第12話 興奮するスック

 この駅で降りたのは僕達だけだった。

降車した場所から店舗の入り口は数メートル、歩いて移動するこの床に、大きな文字が流れている。


『ローザイスパハン、小型機販売、レンタル』この流れる文字とは別に

数メートル先の大きな看板の下に学園のコンテスト公認スタート地点という四角の形をしたボードサインがあった。

今季のゲートハントコンテストがスタートした事が書かれている。


 僕らは入り口まで歩く間、順位に変動がないか床の流れる文字を目で追う。

だけど入り口までの間、それをチェックすることは出来なかった。まあカウンターに行けば、ほぼこのコンテスト現在の状況はすぐ分かる。

スックはグレイティントが気になるみたいで「アイツ、今何位?ポイントは? 」と始終話している。

更に彼は乗りなれたエレベーターでカウンター階のある階下へエレベーターが下降している最中、興奮気味にこう叫んだ。


 「キタぞ!用意はいいか?用意はいいか?今年はグレイティントをぶちのめす‼ 」


 気合入れの叫びで、いつもは白い体のスックが興奮でオレンジになった。

下降中のエレベーター庫内のオレンジ照明のせいでないのは階下に到着したエレベーターが開いて店内に飛び込んでカウンターまで跳んでく興奮したオレンジなイカスックは店内の青白い照明の中でもオレンジ色のままだったから。

足早で店内に入る僕も気分がアガってくる。

「よースック来たな」とスックはイスパハンに挨拶されていた。

クマデとハマヤの父親のイスパハンはいつもの屋号が書かれているつなぎを着ていて、頭にはキャップをかぶっている。

声が大きくいつも快活だ。

ヘアはショートカーリーヘアでカイヤ人らしくなくあまり手をかけないケアしない感じのようだ。

僕の1回生の時より髪が薄くなってきた。クマデもあまり容姿ヘアスタイルに頓着しないのはやはり親子だなと思う。


 「来てやったぜ!グレイティントは今どのへんだ?アイツ何位?得点は? 」と奥のディスプレイに突進して順位を確認している。宙に浮くオレンジなイカが興奮気味に高い位置にあるディスプレイの前で左右に跳んでいる。

それを見て笑いながら僕はカウンターにいるイスパハンに挨拶した。

「こんにちは!イスパハン、今年もお世話になるよ。荷物は全部届いてる? 」と僕は元気に挨拶した。

「よーシーグラス!今年も来たな!昨夜は良く眠れたか?眠れななかったんなら出発前に仮眠をとると… 」

「アイツ!今、2位だよ!こと座環状星雲雲近辺!アイツ腹痛いのかな? 」といつもは三白眼のイカが目をランランとさせて僕の顔に目掛けて跳んできた。


 「アイツ腹いたいんだ!腹痛いんだ! 」と連呼しながら今度はカウンター奥でオペレーターをしている同学年のハマヤに嬉しそうに挨拶している。ハマヤはデザイン科でイスパハンの娘だ。この時期はいつも自分の家の店でアルバイトしている。彼女はオペレート応答をしながらスックに気がつくと僕が来たのに気づき椅子ごと体をこちらに向け大きく腕を振って挨拶した。

「シーグラス!荷物搬入済みだよ!ピアノどうだった?成績表届いた?」と聞いてきた。

「今年も上手く弾けたよ。荷物ありがとう! 」とハマヤに応えたが次の出発のオペレートが始まったのだろう体の向きを椅子ごとモニターに戻した。その様子を見ながら僕は彼に告げた。

「イスパハン、計画書通りで今年は跳ぶよ 」



 ゲートハントは、宇宙空間におけるワームホールを探索、発見。小型無人機で調査。

跳んだ先の宇宙座標の収集、画像、ワームホール内質量、時間等すべて収集。

手順でいうと、発見、初期調査後、データを学校へ送信。学校が設置してあるコンテストの本部署で送られてきた画像やデータを元に審査。本部は生徒が発見したワームホールが将来これはゲートになると判断し、発見したゲートの質と数によるポイント制となる。生徒は2週間のハント中に発見したワームホールの申告中、順にポイントと順位の結果をもらう。リアルタイムでハント中に自分や他生徒の順位が分かるのでハント中のモチベーションにもつながる。


 ゲートハントコンテストの期間は学生の夏季休暇中に開催される。

エントリーした学生が全て跳び、コンテストが終わるのが新学期が始まる12日前。すべての結果を集計し、順位が確定し、表彰式が行われれるのが。新学期の当日。受賞者は賞金とデザイン科がデザインしたゲートがモチーフになったバッジやピアスやイヤーカフとなり数年後、本当の宇宙空間をワープできるポイント。ゲート(門)として一般に開放され宇宙空間の高速道路として使用できるまでにする。これは、学校側とこの星系を統治している政府と(自治云々)の貴重な収入源となる。生徒に支払われる賞金はやはり学生にしては高額であり。賞金を獲得してもすべて学校側が管理するので卒業するまで生徒の自由にはならない仕組みになっている。自由に使うという事では学校に関わる授業全般、ハントコンテストの参加費用、それぞれの選択の学科に必要な費用を特別追加する時用特別支払いぐらいである。


 また、ハントコンテストではすべての集計から表彰者またコンテストの成績評価までの期間が短期間であるため、表彰式の後にも再評価を行う。

ハントに詐称がなかったか、本人にもレポートを提出させ、レンタル機の位置、時間等データと照合し判断。この時、外部の審査チームも参入しての最終審査がある。

この時、学期なかばで賞を剥奪され、順位が入れ替わることも毎年ままある。学生達も表彰式は仮のお祭りだと心得ているものも少なくない。

この結果は次のシーズンのハントコンテストへのエントリー案内や学期の成績等で整理される。

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