地獄の中で、君に出会うことができたから。

一宮琴梨

プロローグ

 ドカァーン!


 俺の300メートル先くらいでミサイルが着弾し、爆発した。


 「みんな逃げろ!まだ落ちてくるぞ!」


 誰かの声が聞こえる。


 ああ、逃げないと。だけどまだ彼女が、敵である俺にも笑いかけてくれた彼女が見つかっていない。


 「クリスティーナ!お願いだ。俺のそばにきてくれ!」


  そう叫んだ時、俺のそばを通りかかった女性が怯えた顔をして叫んだ。


 「いやあー!ロシア人がっ!ロシア人がいるわよ!」


 それを聞いた人々はみんな俺から離れていった。当たり前か。俺はここの人々にとって敵であるのだから。


 俺の周りに人がいなくなった時、150メートルくらい先に人影が見えた。

 直感した。クリスティーナだ。


 「おーい!クリスティーナ!こっちだ!」


 だが人影は1歩も動かない。おかしい。あれはクリスティーナのはずだ。俺が間違えるはずがない。

 だがその人影は俺に近づくどころか俺から離れていく。


 「どこにいくんだ?頼むから来てくれ!ここは危険だ。一緒に逃げよう。」


 話しかけても応答せず、どんどん離れていく。今、人影と俺の距離は400メートルくらいになってしまった。


 「待ってくれ。待ってくれよ!」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 「クリスティーナ!」


 ん?戦場じゃなく、ベッドの上?

 

 そうか。あれは夢だったのか。


 あの夢は、俺が20代の頃、ウクライナ侵攻に徴兵された時の記憶だ。ウクライナで出会ったクリスティーナ。彼女は俺が敵であるにも関わらず、俺に笑顔を向けてくれた。戦場という地獄の中で彼女の存在は俺の心の支えだった。だが…。

 

 これは、戦争という名の地獄の中で俺がクリスティーナと出会った奇跡。その記憶をまとめて書いた物語だ。





 この物語はフィクションであり、実在の人物とは必ずしも一致しません。



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