第14話

 水蚯蚓ウォータワーム。ミミズのような長い体、目はないが触覚が優れており、巨大な口で得物を丸呑みにする性質を持つ。全長は二メートルから大きいものでは五十メートルまで様々だ。

 目の前にいるのは十メートルと比較的小さくはあるが、それでも厄介なやつと会ってしまったことに変わりはない。


「立てヴェイン! 座ったまま食われたいのか!?」


 滑り落ちてきた格好で座り込むヴェインを立ち上がらせる。ヴェインははっとしたように瞬きを始め、二、三度自分の頬を軽く叩いてから「大丈夫!」と頷いた。


「ディアス、あれは何!?」

「ウォータワーム。どこの国でもそれなりによく見る生物だ。地域で呼び方は多少変わりはするものの、生態はほとんど変わらん」

「とにかく、やらなきゃやられるってわけね?」


 ガレリアが背中に背負った槍を構える。それをどこで、誰の金で買ったのか気にならないわけではないが、今はそれどころではない。


「待てガレリア、なんでもかんでも始末しようとするな」

「だって食べられちゃうんでしょ? だったら」

「確かにウォータワームは危険だが、同時に国に必要な生物でもある」

「どういうことかしら?」

「それは」


 会話を遮るように、ウォータワームが雄叫びを上げた。その甲高い声にヴェインは「ああああ」と耳を押さえてうずくまった。超音波にも等しいそれは、未熟なヴェインの意識を朦朧とさせるには十分なようだ。


「きます!」


 ウォータワームがその巨体を地面にこすりつけるように薙ぎ払った。俺はヴェインを抱え後ろに飛びそれをよけたが、巻き起こる突風でリーフィが後方へ飛ばされていく。


「リーフィ!」

「私が行くわ」


 そうガレリアが走り出す。かなり後ろに飛ばされたようで、すぐにリーフィとガレリアは見えなくなってしまった。

 まだ収まらない風に、フェリカは大丈夫かと周囲を確認し、フェリカの立ち姿に俺は呆然とした。

 フェリカのコートの端が、風でちらちらと舞い上がる。そのたびにフェリカの足が見えるのだ。いや足だけじゃない。一糸纏っていない尻が、ちらちらと視界に入ってくるのだ。


「……フェリカ、まさか、お前、履いてないのか」

「ひゃ、ひゃい!」


 履き忘れたのだろうか。きっとそうだ、そうに違いない。まさか年頃の娘さんが、そんな痴女みたいな真似するわけがない。そう自分をなんとか納得させようとしていると、


「上もつけてないです!」


と衝撃的な発言をかましやがった。


「待てフェリカ、一体どうしてそうなった? 城では着てたよな? あぁそうだ、確かに着ていた」


 昨日の記憶だ、間違いない。いやもしかして野盗か? 野盗に襲われた時か? なら俺は年頃の娘さんになんてことを――


「あの時、ディアスさんのコートを地肌に着た時、すごくすごく、なんていうか、身体の奥が熱く火照るのを感じたんです。でもいつまでもお借りするわけにもいかないので、ガレリアさんに相談して、買って頂いたんです!」

「あいつは知ってるのか!? なんで止めなかったんだ!?」

「この見られそうな感じ、たまらないです!」

「いや見えてんだよ!」


 ヴェインの意識がはっきりしてなくてよかった、本当によかった。あぁでもそれどころじゃない。今はウォータワームをなんとかするすべをだな――


「そうですディアスさん、なんでウォータワームを倒してはいけないんですか?」

「お前さ、その状況でそれ聞くか? 普通……」

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