【短編】宇宙の果てよりプロテアのブーケをあなたに

秋桜

例え離れても私達は──

『雪乃家全員で遠くの惑星に引っ越す事が決まった』


 そう言われたのは私が6歳になる4ヶ月前──11月始めの事だった。


 当時、私はまだその年の誕生日が来ていなかったので5歳。あの子はその年の誕生日は終わってたので6歳。


 当時から日本では身分問わず『固有異能力検査』が小学校入学直後に全員一斉に行われる決まりになっていた。

 なので小学校入学前だった私達は検査はまだだったが、以前から固有異能力らしき力が使えていた私達はお互いにお互いが固有異能力持ちだと知っていた。


 だからなのか、私達は周囲の子達の輪からは外れて特別仲が良かった。


『ママが入学してからになるよりも今すぐ行くって…』


『そう、ですか…』


『1度いったらとおくて地球にはもう戻ってこれないところにある星だから…もうあえないって…』


『それはほんとうですの!?  』


『うん…』


 急に決まった引っ越しだった。


 だから…次の4月から同じ小学校に入学して一緒の学校に通うという事で、入学準備のための買い物にもすでに一緒に行ってしまっていた後だった。


 こうして…物心ついた頃からいつも一緒にいた私達はあの日──


『とおくにいってもわすれないでね…』


『わすれません…ぜったいに、だいじょうぶですわ…』


 ──宇宙エレベーターを上った先にある地球ステーション。


 そこで永遠となるだろう別れをした。




 あれから約10年。


すみれお嬢様、本日も向かわれるので?  」


 もうすっかりお決まりとなったその問いかけ。


「はい、テレポーターをお願いします」


「かしこまりました」


 使用人の女性から"菫お嬢様"と呼ばれた少女。


 彼女は太陽系外の惑星に引っ越した幼なじみ"雪乃ゆきのしずく"からの連絡が来てるかどうかの確認をしに、今日も東京都営宇宙エレベーター併設の日本宇宙通信管理局へ向かう。


「菫お嬢様、起動できました。本日は直通テレポーターが空いておりましたので乗り換えの必要はありません」


「そうですか、ありがとうございます…」


 我が家の使用人である戸塚さんのその言葉に今日はついてると思い、私は少し嬉しくなった。


「今日こそは届いているといいですね…」


「はい…! 」


 我が家所有のテレポーターは玄関を出て1分ほど歩いた先の敷地内にある。


 家でテレポーターを所有できるのは限られた富裕層だけだが菫の能城のしろ家は日本有数の名家なので自宅に設置型のテレポーターが複数ある。


「雫様が引っ越されてもう10年ですか…」


「えぇ…当時私達は5歳と6歳でしたから…そのくらいですね」


 そんな私も今度来る3月で15歳。4月からは高校生だ。


 そして雫さんが引っ越した先の星は地球からはるか遠くの星だ。

 そのため、その星に向かう間は超巨大宇宙船の中で暮らすらしい。引っ越す事を打ち明けられた日に雫さんからそう聞いた。


「あの便はホワイトホールを経由されると伺ってますし…そろそろ引越し先の星にご到着されてもおかしくない頃ですが…」


 ホワイトホールとは宇宙空間にあるワープホールの出口の方を指す。


 今から約1000年前にとある研究機関がブラックホールには出口がある事を発見した。それにホワイトホールと名付け何百年もの時間をかけてそれを運用できるようにしたらしい。

 それが現代で物の輸送の一部や人の移動に活用されているワープホールの正体だ。


 そしてそんなブラックホールからホワイトホールは一方通行だ。だが距離などを無視してワープできるためとても有用らしく、それを経由する事で遠くの場所でも短時間で行く事ができると聞いた。


「戸塚さん、私『今日こそは連絡が来てるような気がする』んです」


 私は自身の固有異能である『力を込めて口にした事が現実になる』力を使ってそう言った。


 と言うのも、今朝は起きた時からなんだかいい事が起きそうで…なんだか、そわそわした気持ちが抑えきれない。

 だから、今日こそは雫からのメッセージが来てるような気がしたからだ。


 力を全開にしてはいないので『現実となる可能性が上がった』程度だがあるとないのとでは天と地ほどの差があるだろう。


「そうですか…能力に目覚められてからずっとお嬢様のその手の予感はよく当たりますから本当に来てるかもしれませんね」


 菫の力について詳しくは知らない戸塚がそう言った。


「はい! 」




 *




 本家筋の人とその護衛しか使えない専用のテレポーターに乗り、ここ能城家本邸から約10km離れた所にある…東京都営宇宙エレベーターへ瞬間移動する菫。


 到着してすぐ、テレポート直後特有の衝撃と酔いに頭をおさえて耐えていると、いつもの女性職員が駆け寄ってきた。


「能城様おはようございます!  ようこそお越しくださいました、実は──」


「貴方! 菫お嬢様に向かって無礼ですよ!! 」


「いえ、いいんです戸塚さん…それよりもメッセージはきましたか!? 」


 能城家次期当主内定の身としては少々はしたないとわかっていつつも、はやる気持ちが抑え切れずに私はそう尋ねた。


「はい、雪乃雫様からのメッセージが1つ」


「本当ですか!? 」


 普段は良家の息女らしく言葉遣いに気をつけているが、この時ばかりは嬉しくて大きな声を上げてしまった。

 声を上げてすぐに私はしまったと思った。

 だが、戸塚さんも今日ばかりはずっと待っていた私の気持ちを察してくれたのか、特別に目をつむってくれた様で何も言わずにいてくれた。


「ふふふ…はい、昨晩遅くに届きましたよ」


「では、早速メッセージが読める場所まで案内してください…! 」


 私はずっと待ち望んでいた知らせを聞いて、テレポート酔いも忘れて職員の人にそう頼んだ。


「かしこまりました、能城様。こちらです…」


 こうして歩き出した職員の人について菫は歩き出した、その途中。


「よかったですね、菫お嬢様」


 職員との会話を微笑ましそうに見ていた戸塚が菫にそう話しかけた。


「えぇ、毎日通ったかいがありました…」


(雫さん…お元気でしょうか… )


 宇宙エレベーターの入口ロビー、その左手の通路の先にある日本宇宙通信管理局。

 その受け取り専用窓口へと向かう道中、私は薄れつつある幼なじみの顔を思い浮かべていた…




 *




「着きました、こちらで今後についてのお手続きができます」


 技術の進歩により、メッセージだけなら例え宇宙の果てからでも一瞬で届くようになった現代。


 別の星から来た連絡は各地にある『宇宙通信管理局』に1度集約される。


 そのため、それを直接自分の端末に届く様にするには個別に手続きが必要だった。


「──ここを押したら全ての手続きは完了ですか? 」


「左様でございます。これからはここに届いたメッセージは自動で能城様の端末へと自動的に転送されます…」


「そうですか…ありがとうございます! 」


 私は職員に微笑んでお礼を言うと来た時と同じテレポートで帰路に着いた。




 *




 帰宅後、自室に戻った菫は早速雫からのメッセージを見てみる事にした。


 ───────────

 すみれちゃん、お元気ですか?

 こちらはようやく最後の長距離ワープが終わり、これから暮らす星に到着した所です。

 こちらの星の空は地球の青空とは少しちがいますが、それでも…久しぶりに見るホログラム映像ではない本物の空はやはりいいものです!


 すみれちゃんの所は今ちょうど真冬らしいですね…

 今年はとても冷えているともうかがいました。

 風邪などひかれませんよう…ご自愛ください。


 雫


 P.S.

 メッセージならすぐに地球まで届くということはうかがっていますが、それでもやっぱり不安です…

 このメッセージがちゃんと届いていたら早めにお返事くださるとうれしいです。

 ───────────


「雫さん…お元気そうです…よかった」


 メッセージを読んだ私は早速今から返事を書こうと端末を起動させた。


 ───────────

 雫さん、お久しぶりです。

 無事に到着したと聞き安心いたしました…

 今年の東京は雫さんのおっしゃる通りとても寒く例年以上に冷え込んでおります。


 ですが、私はとても元気に充実した日々を過ごしておりますのでご安心ください!


 もうすぐ年の瀬という事もあり、私自身含め周囲がバタバタとしている事も寒さをあまり気にしないで居られる理由かもしれません。


 そう言えば…ふと気になったのですが、そちらの星では季節の催しなどはあるのでしょうか?

 星によって気候や環境、文化も違うと言いますが実際がどの様な感じなのか…

 ぜひ聞いてみたいです!


 そして、環境と言うと…周囲の環境が変わると体調を崩しやすいと言います。

 貴女は溜め込んでしまうタイプなので私はとても心配です…

 雫さんもどうかご自愛くださいね。


 菫

 ───────────


「誤字は…ありませんね。『送信』っと!  」


 私は内容に間違いがないかを3度確認してから送信した。


 遠くの惑星にメッセージを送るのはとても通信料が高いので、間違えたからと言って気軽に2度目が送れないからだ。


 まあ…通信料という面だけ見るならば能城家は名家なだけあってとても裕福だ。

 だから例え宇宙の端に何回メッセージを送ろうと経済的には何も困りはしない。


 それでも、そもそも料金が高いのは回線の混雑を防ぐという理由がある。

 だから…いくらお金があるからと言ってもそもそも日に送信できる回数そのものが決まっている。


 1家庭につき1日2回だ。


 そしてその内、菫が自由にしていいと言われているのは1回だけ。


 そう言った理由もあり、私でもお金があるからと言って何回も送ったりはできない。


 また、するつもりは無いが能城家の名を出せば多少のゴリ押しは簡単にできるだろう。


 だが将来、能城家の名を背負って立つ者として私用で公共の回線を占領する事は論外だ。


 菫はそんな事を考えつつも端末の画面を消した。


「雫さんからのお返事は早くて明日ですからいつも通り過ごさなければいけませんね…」


 決意する意味も込めてそう言った私だったが、その日一日そわそわと落ち着かないせいでお稽古でいつもより多く叱られた。




 *




 それから2ヶ月が経った。


 その頃になると、最初はどこがぎこちなかったメッセージのやり取りにもお互いが慣れ、かつての頃の様に話せる様になっていた。


 そんな2月の終わり頃──


 菫宛に1つの小包こづつみが届いた。


「宛名は…雪乃…雫さんから!? 」


 雫が引っ越した星と地球は距離があり物を転送するのにも莫大なコストがかかる。


 費用もそうだが、何より問題となるのは時間だ。

 ある程度以上距離があると物流専用ラインの大型テレポーターで送ることになるのだが、それでもかなりの時間がかかるのだ。


 人を含めた生き物を輸送する事と比べれば物の転送は気をつける点も少なく短時間ですむ。

 だが、それでも雫いる星からは約2ヶ月かかる。


「配達にかかる時間を考慮すると…メッセージのやり取りを始めてすぐの頃にこちらに送ってくれたんでしょうか」


 私は小包と一緒にメッセージカードも付いていたのでそれを開いた。


 ───────────


 Happy Birthday!!!


 よく似合いそうだと思ったのでお誕生日のプレゼントに送ります。

 少し早いけど遅れるよりいいよね!


 雫

 ───────────


 私が産まれた時、名前の由来にもなった花が咲いていたという…そんな私の誕生日は3月2日。だから確かにまだ少し早い。


 けれど、誰かにプレゼントを貰えると思ってなかったからすごく嬉しい。


「雫さん…ありがとうございます…」


 1人の室内でポツリとそうつぶやくと小包の中身を確認した。


「これは…ペンダント型の貯蓄具…」


 すみれの花を模した紫色の石が使われている。

 その石がそのまま、力の貯蓄ができる特殊な宝石となっている様だ。


「しかもこの色は…かなり質のいいものですね…」


(そういえば…引っ越し先の星は超貴石の産地として有名な星でしたか… )


 超貴石とは今から数百年前に見つかったもので、不思議な力が込められていたり、力が増幅したり…

 石によって効果は様々だが、どんなものでも超貴石と言うだけで地球では値が張る。


「これは貴重な物をいただいてしまいました…早速雫さんにお礼を伝えなくてはいけませんね! 」


 私は端末を操作してメッセージ記入画面を開いた。


(えっと…雫…さん、へ…っと! )


 ───────────

 お誕生日のプレゼントありがとうございます。

 とても素敵なネックレスで毎日つけようと思います!

 私とても嬉しかったので、雫さんも次の自分のお誕生日…楽しみにしていてくださいね。


 菫

 ───────────




 *




 宇宙の果より送られて来た誕生日プレゼントを貰ってから3週間。


 菫は高校入学のための準備の買い物に、数年に一度帰ってくればいい方という両親の代わりに戸塚を連れてショッピングモールに来ていた。


 菫が入学する学校は力の強い子ばかりが集まる全寮制の学校。


 そのため、普通の学校よりも少々入学準備が大変なのでそれを1度でなるべく済ませてしまおうというわけだ。


 始めは高校在学中の3年間菫がずっと使うことになる物を庶民と同じショッピングモールで買う事に難色を示していた戸塚。


 だが、『一日で全てすませてしまいたい』と熱心に伝えると渋々ながら了承してくれた。


「菫お嬢様、次のお店が最後です」


「そうですか、思っていたよりも早く済みましたね…」


「次のお店は受け取るだけです。そのためこれまで以上に早く済むかと思いますが…どうされますか? 」


 戸塚さんにそう言われた私は周囲のお店をキョロキョロと見渡してみる。


「そうね…せっかく来たのだしひとつくらいお店をみてみようかしら」


 来るまでは乗り気では無かった戸塚さんも来てみたら楽しかったようですぐに私の提案に賛成してくれた。


 こうして戸塚さんと2人周囲を見ていると、1つ…可愛らしい雑貨屋が目に止まった。


 軽く感知してみると商品から力の波動を感じるので超貴石を使った商品という事もわかる。


「戸塚さん、あちらのお店を少し見てみてもいいですか? 」


 もしかしたら雫さんのお誕生日にピッタリのものが見つかるかもしれない。

 今日買って速達で送れば…雫さんの住む星に届く頃にはちょうど雫さんのお誕生日だ。


「超貴石が使われた雑貨のお店の様ですね…」


「えぇ」


 そう返事をしながら菫は店内を見渡していく。


 すると、1つ…とても惹かれるものがあった。


 美しいピンク色のプロテアの花のドライフラワーをブーケにした置物タイプのお守りだ。


 ピンク色のプロテアの花言葉は『王者の風格』。


 花と同じ色のピンク色の超貴石からは守護の力も感じる。


「これほどピッタリのものはありませんね…」


 私達2人は自身の名前に花が使われている者同士、お互い花が好きで花言葉を調べて遊んでた時期がある。

 だから何も言わなくてもピンク色のプロテアの花言葉は雫さんにも伝わるだろう。


「これにしましょう」


「そちら、買われるのですか? 」


 菫が『雫へのプレゼントを探していた』とは知らない戸塚が突然買うと言い出した菫に不思議そうに尋ねる。


「はい…もう少し悩むかと思ってましたがピッタリのものがすぐに見つかったのでこれにします」


 私達二人につきあっていた戸塚さんも花言葉には詳しい。

 だから私がわざわざこれを選んで買う理由がわからないのか、物言いたげな視線を向けてくる。

 私はそんな戸塚さんに気づかない振りをしつつ、店員を呼んで誕生日プレゼント用に包んで貰う。


 そして、支払いを済ませ店を出てから戸塚さんに話しかけた。


「先程、最後のお店で受け取ったら本日の予定は全て終わりと言ってましたよね? 」


「はい、そうですが…何が寄りたい所でもできましたか? 」


「えぇ、家に帰る前に都営宇宙エレベーターまで」


「宇宙エレベーター…ですか? 」


「すぐに済みますから戸塚さんは家で待ってくださればそれでかまいません」


「そうですか…かしこまりました。宇宙エレベーターに寄ってから帰ると家の者達には伝えておきますね」


 戸塚はそう言って自身の端末を操作し、家で待機している使用人達に予定の変更を伝えた。


「それにしても…菫お嬢様は本当に星がお好きですね」


 宇宙エレベーターへ行きのテレポーターがある場所までの道中、戸塚がそう言った。


(星、ですか… )


「そうですね…地球ステーションから見る光景などは特に忘れられません…」


 私は過去2人で見た記憶を思い出しつつそう返した。


「あぁ、それでしたら私も見た事があります! 地上からは決して見れないとても綺麗な光景でしたね…」


「そうでしょう? だから──っと、テレポーターに着きましたね」


「菫お嬢様、私はこのままこの荷物を持って1度帰ります」


「そうですか、わかりました──あ、待ってください! 先程買ったそれはこちらにください」


「これですか? 」


「えぇ、誕生日プレゼントなの」


 私がそういうと戸塚さんがかたまった。


「え……た、誕生日の、プレゼント…ですか? 」


 戸塚さんは若干青い顔をしている。


 あまりにも青いので、本来ならば駆け寄って心配する所なのだろうが、私はそんな戸塚さんを見て安堵した。


 これまで"菫"が産まれてから…一番長く一緒に居た戸塚さんが今の今まで気づいて無かったのならば。

『もう大丈夫だろう』と、そう思えたからだ。


「はい、今から送ればちょうどいいタイミングで着きますから」


 私はにっこり笑ってそう言うと、固まる戸塚さんを放置して東京都営宇宙エレベーター行きのテレポーターに乗った。




 *




 少し前まで毎日のように顔を合わせていた東京都営宇宙エレベーターの女性職員さんに案内され、入口ロビーの右手側の通路の先にある日本宇宙物流管理局へと向かった菫。


「こちらを速達で『雪乃 雫』さん宛にお願いします」


 私は転送荷物の受け付けをしているカウンターでそう伝えて、荷物を配達してもらう為の手続きを進めていく。


「──ご記入ありがとうございます、確認いたします…速達ですね…距離がありますので速達でも1ヶ月以上かかりますが大丈夫ですか?  」


「ワレモノですがナマモノではありませんので大丈夫です」


 菫がそう言うと受け付けの職員は『ワレモノ』の欄にチェックを入れた。


「かしこまりました。では、こちらでお手続きは完了いたしました…」


「そうですか、ありがとうございました。荷物をよろしくお願いいたします…」


 私がそう返事をしたのを確認した職員は一礼した後に厳重に包装された贈り物を持って奥へと引っ込んで行った。


「これで誕生日にちゃんと間に合いますね…」


 私はプレゼントに一緒につけたメッセージカードの内容が嘘にならなくて済みそうだとほっとした気持ちでそうつぶやいた。




 *




 ──それから1ヶ月半後、地球からはるか遠く離れた星にて。


「雫〜?  菫様からお届けものが来たわよ〜?  」


「本当です…ごほんっ! 本当!? 」


「あらあら、嬉しそうにしちゃって…雫ったら地球を出発する時は大泣きだったものね…」


「もうママ! そんな前の事でからかわないでよ! 」


「前の事って…ふふっ…おかしな子ね。まだじゃないの…」


 クスクスと笑ってそういう雫の母から届いたばかりの贈り物を受け取る雫。


 この場で開けてしまいたい気持ちをぐっとこらえて自室に戻った。


「菫からの贈り物は何かしら? 」


 丁寧な所作でプレゼントを開けて中を見た雫は目を見張った。


「可愛い置物だわ…メッセージカードもついてるのね…」


 雫は一緒に付いていたメッセージカードを開いた。


 ───────────

 お誕生日おめでとう!

 宇宙船の中では時間の流れがゆっくりになると聞いたから雫はまだ6歳のまま…

 もうすぐ小学校入学かしら…


 住む場所が遠く離れて、歳も離れてしまったけれど…それでも私達はずっと親友よ。


 きっともう二度と会う事はできないけれど、あなたのこれからを想って、このお守りを贈ります…


 菫

 ───────────


「しずく…いえ、すみれちゃん…」


 "雫"は自分の異能である『他人と記憶を共有しつつ、2人の心と魂を入れ替える能力』で自分の代わりに"菫"になってくれた友人の顔を思い浮かべた。


 しずくちゃん…すてきなプレゼントありがとう。

 そして…さようなら──


 "雫"は貰ったばかりの贈り物をじっと見つめたまま、涙をこぼした。




 *




 その後、時間という何よりも強固な壁に隔てられたこの2人が会う事は二度と無かった。


 しかし。

 それでも2人はお互いに贈りあったプレゼントをどちらも生涯大切にしたという…


 はるか遠く宇宙の果て…

 時間の壁に隔てられた向こうにいる、自分を自由にしてくれたもう1人の自分からの贈り物を。



 ^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─

 お読みくださりありがとうございます!


 2話目はタイトルの通りキャラ紹介とあとがきです。

 本編では匂わせ程度だったものについての説明もありますのでぜひ1度読んで行ってください!

 本編のシーンの印象が変わる…かもしれません。


 また、最後の展開に驚いたという方や、少しでもおもしろかったと思っていただいた方、ぜひ↓の『♡』をポチッと押してくださると嬉しいです


 ランキングに関係あるのは[☆☆☆]とレビューだと思いますので、少しでも面白いと思っていただけましたら、そちらもどうかお気軽によろしくお願いいたします!!

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