魔法猫少女ののんきな戦い ~佐賀県鍋島、化け猫騒動編~

無月弟(無月蒼)

ぜんぺん🐾

 ここは佐賀県にある鍋島町。


 ぽかぽか陽気の春の午後。私、三毛山コネ子は中学校の帰りに、通学路の途中にある空き地の前で足を止めていた。


 ふふふ~、可愛い~、たまりませんなぁ~。


 によによと幸せな笑みを浮かべる。

 視線の先にあるのは、小さな空き地。

 その中には、数匹の猫が気持ち良さそうにお昼寝をしていて、とっても可愛いの。


 私、猫が大好き。可愛い猫ちゃん達を見てると、心が癒されるもん。


 だけどこの鍋島町には、猫に関する怖いお話があるの。

 何でも江戸時代、飼い主を殺された猫ちゃんが敵を打つため、化け猫になって相手の所に化けて出たのだとか。


 けど結局その化け猫も、最後にはお侍さんにやられちゃったんだって。悲しいよね。


 けどそれも昔の話。今は平和なんだし、こうして猫ちゃんを眺めていたら、私は幸せ……。


「ミ ツ ケ タ ゾ」


 え、何?


 突然後ろから低い声がして振り返ってみると、衝撃の光景が。

 そこには3メートルを越える、すっごく大きな猫がいたんだよ!


 な、何これー!

 しかもその猫は鋭い牙を光らせて、血みたいに真っ赤な目をしている。


 ひ、ひぇ~! 猫は好きだけど、さすがにこれは怖いよ~!

 そもそもこの巨大猫は何なの? ひょっとして、昔話で出てきた化け猫ってやつ? 

 化け猫って、実在したの!?


 そして驚いて固まっていると、化け猫は腕を振り上げてくる。


「我ガ恨ミ、今コソ晴ラス!」


 鋭い爪が、私めがけて振り下ろされる。


 わーん、このままじゃ死んじゃうよー!

 大好きな猫ちゃんに殺されるなんて嫌だー!

 だけど逃げなきゃいけないって分かってるのに、足が動かない。

 と言うか、恨みって何!? 覚えがないんだけど!


 だけどその時、私と化け猫との間に、小さな影が割って入った。


「伏せろ!」


 その言葉で、動かなかった足が動いて、急いでしゃがみこむ。

 そしてやってきた影は化け猫に体当たりをして、スタッと地面に着地した。


 どうやら助けてくれたみたいだけど、その影の正体は……。


「え、また猫?」


 それは黒々とした毛並みをした、普通サイズの可愛い猫ちゃん。

 化け猫と違って、普通の黒猫だ。ただ……。


「怪我はないね。ボクの名前はミー。さあ、今のうちに逃げるんだ!」

「ふえ? ね、猫が喋った!?」

「こんな大きな化け猫がいるんだから、猫が喋ったくらいで驚かないでよね。いいから逃げるよ!」


 いや、驚くよ。と言うかあれ、やっぱり化け猫なんだ。

 けど確かに今は、逃げなきゃいけない。

 体当たりを受けた化け猫が怯んでいる隙に、ミーと一緒に背を向けて走り出す。


「もぉ~、何なの~! あの化け猫、恨みって言ってたけど、私何もしてないよ~!」

「落ち着いて。君は何もしてなくても、向こうには理由があるんだ。君、三毛山コネ子だよね。昔ここ鍋島で起きた、化け猫騒動の話は知ってる?」


 逃げながら話すミーに、コクンと頷く。


「さっきの奴は、その伝説の化け猫。何百年の時を超えて復活したんだ。アイツは、『ニャミ堕ち』した猫なんだよ」


「え、『ニャミ堕ち』って何?」

「怨みや怒りで、闇の道に堕ちた猫の事だよ」

「それって普通に、『闇堕ち』でよくない?」

「細かい事はいいの。アイツはかつて侍にやられて、長い眠りについていた。だけど復活して、昔自分を倒した侍の関係者を襲う事にしたんだ。その最初のターゲットが君なんだよ、三毛山コネ子」


 侍の関係者って、私が?


 だけど昔話は知ってるけど、お話に出てくるお侍さんとなんて、会ったことがない。

 あ、でももしかして……。


「それってひょっとして私が、昔化け猫を退治したお侍さんの子孫ってこと!?」

「近い……だけどちょっと違う。君はかつてあの化け猫を退治した侍の、従兄弟の更に従兄弟の友達の近所の人の子孫なんだよ」


 え、従兄弟の更に従兄弟の友達の近所の人の子孫って……他人じゃん!


 嘘でしょ、そんな理由で命を狙われてるの!?


「私完全に無関係だよね! 言っちゃなんだけど、狙うならそのお侍さんの子孫にしてよ!」

「もちろん奴もいずれはそうする気だよ。だけどまずはあえて関係の薄い人から襲っていって、だんだんと直径の子孫に近づいていって恐怖を煽る。それが狙いなんだ」

「巻き込まれた方はたまらないよ。そもそも私が襲われても、そのお侍さんの子孫は繋がりが分かるかなあ? それにこんなに遠いと、本命に辿り着くのはいつになるか」

「うーん、もしかしたら途中で飽きちゃうかもね。猫は気まぐれだし」


 ダメじゃん! もしそうなったら、私襲われ損じゃん!


「ところで、さっきから喋ってるアナタは何なの? ひょっとして、ミーも化け猫?」

「違う、ボクは猫教会に所属する猫妖精。ニャミ墜ちした猫を何とかするのが、ボクの使命。だから君を助けにきたんだ」

「猫教会とか猫妖精とか、全然分からないんだけど!?」


 話をまとめると、猫教会って所に猫妖精が所属していて、猫教会はニャミ堕ちした猫ちゃんを取り締まる組織って事でいいのかなあ?


「余計なことは考えなくていいから、さっさと走る。それにしても、助けに来るのが遅れて危なかったよ。こんな事なら、日差しの暖かなスポットを見つけたからって、お昼寝するんじゃなかった」

「ちょっと、寝坊して遅れたの? 猫教会の使命は! 私危うく、死ぬところだったんだけど!」

「結局間に合ったんだから、文句言わないでよ!」


 そりゃそうだけどさあ。

 ミーってば可愛いけど、頼りになるのか分からないや。


 あ、でも走ってるうちに、化け猫からは逃げられたみたい。

 私達は天神公園って言う公園までやってくると、そこでいったん足を止めた。

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