明らかに悪役っぽい異能力を授かったので、悪の道に堕ちようと思います

烏鷺瓏

第1章

第1話

西暦2136年


 現在、我々人類は未曾有の危機に陥っていた。約70年前地球に”空想遺跡ダンジョン”が出現してから人類は異能力というものを授かるようになったが、凶悪な犯罪者”ヴィラン”、空想遺跡ダンジョンから溢れ出る”モンスター”、近頃出現するようになったモンスターの上位種にして高い知能を持つ”魔族”、これらによる一般市民への被害は日々増加傾向にあった。


 以上のことから、近年脚光を浴びる職業がある。


 それは………




 ”ヒーロー”



 怪物モンスターと、犯罪者ヴィランと、命をかけて戦い、人々を守る………

 その姿に人類は


”希望は抱いた”


”憧れを抱いた”


”正義を見た”


”商機を捉えた”


”欲望を感じた”


 理由はともあれ、人々の意思は1つをなりとある組織を立ち上げた!


 ”ヒーロー組合”と呼ばれ、人々の希望になり、ヒーローを管理し、空想遺跡ダンジョンの攻略から治安維持を手掛ける世界規模の組織となっている。各国に支部があり、ヒーローを名乗る者はヒーロー組合に登録し、実力に応じたランクとヒーローとして活動する際に呼ばれる”ヒーロー名”を与えられる。


 ヒーロー名はそのヒーローの象徴であり、強ければ強い程その名は広まっていく。多くのヒーローにとって、それはモチベーションの向上に繋がっている。

 特に“A級”以上となると、その知名度は計り知れない!


 

 そして、それはヴィランにとっても同じことであった………


 ヴィランにもヒーローと同じように危険度・討伐難度に応じてランク分けされ、Sから始まり、A、B、C、Dとなっていて、Sレートを除き、同ランクのヒーローが複数いれば討ち取れると言われている。当然異能力や戦闘方法の相性によって変化するが、指標としては丁度いい。


 自己の名声のためにヒーローを狩る、自らの強さを証明したい、そんなヴィランたちはこぞってヒーローを狙い出した。


 こうして”ヴィランVSヒーロー”という構図が出来上がった。


 実際のところはこれにモンスター・魔族が加わった三つ巴なのだが、現在激化しているのは、ヴィランとヒーローの戦いなのだ。


 そして、今さらなる巨悪が誕生しようとしていた………


////////////////////

西暦2136年 4月 東京都


”カリカリッ カリカリッ カリ”


 東京都立春心高等学校2年Aクラスの教室では、シャープペンシルを走らせる音が何十にも重なって響いていた。


「そこまで!では回答用紙を回収していく。」


 そう言って壇上で時計を眺めていた30歳ぐらいの男性教師が動き出し、40個の机に置かれている数学のテストの回答用紙を集めだした。


”つまらねぇ”


 テストを終え、回答用紙の回収を待っている間、1人だけ場違いなことを考えている人物がいた。他の者が先程終えたテストに考えを馳せているというのに、彼だけは退屈を感じていた。あまりのもテストが簡単すぎたのだろうか?

 

 否。


 彼が退屈していたのはこの平穏であった。彼の生来の”性質”も相まって今のこの状況は退屈すぎて苦痛でしかなかった。


”あ〜、誰か爆散してくれないかなー”


 決して表に出せない本音は思わぬきっかけで叶ってしまう。

 そのきっかけとは、異能力の発現であった。それはまるで天啓のように頭の中に現れ、本能が”それは使える”と教えてくれた。


『闇』


 それが彼に発現した異能力。闇を具現化させ操る、もしくは人の”心の闇”を操作できる。彼にとっては幸運なことに、周りにとっては不幸なことに、力を持たなかった怪物が”異能力”という強大な力を手に入れてしまった。


////////////////////

翌日


 某有名進学校の2年生の教室で、身元の判明が不可能なレベルで損傷した死体が40名分発見された。発見者は、全てのテストが終わったにもかかわらず、教室に戻ってこない教師の様子を見に来た学年主任で、現場があまりにも悲惨であり、嘔吐したまま動けなかったそうだ。

 犯人は不明であり、まるで与えられた玩具を試すように肉塊にされた死体や手足をもぎ樹木のように串刺しにされた死体があったことから、凶悪犯罪者”ヴィラン”として登録され、ヒーローにその身柄を狙われることとなった。また、今事件の犯人であるヴィランを”残虐者クルーエル”と呼称し、危険度・討伐難度レートBとする。


「へぇ〜、たった1日で有名人じゃん。」


 自分以外誰もいない自宅で、投函されていた新聞を読んでいた「八代やしろ 真司しんじ」は感情の籠もっていない声で呟いた。40名の人間を殺害し弄んだとは思えない発言であったが、それだけでも彼の人間性が垣間みえるだろう。

 早朝から新聞を読み淹れたてのコーヒーを啜っている八代は、昨日のことについて思い返していた。


 春心高校2年Aクラス39名 担任教師1名殺害後〜

 

「はぁぁあ〜〜〜!最高………」


 我ながら突如発現した異能力に浮かれてはっちゃけ過ぎたと思いながらも、ようやく自分の中で燻り続けていた”欲望”を開放できた感動を噛み締めていた。人を殺した興奮と殺される寸前に絶望の顔を浮かべていたクラスメイトの死体を眺めて悦に浸っていた俺だが、ふと我に返り冷静になった。


「んん〜……この死体どうしよっかなー。どうせ、すぐに人が来てバレるからなぁ。………どうせなら、もっと面白くしてからトンズラするか。ククッ。」


 想像だけで笑いが止まらないが、早速異能力を使って、この死体群を発見する誰かへの”プレゼント”を作りながら、今後のことについて考えを巡らせていた。とりあえずの逃亡場所についてはすでに目星をつけている。しばらくはそこで生活し、力を蓄える予定だ。

 だが、そこへ行く前に犯人が”俺”であるとバレるのを少しでも遅らせるために、少し工作をしようと考えている。というのもだ、俺は正真正銘の外道であると自覚している。ゆえに俺にはセフレがいる。それも彼氏持ちの………

 ちょっと前までは何人もいたが、最近はそいつに入れ込んでいた。もし俺の直近の行動を探られたら、確実にそいつから俺の本性がバレる。そうなると、そこから今回の犯人と結び付けられるだろう。

 まだ、異能力が発現したばかりの状態で捜査の手が俺に向くとさすがに厳しい。プロヒーローが何人も襲ってくるのを相手しながら生活しなければならないのだ。さすがに”天才”の俺でも無理だ。

 まずはただの口止めだけで問題ないだろう。あいつも彼氏に俺との浮気はバレたくないだろうからなぁ。

 しかし、”その後のこと”を考えている俺はニヤつきが止まらなかった。


 しばらくしてようやく”プレゼント”が完成した俺は学校を抜け出し、自宅へ戻った。それから逃亡のための準備をし、一夜を明かしたのだった。

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