第2話 自殺の真相

 次の日、会社に出勤すると今日の仕事の段取りをして会社を出た。

 自殺した高校生の名前は、浦上光良うらがみあきら君。高校二年生。

 昨日の内に、浦上家には約束をとってある。主任にも若者の自殺の取材をすると許可をもらっている。

 

 浦上家は、静かな住宅街の中にまっている普通の一戸建て住宅である。

 家の前に立って、呼び鈴を押した。インターホンから何も返事が無い。

 誰も居ないのかと思い、辺りを見回すと、視線を感じた。二階に目をやると窓のカーテンがサッと閉まるのが目に入った。

 二階に居るのかと思ったらすぐに玄関のドアが開いて、女の人が姿を現した。   

 多分、光良君のお母さんだろう。彼女の目の下には隈ができていて、髪もまとまっていない。見た目まで気が回らないのだろう。かなり憔悴している感じだ。


「はじめまして、箱崎新聞の丁字と言います。たいへんな時に申し訳ありません」


 彼女は、小さな動作で会釈すると、「どうぞ」と言って家の中に招き入れてくれた。


 私は、まず光良君の仏壇に手を合わせた。飾られた遺影は、明るく笑う十代の男の子で、仏壇との取り合わせは何ともちぐはぐさを感じさせる。

 隣のリビングに移ってお母さんと話しをする。ソファーに腰を下ろしてテーブルを挟んで彼女と向かいあった。


 私は、少し前のめりになり質問を始めた。

「警察は何か言っていましたか?」

「いえ、特には・・」

 彼女の口は重い。

「事件性とか?」


「それは無いと」

 

 喋りたくなさそうなので、どう切り出そうか迷っていると「イジメです」と彼女が言った。

「イジメですか」

「ちょっと待ってください証拠を見せますから」

 そう言うと彼女は、隣の部屋に行き仏壇の横から一冊のノートを取って来た。

 「ここを見て下さい」

とノートを開く。白紙のページの真ん中に文字が書いてあった。


『いやだ いやだ もう学校にいきたくない でも行かないとだめだ みんな消えてしまえ』

 殴り書きの文を読んで思った。  

 そんなに行くのが嫌なら、行かなければいいのに。『みんな』って誰のことだ。


 これだけではイジメとは断定出来ない。

 そう彼女に話そうと顔を上げると、彼女は話し始めた。


「何でこんな事に。何で私ばかりこんな目に遭うの。お兄ちゃんはずっと学校にいかないし。何度言ってもダメ。ご近所の人達も私達の事、こそこそ話しているし」

 凄い喋りだした。

 お兄ちゃんって光良君のお兄さんの事か、さっき二階でカーテンを閉めた。二階に居るのがそうか。


「その上、光良までこんな事になるなんて、また近所で何を言われるか。絶対イジメだわ。学校を訴える。」

 

 ああ、そう言うことか。お母さんも加害者なんだな。

 光良君が、イジメに遭ってたのは本当なんだろう。学校にもいきたくなかったんだろう。でも学校に行かないといけないと思ったのはお母さんのせいか。

 お兄さんの事でお母さんが苦しんでいるのを見てるから。自分も学校に行かなくなるとお母さんを更に苦しめると思って学校を休めなかったんだ。

 『みんな』って光良君をいじめた人達とお母さんの事か。

 しかし、こんな事この人には言えない。言っても理解出来ないんじゃないだろうか。


「光良君のお母さん、この文章からだけでは、イジメがあったかどうかははっきりしないです。私のほうでも調べてみますので、何か分かったらお知らせします」


「そうですか」

 彼女は納得はしてない様子だが、私は先に進みたかった。鞄からA4の紙を取り出して、彼女の前に置いた。あのバケット帽の男の拡大写真である。パソコンからプリントアウトしてあった。


「この男を見た事がありますか?」


 彼女はテーブルの上の写真をじっと見た。そして、私の顔を見て首を横に振る。

「いいえ、見た事ないです」


「そうですか」


 その後、お礼を言うと早々に浦上家を出た。

 二階を見て、光良君のお兄さんがお母さんに追い込まれる事がないようにと想った。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る