第5話

 老夫婦の寝室に着くと、淡い光が室内全体を包み込んでいた。眠りについていたはずの2人は寝惚けた眼でベットの上に立っていた。老夫婦の目の前で淡く輝く猫又が声を掛ける。それに応じて、2人が寝惚けた声で答えをこぼす。


「我々、『真贋しんがんみやこ』の入信者からの金は―――」


 彼女は、なるほど、なるほど。と頷くと、胸元から出した紙に聞き読んだ情報を書き連ねた。


「爺ちゃん、婆ちゃんに何したにゃ」


 恐る恐る声を絞り出し、彼女との間を図る。決して目を離さず、ジリジリと近付く。


「はい。終わり」


 パンっと両手を打つと、2人はベッドに崩れ落ちた。慌てて彼女と2人の間に割り込む。


「な、何をした」

「大丈夫。眠りについただけよ」


 警戒状態のままで、気配を探る。規則正しい寝息が2人から聞こえた。尻尾で2人の身体に触れると体温を感じた。


「じゃあ。またね」


 安心して気を抜いた一息の時間で、別れの言葉を残して、彼女は天井に消えた。すでに周囲から気配は消えていた。


――――数日後、老夫婦は警察に逮捕された


 2人が罵声を上げ、いつもの優しい顔が怖い顔になっていた。沢山の人が集まり老夫婦を囲み、力任せに外へ連れ出した。


 ニャモは窓から眺めながら『にゃお』と泣いた。


「2人は悪徳宗教をして信者から大金を奪い取り、沢山の人を自殺に追い込んだんだって、だから私たちが調べたんだ」


 見上げると天井から彼女が頭を出してニヤニヤと笑ってた。隣に降り立つと、両手で顔を包んだ。


「恨むかい?」


 真っすぐに目を見ながら、彼女に問われた。首を精一杯、横に振った。ニャモは猫又。人とは異なる存在、残念だったが、悲しいとか恨めしいなんて感情は浮かばなかった。


「着いておいで」


――――黄と青が混ざり合い緑の半透明な揺らぎが街を駆け抜けた。

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