貧乏神

 

 記事を投稿とうこうすると、すぐにいいねが一つついた。すでに、フォロワーも一人ついていた。れいらんである。さちも、れいらんをフォローした。さちとれいらんは、このウェブサイト上でもつながった。

 これで人気になれば、収入につながって、お金持ちへの道も早くなる。

 ここんとこで、さちは寝床ねどこいた。



「ヤメテシマエ……」


「ヤメテシマエ……サチハ」


 誰かの声が聞こえた。誰かが、さちの名を呼んでいる。とてつもなく低くて、ガサガサした男の声。

 さちはなぞの真っ黒な空間の中にいた。なんここ。


「サチハ……」

 

 呼ばれた方を向くとそこには、長く長くノッポで、ひどせこけた青白あおじろい顔のおきな見下みくだしていた。全身をボロボロの黒い布でおおい、あごからは、冬のれ草のような、白くてガサガサしたひげをはやしていた。

 翁は見るからに貧しそうで、そいつを見たさちは、異様いよう嫌悪けんお感と畏怖いふ感を覚えた。


「誰?」

 さちは、酷く警戒けいかいしながら、叫ぶように尋ねた。


「ワシハオマエノカケイヲダイダイマモッテキタマモリガミ……ナナドシラン……」

 

 さちの家系の守神? ——つまりは邪神じゃしん貧乏神びんぼうがみか。

「さちになんの用?」


「イマシメニキタノダ……。オマエガヨコシマナミチヲススモウトシテイルカラダ……」


 いましめ!? さちが何をしたっていうの?


「ワルイコトダ……。ユルサレルコトデハナイ……。カネモチニナロウナド……」


「なんで!? 何がいけんの!? れいらん、言ってた。本当のお金持ちは、好奇心こうきしん旺盛おうせいで、心広くて、自由だって!!」


「ソンナモノ、イツワリダ……」


うそじゃない! お金持ちの友達はみんな、好きなことができて、美味しいもんたっくさん食べれて、自由だった!」


「ハシタナイコトダ……。ヤツラハ、ハシタナクゴウユウシ、ソレヲコキュウスルノトドウトウニアタリマエニオモイ、ソレヲシナイ、デキナイモノヲ、デクノボウトミナシ、グロウスル……。カネモチトハ、ソウイウヤバンナイキモノナノダ……」



 それは——否定できない。さちもそれで、かなり苦しんだ。


「オマエハ、ソノヨウナヤバンジンニナルナ……。マズシクアレ……。マズシイモノハ、ヒトヲミクダサナイ……。ヒトヲグロウシナイ……。マズシイコソガセイギダ……。タカノゾミヲスルナ……」


 貧乏神は、さちに暗示あんじをかけるように、念を押して、何度も何度もとなえた。さちは、呪いにあらがおうとも思えず、うつろに立ち尽くしていた。


「レイラトカイウ、ドウケムスメノザレゴトナドニ、ミミヲカタムケルナ……」


 れいらんの名前を聞いた時、身体がピン! と反応した。れいらんが道化どうけ? 反論したい気持ちがぶくぶく出てきたが、否定できなかった。確かに、れいらんは道化師だ。でもそれは、天使のような道化師だ。


「サア……オマエハイッショウ、マズシクイキルノダ……サチハ……!」 


 改めて、貧乏神は、さちに念を押した。さちは神に言い放った。


「絶対イヤ!!」



 目が覚めると、いつもの起床時間だった。身体がふわふわしていた。寝ていた時の記憶は、うっすら残っていた。

「さちは絶対、お金持ちになってやるんだ」

 ぼそりとつぶやいた。


『ナラバ、カラダデワカラセテヤル……。オマエハカネモチニハナレナイ……』


 貧乏神の声が、脳裏のうりをよぎった。大きな不安を覚えたが、とりあえず、朝食とお弁当作りに向かった。

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