魔王の未来、それは魔法。

木片

第一章 少年は進む

 目が覚めると、見慣れない木の天井てんじょうが視界をたす。

 少年は体を起こし、ゆっくりとぼやけた頭で状況を確認した。

 本日は春季しゅんき八日ようか。多くの学校で入学式がおこなわれる日だ。

 それは少年、ウォン・エスノーズも例外れいがいではない。

 本日は大陸たいりくでも最大の魔法国家まほうこっか『ティンベル』の首都しゅとに位置する、魔法の名門めいもん『アステリア魔法学校』の入学式だ。

 将来、魔法士まほうし魔法省まほうしょう職員を目指めざすなら、魔法学校で魔法を学ぶのがベスト。

 その中でもアステリア魔法学校は、現在の主要しゅような魔法使いの九割を輩出はいしゅつしている。

 ただ、ウォンは魔法職まほうしょくきたくてアステリア魔法学校に入学するわけではない。

 すると、とびらから二回ノックの音が聞こえてきた。

 続いて女性の声が聞こえてくる。


「ウォン。朝ごはんの時間だから、さっさと着替きがえちゃいなさい」

「うん」


 ウォンはハンガーにかけていた、アステリア魔法学校の制服せいふくを手に取った。

 制服はワイシャツにズボン、その上にローブを着たかたち

 それから洗面所せんめんじょで顔を洗い、ウォンはドアの外へ出た。

 そこには三十代の女性がいる。ほかならぬウォンの母親ははおや、ペトラ・エスノーズだ。

 ペトラはウォンの姿すがたをゆっくりと見た後、くしゃっと顔をゆがめて笑う。


似合にあってるじゃない。お父さんそっくりよ」


 ペトラの言葉に、ウォンは右手をむねに当て、やわらかく微笑ほほえんでつぶやく。


「うん、、」


 ウォンは父親ちちおやに会ったことがない。

 ペトラが言うには、ウォンが生まれてすぐに病気でくなったそうだ。

 一人でここまで育ててきてくれたことを、ウォンは本当に感謝している。


「さ、したに行きましょ」


 ペトラとウォンがふるびた階段をくだって一階にりると、人の良さそうな微笑みを浮かべている体系たいけいがふくよかな女性がいる。

 この宿やどを経営している婦人ふじんだ。


「おはようございます。今朝食を作っていますから、椅子いすこしかけて待っていてください」


 そう二人に言う婦人ふじんが料理をしている様子は一切いっさいない。

 しかし、その背後はいごにあるキッチンでは、ちゅうに浮いた調理器具たちが、ひとりでに調理を続けている。

 これが魔法。

 数百年前に出現しゅつげんした魔法使いは爆発的ばくはつてきにそのかずを増やし、現代では人間と同じほどの人数にまでふくれ上がっている。

 特にティンベルは人口の九割くわり九分くぶが魔法使いだ。

 生活の大半たいはんに魔法が入り込んでおり、こんな風景はもう見慣みなれないものではない。

 ウォンとペトラが向かい合って椅子に座ると、キッチンから湯気ゆげを出しているカップが、宙に浮いて運ばれてきた。


「コーヒーで良かったですか?」

「ええ。ありがとうね」


 ペトラはカップに少しだけ口をつけてから、どこか感傷的かんしょうてきに言葉をつむぐ。


「いやぁ。まさかウォンが魔法学校、しかもアステリアに入るなんて、全然考えてなかったわ」

「僕も」

さみしさもあるけど、うれしさの方が大きいのよね。ウォンには今まで我慢がまんばかりさせてきたから」

「ううん。気にしてない」


 エスノーズ家はティンベルの山中さんちゅうにある。

 それは勿論もちろん近くに学校がないことを示していて、ウォンは生まれてからペトラ以外の人間に会ったことがなかった。

 ペトラは普通に育ててあげられなかったことを、申し訳なく感じている。

 だが、ウォンの言葉を聞いて、ペトラも微笑みを浮かべた。


「そうね。アステリアはウォンもきっと気に入るはずだから」


 ペトラがそう言うのは、ペトラ自身もアステリア魔法学校の卒業生そつぎょうせいだからだ。

 そこでウォンの父親であるアンドリューや仲間達と出会い、青春せいしゅん謳歌おうかしたらしい。

 エスノーズ家にも学生時代の写真がいくつかかざられていた。

 そんな会話をしていると、魔法ではなく手で料理の乗った皿が運ばれてくる。


「アステリア魔法学校に入学するんですか?」

「はい、そうなんですよ」

「すごい優秀ゆうしゅうな息子さんなんですね」

「ありがとうございます。自慢じまんの息子なんです」

「、、、」


 ウォン的には、そういうことは目の前で言わないでほしい。

 普段から無表情むひょうじょうで感情を表しにくいウォンが唯一ゆいいつ苦手なのが、められることなのだ。

 それを察知さっちしたのか、婦人ふじん口許くちもとに手をえながら笑みをこぼす。


「ふふふ。息子さんがずかしそうですよ?」

「昔から恥ずかしがり屋で、、。でも、受験の時は私の方が心臓しんぞう飛び出そうでしたよ」


 ペトラは基本的にとてもおしゃべりだ。

 これ以上ウォンが会話に参入さんにゅうしても無駄むだだと察し、ウォンはめないうちに朝食に手を付ける。


**************************************


「お世話になりました。きっとまたお世話になりますね」

「それは嬉しいですね。またのおしをお待ちしております」


 婦人に見送みおくられて宿から出た。

 ウォンの目に入り込んできた景色けしきを初めて見るわけではないが、それでもいまだに見慣みなれない。

 街中まちなかにはほうきで空を飛ぶ魔法使い達や、使役しえきした使つかを連れ歩く魔法使いがっている。


「ウォン、行くわよ」

「うん」


 ペトラはローブに身をつつみ、フードを深くかぶって顔までかげが落ちている。

 これはペトラが出かける時は毎回まいかい格好かっこうで、特に魔法使いではめずしいことでもない。

 ただ、ウォンはペトラの視線に敵意てきいが含まれていることに気付いていた。


「ウォン。緊張きんちょうしてる?」

「何に?」

「ううん、いいのよ。ウォンなら大丈夫よね」


 ウォンには、ペトラが何を心配しんぱいしているのか分からない。

 ウォンはただ、これからゆめにまで見た学校に行くだけ。学校なんて楽しいことまみれではないのか。

 だが、ペトラの言葉を否定ひていすることは、直感的に間違いだと思った。


「気を付ける」

「ええ。そうしなさい」


 そうこうしているうちに、首都でも確実にオーラが違う門の前に着いた。

 ペトラが一度、大きく深呼吸しんこきゅうをする。


「ウォン、分かる?」

魔素まそ?」

「そう。アステリア魔法学校は土地とちに含まれる魔素がすごく多い。魔力暴走には気を付けてね」

「うん」


 魔素は魔力まりょくみなもと

 源から魔素を取り過ぎては、うつわから魔力がこぼれ落ちるのも無理はない。

 特に魔法使いとして未熟みじゅくな頃は魔力操作がうまくいかず、魔力暴走を起こすことが多い。

 ウォンは一度も経験したことがないが、場合によっては体の一部が欠損けっそんしたり、機能を停止ていしすることもあるそうだ。

 まあ魔法使いとして生きるなら、それくらいの覚悟かくごは必要なものだ。

 ウォン達が門をくぐった瞬間、どこか微細びさい違和感いわかんを感じる。


「気づいた?なんか変な感じしたでしょ」

「うん」

「アステリア魔法学校には、結界けっかい魔法がられてるのよ。ここ最近にできたものだけどね」


 結界魔法は魔法使いの中でも使える魔法使いが非常に限られる、貴重きちょうな魔法。それゆえに、魔法としての効果は絶大ぜつだいだ。たい魔物の侵入を防ぐことができ、さらに不穏ふおんな魔法使いの侵入も防ぐことが出来る。

 魔法の名門学校としては、申し分ない効果だろう。


「それにしても魔法が上手じょうずになったものね。あの頃は精々せいぜい十メートルくらいだったのに、、」


 ペトラが結界をめぐらされた空を見上げながらそう呟く。

 ウォンにはその言葉の意味がわからなかったが、ペトラの顔がアンドリューを思い出すときのような顔をしていたので、特段とくだん気にする必要はないと判断した。

 こういう顔をするときは、昔を思い出している時だ。

 二人が門からまっすぐ伸びた道を歩いていると、緑色のエンブレムが入ったローブに身を包んだ女子生徒が立っている。


新入生しんにゅうせいの皆さんはこのまま一度校舎の方へ、保護者ほごしゃの皆さんは講堂こうどうに向かってください」


 どうやらここでウォンとペトラは一度別れなければならないらしい。

 ウォンとペトラが向き合う。


「じゃあ先に行ってるから、気をつけなさい」

「うん」


 ウォンがペトラと別れてからみちなりに進んでいくと、昇降口しょうこうぐちと思われる場所にたどり着いた。

 思われると言ったのは、そこが一般的な昇降口には思えなかったからだ。

 かまえられている入口は四つ。それぞれに伝説級でんせつきゅう魔物のぞうが建てられている。

 ウォンが壮大そうだいな昇降口をながめていると、青色のローブに身を包んだ男子生徒が声をかけてきた。


「新入生。名前は?」

「ウォン・エスノーズ」


 そう答えると、男子生徒は手に持っていた結晶けっしょうひからせ、文字を空中に浮かび上がらせる。

 それを数秒すうびょう確認した後、ウォンの方を再び向いた。


「君はドラグーンりょうだ。左から二番目の入口にドラゴンの像が建てられているだろう?そこから入れ」


 ドラゴンと言えば一般的には災害級さいがいきゅうの魔物だが、ここで像が建てられているドラゴンはそれではない。

 魔法学校の入学試験でも頻出ひんしゅつするため、ウォンも知っている。

 はるか昔の魔法使いで、ドラゴンの使役に成功した魔法使いがいた。その魔法使いによって魔法を与えられたドラゴン、それがドラグーンだ。

 ウォンがかなり大きなその入り口を見上みあげ、中に入っていく。

 ここに入れとは言われたが、先には道などはなく、かべしかない。

 だが、ウォンには魔法使いの直感として伝わってくる。『前に進め』と。

 その直感にしたがって真っすぐ壁に進むと、壁に魔法陣まほうじんが浮かび上がる。

 まばゆい光に包まれ、ウォンは一度暗闇の中に放り出された。

 そして、何者なにものかの声が聞こえてくる。


「ほう?暗闇をおそれないか」


 ウォンよりもかなり低い男性の声。その言葉の通り、確かにウォンは暗闇にまれているにも関わらず、少しの恐怖も感じていない。当たり前だろう。に見えないものほど、自らをつくろうとしないからだ。

 ウォンからしてみれば、人間よりも警戒けいかいする必要がない。


貴様きさまは本当に人間か?」

「どうして?」

「あまりにも落ち着きすぎている。今までも闇を恐れない人間自体はいたが、少なからず瞬間的な動揺どうようがあった」

「驚かない」


 ウォンは迷いなく真上を向く。

 深淵しんえんを見た。


「わかった?」


 その瞬間には暗闇はなくなって、大きな部屋にいた。

 ソファや暖炉だんろがあるあたたかな部屋には、同じくあたりを見渡みわたして緊張している生徒たちがいる。

 そこで気づいたが、ウォンの制服も色が変わっていた。

 先ほどまで無色むしょくだった部分が、赤色で染まっている。

 これがドラグーン寮の生徒であるあかしらしい。


「新入生は移動しまーす」


 上級生が呼びかけて誘導ゆうどうを始める。

 いよいよ入学式だ。


**************************************


 講堂の一階には新入生たちが座り、二階にはその保護者。三階には上級生じょうきゅうせいたちが着席ちゃくせきしている。

 この規模きぼには思わず息を飲んでしまう生徒も少なくないだろう。

 ちなみに椅子のすわ心地ごこちも最高だ。

 そんな風にひたっている時間もなく、すぐに司会しかいと思われる男性がステージわきに立つ。


「これより、アステリア魔法学校、入学式を始めます。最初に生徒会長せいとかいちょう挨拶。生徒会長、三年、ギラン・タリタ」

「はい!」


 はっきりと空間くうかんに響く声が講堂に響き渡ると、ステージそでから一人の少年が歩いてくる。

 赤と金が混じり合った髪の毛は獅子ししのよう。赤いエンブレムの入ったローブを揺らし、壇上だんじょうに現れた少年が演説台えんぜつだいに立つ。


「初めまして。生徒会長のギラン・タリタです。まずはご入学、おめでとうございます。アステリア魔法学校は皆さんを一人前いちにんまえの魔法使いにするために、全力でサポートしてくれます。もちろん、魔法を学ぶ学校ですから、いのちの危険にさらされるような場面もありますが、その時は必ず俺達生徒会が、皆さんのことを守ります」


 とんでもなくさわやかな青年せいねんだ。新入生全体の緊張を緩和かんわさせると同時に、自身への信頼しんらいを高める。

 そして何より、圧倒的に力があるように見えた。


「ここで、生徒会のメンバーを紹介したいと思います」


 ギランがそう言うと、ステージ袖から三人の生徒が出てくる。

 三人が等間隔とうかんかくで並び終え、ギランが口を開いた。


「左から、アミラ・リリーカ、ロイ・アレン、エリューカ・ポロフ。三人とも俺と同じ、ドラグーン寮の三年生です。この四人で生徒会です。困ったときは是非ぜひ、頼ってください」


 アミラとエリューカという少女二人とギランがお辞儀じぎをしたが、ロイという少年だけはお辞儀をしないまま、ステージ袖へ消えていった。

 次に、司会の男性が口を開く。


「続きまして、校長挨拶。アステリア魔法学校校長、シャンラ・ランパート」


 返事もなくヒールのはずむ音だけ響かせて現れた魔女まじょに、講堂全体が息を飲む音が聞こえた。

 圧倒的に世界が違う。そう感じさせるだけの、確かな気迫きはくまとっている。

 シャンラが演説台まで来ると、一度会場全体を見渡し始め、ある一点を見つめて、本当に一瞬だけ目を見開いた。


「シャンラ・ランパートだ。今しがた見渡したところ、素質そしつのある生徒が数人すうにん見受けられた」


 その言葉に、会場がどよめく。当然だろう。その数人以外の大半は素質がないと言われているようなもの。魔法使いになりに来ているのに、入学にゅうがく早々そうそうその才能さいのうを否定されては、たまったものではない。

 だが、それすら受け入れざるを得ないほど、シャンラに講堂が支配しはいされている。


「ほかの大多数だいたすうは、その数人のために死んでもらう。死とは、魔法使いを強くするものだ。大多数には、そんな偉大いだい役目やくめを果たしてもらおう。よって、貴殿きでんらの入学を歓迎かんげいする」


 シャンラの言っていることを理解できている魔法使いは、保護者や上級生も含めて少ないだろう。

 まさかここにいる大多数がいしずえとなるためだけの存在だとは、肯定こうていしづらいからだ。

 しかし、シャンラはそれを肯定し、礎として入学を歓迎した。

 アステリア魔法学校の校長という肩書かたがきは、現代で最強の魔法使いであることを意味する。その最強の魔法使いが肯定したのだから、それが正しいのは間違いない。

 だが、同時にここで想像できてしまう。

 シャンラが現代最強の魔法使いになるまでに、一体いったい何人の命をみつぶしてきたのだろうと。


**************************************


 入学式が終わり、ウォンはペトラを校門まで見送りに来ていた。

 アステリア魔法学校は全寮制ぜんりょうせいであり、長期ちょうき休みでしか実家じっかに帰ることはできない。

 そのため、ペトラとはしばらくの別れになる。

 ペトラが結界のギリギリまで足を進めてから、振り返った。


「それじゃあ、もう行くわね。あんまり長居ながいするわけにもいかないし」

「うん」


 ペトラの浮かべる笑みには、嬉しさと寂しさがにじんでいる。

 今まで十四年間、良い意味でも悪い意味でも離れずに生活してきたからこそ、たとえ数か月の別れでも寂しいのだろう。

 そしてなんといっても、ペトラにはもうウォンしか残っていない。

 それがシャンラの言葉を聞いたウォンには、とても気がかりだったが、何か声をかけられるほど、ウォンは器用きようではなかった。


「夏休みには帰ってきなさい。ちゃんと友達ともだちを連れてね」

「うん」

「またね」


 ペトラは長話ながばなしなどする気はなく、それだけ言ってすぐに去っていった。

 そのいそようは、どこか不自然なものであった。


**************************************


 ウォンと別れたペトラが早歩はやあるきで街中を歩く。

 結界を出たというのに、まだ彼女の気配けはいが消えずにペトラの体に付きまとって離れない。

(これはマズイわね。早くしないと)

 ペトラはそのまま路地裏ろじうらへ入っていく。

 路地裏はまりであり、ここから先に進むことはできない。

 かといって、アステリア魔法学校の昇降口のように魔法がかけられているわけではない。

 つまり、本当に行き止まりであるということだ。

 そして、ペトラはゆっくりと振り返って、十四年ぶりに会うを見つめる。


「ペトラ。お前が来ているとは、、、驚いたぞ」

「シャンラ。あなたこそ、立派りっぱな校長になっているのね」


 先ほどの入学式で姿を現した現代最強の魔女、シャンラ。

 彼女が会場を見渡した時、不自然に一瞬だけ目を見開みひらいた。その時に視線の先にいたのが、ローブで顔を隠していたペトラだったのだ。

 確かに学生時代をともごし、笑いあった二人だが、その交差こうさする視線は明らかな殺意さついはらんでいる。


「あの話、説得力せっとくりょくがあったわね」


 ペトラがシャンラに向けて嘲笑ちょうしょうを浮かべる。


「アンドリューを殺してから、そんなに魔法が上手くなったのかしら?」

「ペトラ、、、、!」


 ペトラの挑発ちょうはつに、シャンラは声をあらげる。

 これはたんなる喧嘩けんかにはとどまらない。

 命をけた殺し合いだ。


「結界!」


 シャンラがさけんだ瞬間に、わずかな違和感が路地裏を包む。

 その違和感を感じ取ってからも、ペトラは嘲笑を浮かべるだけで、詠唱えいしょうをする気配もない。


「なぜ詠唱しない」

「だって、あなたには殺せないでしょう?」

「、、、」


 シャンラはペトラに右手を向ける。

 彼女のは冷たい。


「死ね、、!」

古代龍こだいりゅう


 何かの力がペトラに干渉かんしょうしそうになったところで、ようやくペトラが静かに詠唱した。

 シャンラの魔法からペトラを守ったのは、の体を持つドラゴンだった。

 そのドラゴンを見た瞬間、シャンラが目を見開く。


「必殺魔法か、、!?」

「あなた自身が言ったことじゃない。死は魔法使いを強くする。アンドリューの死によって強くなったのは、なにもあなただけじゃないのよ」


 昔はシャンラの方がペトラよりも、少し先を歩いていた。

 だが、今は違う。


「なんで殺したの、、?」

「、、、」

「答えて、、」


 ペトラの言葉に、シャンラは何も答えることができない。

 ただうつむいて、嫌なことから目をそむけようとするだけだ。

 しかし、このまま俯いているわけにもいかない。そうやって、友人ゆうじんを失ったのだから。


「ペトラ!」


 シャンラの魔法による何らかの力がペトラのドラゴンをやぶろうと迫ったが、その力は空をつかんだだけだった。

 誰もいなくなった路地裏にシャンラは腰を下ろすと、ゆっくりと深く息をく。


まいってしまうな、、」


 すると、何者なにものかの魔力を感じ取る。


「誰だ」


 路地裏の入口に向けてそう言うと、そこには見知みしった小柄こがらの魔女がいた。

 その姿を見て、シャンラは安堵あんどする。


「逃がしちゃってよかったの?シャンラちゃん」

「ルカ。ほとんどの力を学校を守る結界の維持いじに使っている。仕方ない」

「まあね~。でも、いつまでも先延さきのばしにはできないんじゃない?」

「ああ。メンバーを集めてくれ」


 シャンラの命令に、ルカは上目遣うわめづかいで見つめてくる。


「アイス買ってくれたらいいよ?」

「、、、分かった」


 シャンラの返事を聞いて、ルカは笑顔で右手を頭につけて敬礼けいれいした。


「かしこまり~!」

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