も使用されるとなると、面倒この上ないデス。しかしまあ、ルト様ならどうでもしちゃうんでしょうけど」
「いや、使うとしてもあと二~三回って所じゃないかな」
「? どうしてそんな事が言い切れるんデス?」
「だって、あれは────」
「…………うぅ。」「ん……。あれ、一体どうなってんス……?」
と。
それまで気を失っていたリタとカンナが、か細い呻き声を上げながら、のっそりと起き上がった。目覚めたばかりでまだ意識がはっきりしていないのか、心なしぼんやりとした面持ちをしているが、目立った外傷は無い。どうやらあの光の雨のおかげで、完全に傷は癒えたようである。ただ一人を除いて……。
「確かウチ達、魔王にあっさりやられて、それで……」
「っ!? まさか──!」
カンナ同様、いまいち状況が呑み込めていない風だったリタが、途中で何かを察したように、前方で背を向けているアレスに目を向ける。
「アレス様!!」
「……やあ、リタ。それにカンナも。どうやら無事に魔法が効いたみたいだね」
リタの呼び声に、アレスが微笑を浮かべながらゆっくり振り返る。
だらだらと止めどなく流血する片目を手で押さえながら……。
「アレス様、その目……!?」
「ああ、どうやら持っていかれたらしい。心配しなくても大丈夫。不思議とそんなに痛みは無いから」
「大丈夫じゃありません! 全然大丈夫なんかじゃありませんよ……!」
「そうっスよ! ウチらの為に、こんな……」
慌ててそばに掛け寄ったリタとカンナが、アレスの痛ましい姿を見て声を張り上げた。
そんな三人のやり取りを見て、「やっぱり……」と何かを納得したようにカケルは呟きを漏らす。
「……? やっぱりとは? 三人共怪我が治ったはずなのに、あの金髪勇者だけがルト様にやられていないはずの目から出血しているのと何か関係がおありで?」
「ああ。多分あの目、代償で持っていかれたんだ」
「代償……?」
「付属魔法ってのはな、魔力を消費しないからオレみたいな魔法が使えないヤツでも扱えるんだけど、その代わり別の物を捧げなきゃいけないんだ」
詳しくは本人に訊くなりしないと分からないが、おそらくアレスの場合だと、その代償は片目だったという事だろう。聖遺物の中には人の命を代償として捧げなければならないので、それに比べたらまだマシな方だと言えるだろう。どのみちえげつないのに変わりはないが。
「なるほど。どうやらその治癒魔法には、何かしら
一連のやり取りを見て、ルトも察しが付いたのだろう──興味深げに眺めながら、ハッと嘲笑を零しながら言葉を継ぐ。
「仲間の為に片目を失う、か。見上げた自己犠牲精神だな。次に使う時は、完全に失明する事になるが、それでも貴様は躊躇いなく使うつもりか?」
「それはどうだろう。そもそもこの付属魔法は身体の一部をランダムに持っていかれる仕様だからね。次は別かもしれないし、また目かもしれない」
けれど──と押さえていた目から手を放し、代わりにミストルティンを握り直して、再び光の刃を出現させてこう言い切った。
「彼女達の命が危うくなったら、僕は躊躇いなくまた付属魔法を使うよ」
「アレス様……」
「申し訳ないっスアレス様。ウチらが不甲斐ないばかりに……」
悲痛そうに表情を陰らすリタとカンナに、「そんな事ないよ」と柔和な笑みを浮かべてアレスは語りかける。
「むしろ謝るべきはこの僕だ。主人たる僕が従者を守れないなんて、主人以前に男として失格だ」
「それこそありえないっスよ! アレス様は何も悪くないっス!」
「カンナさんの言う通りです。いつだってアレス様は、私達の為に懸命に必死に命懸けになって守ってくれたじゃないですか。」
そこまで言って、リタとカンナもアレスの両腕に頭を預け、温和な口調でこう続けた。
「今度は私達が守らせてください。頼ってください。縋ってください。アレス様の為なら、何も惜しくありませんから。」
「アレス様の剣にも盾にも、身代わりにすらなる覚悟だって出来てるっス。ウチ達にとって、アレス様は全てなんスから」
「二人共……。ありがとう……」
心の底まで染み渡ったかのような、そんな情愛に満ちた感謝の念を述べるアレス。端から見ると温かい家族のような──いや、実際彼らにしてみれば家族そのものだろう。そんな美しい光景が、殺伐とした風景の中で当たり前のように存在していた。
「人生最後の団欒は済んだか?」
と。
太陽の温もりさえ一瞬にして消え失せるかのような絶対零度の一声がアレス達に降りかかる。
「さあ、休息はもう十分だろう。そろそろ
「無粋だね。家族との談笑を横から邪魔するなんて」
ルトの殺気に当てられたせいか、それまで和やかなムードを漂わせていたアレス達が、それぞれ武器を持ち直して臨戦態勢に入る。
「でもまあ、異存はないよ──!」
言うが早いか、三人の中でいち早く駆け抜けるアレス。その後を追うように、リタとカンナも邪悪に口角を吊り上げたまま微動だにしていないルト目掛けて直進する。
「さて、リベンジマッチ再開と言った感じデスが……」
アレス達が飛び出したのを見届けてから、ミランは瞼を閉じて肩の張りを揉みほぐしながら、およそ緊張感の無い(もともとこいつに緊張とか無縁っぽいが)口調で横にいるカケルに話しかける。
「この分だと心配する必要なんて微塵もなさそうデスね。勝敗は既に見えているようなものデスし」
「……だな」
首肯するカケル。
いくら相手が聖遺物を所持しているからって──仲間の傷すら癒す付属魔法があったって、ルトの前では何も意味を為さない。
それだけルトは絶対で。
とにかく無敵で。
何より──今更説明なんて不要なほど、最強なのだから。
と。
この時はまだ、そんな風に深く考えもせず呑気に構えていた
勝手にルトの最強性を信用して、ミラン共々結論付けていた。
まさかあのルトが──世界最強の魔王が、アレス達に敗北する未来が訪れるなど露も知らずに……。
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