人里から遠く離れた場所に一軒だけある民家に住んでいる僕のもとに訪れたのは…◯◯と言う羊の角を携えた異次元の存在だった…

ALC

第1話なんだこれ?

気付いた時。

僕はこの家で暮らしていた。

生まれてから今までの記憶はまるでない。

だがしかし、どの様にして生活を送れば良いのか。

そんなことは簡単に自然と思い出すことが出来る。

思い出すと言うよりも身についた技術で僕はこの場所で生きる術を身体が覚えているようだった。

自給自足で生活する日々。

軽トラックが一台存在していたが、何故か僕は人里には下りる気になれなかった。

それに僕の家に訪れてくる人間がいないこともなんとなく理解できる。

この深い森や危険な山を登ってくる人間が居るとは思えない。

僕は一生この場所で一人で暮らすことを簡単に理解していた。

そんな時…。



コンコンと玄関のドアをノックする音が聞こえてくるが、きっと山の動物が軽く突進している音だろうと思いこんで無視をした。

コンコン。

再び鳴る音に少しだけ怪訝な思いを感じるのだが、きっと野生の動物が自然の中で食べ物を手にすることが出来ないでいるのだろう。

だから民家に住む人間に食べ物を恵んでもらおうとしているのだ。

そんな事を軽く想像すると再び無視を決め込んだ。

コンコン。

三度目のノックの音に僕は少しの期待と不思議な気持ちを抱いて玄関へと足を運ぶ。

「はい?」

扉越しに声を上げると…。

「すみません。少しだけ休ませてもらってもいいですか?」

意外なことに人間が僕の家を訪れたようで驚きのあまり警戒心を無くして扉を開ける。

そこに立っていたのは…。

羊の角を携えた目があっただけで魂が奪われるほどに美しい女性が立っている。

「えっと…とりあえず…どうぞ」

家の中に彼女を招くと急須でお茶を淹れる。

「外は寒かったでしょ。どうぞ」

お茶を差し出すと彼女は嬉しそうに感謝を告げて口をつけていく。

ほっと一息ついた辺りで僕は彼女のことを探るように尋ねてみる。

「でも…どうしてこんな場所に?」

もっと聞くべきことはあったはずだ。

その角はなんですか?

何でそんなに美しいんですか?

何処から来たんですか?

本当に人間ですか?

僕に何のようですか?

色々と質問してみたい事柄が頭に浮かんでくるのだが…。

今はまだ尋ねないほうが良いような気がしてならなかった。

「どうしてって…」

彼女は言い難い事があるようで少しだけもじもじとすると上目遣いで僕を見つめていた。

「え?」

意味のない一文字が口から漏れると彼女はキョトンとした表情を浮かべる。

「私は◯◯だよ」

「え?なんて?よく聞こえない」

「そう。とにかく…今日からここで一緒に住むからね」

「え?そうなの?」

「そうよ。呼んだのは貴方のほうでしょ?」

「そうなのかな…?とりあえずなんて呼べばいい?」

「〇〇」

「だから…それは聞こえないんだって…」

「じゃあDで良いよ。貴方は?なんて呼ばれたい?」

「分からない。僕は自分の名前すら思い出せないんだ」

「そう。じゃあZ《ジィー》にするわ。丁度私と語呂が良いからね」

Dと名乗る異次元の存在と記憶も曖昧な僕ことZの物語は不意に始まろうとしていた。

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