韓国顔のラノベオタクが立派なリア充になるまで。

汗臭男

韓国顔の男子高校生について


すぐ上の電柱にはスズメがとまり、心地よい声で鳴いている。


広い空は良く晴れ、冷たく肌に刺さるような空気も心なしかマシに感じられる。



新学期の始まりにはピッタリな朝の陽射しを浴びながら、舗装が剝がれかけのアスファルトの上、駅に向かって、はたまた駅とは反対方向の学校へ向かって早足で行き交う人々が、ただでさえボロボロなアスファルトに追い打ちをかけるように歩いている。





そこに、一際目立つ男がいた。



今の時代には珍しい『歩きスマホ』ならぬ『歩き読書』をしながらも、ごちゃごちゃとした人ごみの中をするりするりと綺麗に躱しながら歩いていく。その動きからは、歩き読書に慣れていることが伺えた。


高校生と思われる制服(比較的真新しい)を息苦しさから解放するように開けられた襟元のボタン以外、着崩すのきの字も知りませんという素振りでカッチリと着用しているのに、一度結んだものをずっと再利用していることが感じられるネクタイはバランスが悪く残念な形になっている。


最低限の身だしなみにしか気を付けていないのか重力に逆らい天に向かって伸びている立派な寝癖を頭につけて、本しか見ていないその男は、緑に塗られた校門をくぐり抜け、昇降口へと向かっていく。


1年、とマッキーの太字で何度も重ねて書かれたであろう文字がドンとかまえる下駄箱に着くと、今読んでいたであろうページに指を挟み、本を片手で持ち、職業にしても生きていけそうな速さで上履きに履き替えると、再び本の世界に没頭し始めた。


その男は、わいわいがやがやと青春真っ盛りの喧騒に包まれた空間のなか、少し長めの階段を危なげなく上り、本から目を離さず1番手前の教室に入っていった。


扉の上にはよく目にする堅苦しいフォントで刷られた1-4の文字。恐らくここが彼の教室なのだろう。


教室に着くとようやく顔を上げ、小さなため息を一つ溢したかと思うと真っ直ぐ黒板に向かっていった。黒板には、大きな「座席表」の文字。白チョークで教卓を上としたときの座席が書かれていた。


初めてちゃんと見ることのできた顔はプリクラでも撮りに行けばそこらの女子よりも盛れそうな韓国顔で、骨ばった男らしさもある。まぁ、行動を見る限りプリクラなど撮りに行く相手も機会もありはしないだろうが。



3秒程度彼の視線が忙しく動いた後、自分の名前を見つけたのか視線が固定された。

その視線の先には、『神田かんだ』の文字。神田青年は暫く自分の周りの席を確認し_



____少し目を見開いた。




何が彼を動揺させたのかは分からないが

それも一瞬のことで一度諦めたように首を振ると、



「また近くがよかったね~、残念~」

「よっしゃ!!これでいつでもスマ○ラの話しできる!!」

「ぼぼぼぼぼくの席...あまたんに近い...!デュフデュフ」


と教卓に群がって騒ぐ集団を邪魔だと鬱陶しそう切り分けながら



窓際の1番前、『神田』の席に着席し、無駄に良い背筋で本を読み始めた。

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