夢拾い日記

あんず

2023.12.11 儀式 ◎

実家の外にドスジャギィみたいな生き物が出た。私と兄はふざけて見てたけど、そのうち体が赤くなって、どうやら怒ってしまったらしい。危険とのことで、家に急いで戻された。 そして、そいつの姿を模したスーツ、靴、お面を着けさせられ、仲間に扮して身を守るように言われた。奴らは周りを徘徊しているらしい。

外には、いつの間にか雪も降り始めている。

こうして、私たちは冷たい家屋に閉じ込められた。


夜、ストーブをつけて居間で寝ると、とてつもなく不安が襲いかかってきた。というのも、今自分は完璧な偽装をしているわけではないからである。それに見えるとも分からん。私はそそくさと兄の部屋へ行き、一緒に寝させてくれるよう頼み込んだ。そして願い通り、布団に入り込み、さあ寝るぞ、といったところで、兄が異変に気付く。隣の部屋だ。

「動いてる!」

ガラスの向こうの棚の隙間を指さしていた。そこには猫、招き猫?の置物が逆さに覗いている。そしてギョロギョロこちらを見ているのだ。

私ははじめ、なんかの反動や、自然の物理法則?で動いているのだと思っていた。しかし、それは明らかに意思を持って、こちらを覗いている。

異変はこれだけではなかった。隣を見やると、なにやら人が立っている。黒い長髪をくくった男性だ。なんと刃物も持っている。

これに関しては、私が静かに騒ぎ立てた。

そして、私は証拠のビデオが一個も撮れていないことに気づく。あわてて撮ろうとするが、その頃には異変はすっかりなくなってしまっていた。

騒ぎを聞いてかけつけた父親が、私がこのままでは危ないと、最終手段だと言いながら、2階の自室へ案内した。

刃物の男は一度家に訪れたことがあるらしい。怨みか何かか?幸いなことに、今現在、実際にあの空間にいる、という訳ではなさそうである。

歩いている途中、居間の消し忘れたストーブを、目を盗みつつ、さっと消した。


2階の奥の部屋、父親の部屋には大きなベッドがあり、父の友人である男が真ん中を陣取り、ビールやつまみを散らかしながら、寝そべっていた。

私が来たことで、それらは片付けられ、私は窓際のスペースで寝ることになったが、毛布の配分で、幾分か揉めた。

そこでも新たな事件が起こった。

よし寝ようと3人同時に仰向けになったときである。私はあくびをしたのだが、思いのほか変な声が出てしまい、父親がそれに反応した。

というのも、父親とその友人は、天井に何かを見つけたらしい。そしてお前もか、といった風に尋ねてきた。

天井には四角い枠があった。上手く開ければ、上の空間に抜けられそうである。

なんとこの家に3階があるかもしれないらしいのだ。父親はワクワクしながら、こじ開ける準備を始めた。

そのときである。


ガタガタガタガタ


家の玄関が何者かに押し開けられようとしていた。

家の玄関には2つ扉があって、今のは外側の扉だよね、中も鍵をかけてるよね?と父親に尋ねた。後から思い出すと、あれは中の扉だった。あのとき思い出さなくて良かった。パニックになっていただろう。

父親と友人は尚のこと3階開拓に必死になった。もし侵入されたら、直にここへも来るだろうからだ。私は、何故か自室から移動された非常リュックをコートハンガーから取り、いざという時に備えることにした。

何分経っただろう。鍵が壊されたような音がした。玄関の2つの扉の音がして、私はいよいよ侵入されたことを悟った。

2人はまだ開拓に夢中だ。というか必死だ。

私は作業を中断して、窓から出る選択肢も考えねばと思った。そして、まず初めに自分が外に出てみることにした。靴下を、蒸れて引っかかる足になんとか通し、音を消して窓を開ける。冬の冷風が、厳しく吹きつけた。

私はこっそり、身を乗り出した。そして他の場所の窓から見えないようにひっそり移動する。その過程で、奴らが2階に登って来るところが見えてしまった。

ドスジャギィなどではなかった。能面を被った着物の集団だ。シャン、シャンと音を鳴らしながら、静かに迫ってくる。

私は父親たちに報告する余裕を失っていた。ベランダから見えた3階を目標に、奴らに見えないように屋根を張って移動する。

すると、能面らは不思議な行動を取った。父親のいる部屋には行かなかったのだ。どこからか3階への階段を見つけて、上の階へ登ってきたのだ。

私はそれこそ見つかったらマズいと、慌てて下へ降りたが、その前に少しだけ3階の様子を垣間見ることができた。

うちは築4、50年の日本家屋であるが、その3階には、より古めかしい儀式めいた空間が広がっていた。板張りの廊下を抜けると、奥、父親の部屋の真上に、厳かな儀式部屋があった。

私はそのまま父の部屋に帰ることはしなかった。今思うと、それはどうなんだと思うが、とにかく私は必死に、見つかりたくない思いでいっぱいだった。


あんなに恐れていた家の外に降り、儀式が終わるであろう朝(何故かそのときには自然に理解できた)、能面に鉢合わせないように、近くの家の縁の下や、奥に行くにつれ暗く黒くなっていく鳥居通り、身寄りのない子供たちが住む寂れた通りを転々とし、ようやく危なげない大きな家の、縁の下に落ち着いた。

早朝の空気はどこか乾いて、温かさと冷たさを共存させていた。不思議なことに、雪は跡形もなく消えていた。

幸いそこに儀式の集団は訪れなかったが、用心して、辺りが賑やかになるまで、じっとしていた。

そして、ようやっと家に帰る道中、あのあと私がいないことに対して、家族がどう思ったか、そもそも家族はどうなったのか、不安が再びせり上がってきた。私の足取りは重りがついたように鈍くなっていった。

家の前に着く。外側に異常はない。私に気づくことはなかったが、人がやや往来していた。安心して扉に手をかける。そして根拠もなく妙な、新たな不安が浮かぶ。


果たしてこの家に

私の居場所は残っているのだろうか。

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