第6話

 しとしと、しとしと。

 排煙に汚れた黒い雨が、淀んだ帝都を染めていく。

 夜の帳が下りた頃。

 いつもは鮮やかに街を彩る機関ネオン燈の輝きも、空を覆う暗雲の下ではあまりにも頼りなく、傘を差して道を歩く人々の顔にもどこか影が差して見えた。


「どうもヤな天気だぜ、雨ってのはよ」


 煤がこびりついた窓から外を見下ろした坂口が身震いしてぼやく。

 白んだ息がガラスを曇らせ、黒ずんだ水滴をわずか見えなくした。


「で、調子はどうだい。帝都守護任陰陽師サマ」


「問題ありません」


 凛之助はといえば、身支度の最中だ。

 腰に退魔刀と銃嚢を巻いて、胸元に巻いたポーチへ呪符をしまう。

 両腕と太もも、それから脹脛にはそれぞれ二本ずつナイフが収められた革製のベルトを身に着け、最後に両腕に絡繰り仕掛けの籠手を付けて、外套を羽織って武装を衆目から隠す。


 陰陽師というにはこれ以上にない重装備だが、これがこの時代における……いや、この時代に適合した陰陽師の姿だ。

 ただ呪詛を操り式神を使役するだけでなく、時には己が矢面に立たねばならない陰陽師が、時代の力すら取り込んで身に纏った姿。

 その代表こそが、この赤城凛之助なのだ。


「毎回思うが、んな大装備じゃなくてもいいんじゃねえの?」


「伏魔滅殺、そのためには万全を期す必要があります。常に最悪を考え、そのための準備をするのは当然のことです」


「だからって、そりゃあ……」


 云いかけて、坂口は口を噤んだ。

 がちゃりっ、と金属の重苦しい音を鳴らして準備を整えた凛之助は、軽い準備運動がてらに身体を動かす。

 装備の重さを感じさせないしなやかな動きは、女性のようにほっそりとした見た目に反して人外めいた強靭な身体を有していることを示している。

 若くして帝都守護任陰陽師に上り詰めたる所以こそは、常人では死に瀕しても不思議ではない恐るべき鍛錬の結果なのだ。

 もっとも。

 裏を返せばそれは、青春のすべて──そう、文字通りすべて。得るべき仲間、必要な学び、最低限の生活、そして御師まで──を捨て去ったことに他ならない。自己を確立するための経験も、人格形成に必要なあらゆる時間を、鍛錬の一点に費やして地獄の道を進んだ証明だった。

 思春期を殺した少年。

 それが赤城凛之助という子供の正体なのだった。


「まあ、いい」


 迷い、いや未練だろうか。

 坂口は溜息を吐いて湧き出た感情を追い出すと、厳格な態度で云う。


「最終確認だ。お前の任務は日本橋に現れる辻斬り権兵衛の討伐、使用許可武装は退魔刀、祀狼丸。モ式拳銃。投げナイフのみ。各武装の調整確認はしたな」


「万事、抜かりなく」


「よし。余談だが雨が降っていることを鑑みるに銃撃は安定しないだろうことを伝えておく。んじゃあ、行ってこい」


「では、行ってきます」


「……ケガすんじゃねえぞ」


「はい。もちろんです」


 番傘を携えて照郭楼の外へと出る。降り積み止まない黒い雨の下で、機関街灯の明かりだけが頼りなく彼の行く先を照らしていた。

 

 今朝から続いていた雨によって増水した水がどうどうと下を流れる日本橋で、ひとりの哀れなモダン・ガールが、今まさに死の危機に瀕していた。


「あ、あぁ……タ、タスケテ……」 


 高級品の服が泥水に濡れるのも厭わず、地面を這ってでも逃げようとする彼女。

 その背後に佇むは、血濡れの刀を握る青白くも美しい顔をした、朽ち果てた甲冑に真っ赤な陣羽織を身に着けた尾籠の落ち武者。

 日本橋にて通行人を斬り刻み悦に浸る、骸骨めいて長身痩躯の黄泉返り男。


 さよう。彼こそ噂の怪異”辻斬り権兵衛”その人である。


「首ヲ、差シ出スガ、良イ……我ガ、首級トシテ……スッパト、潔ク……ソッ首、撥ネテシンゼヨウゾ……」


 ヒ、ヒ、ヒ、と薄気味悪い笑いを上げてにじり寄る辻斬り権兵衛は、錆び付き刃こぼれした刀でモガの足元を斬りつける。


 開かれた足の間、股下ぎりぎりまでスカート真っ二つにを斬りつけて、むやみに恐怖を煽る。快楽殺人者と噂されている彼は、噂に違わず彼女の反応を楽しんでいるのだ。


「ヒッ、アァ……お、お父さん、お母さっ……ごめんなさい……ごめんなさい……」


「ハ、ハ、ハ……心地、良キ……悲鳴デアル……」


 恐怖に耐えきれず失禁しながら、今までの親不孝と先立つことへの許しを請うモガを見下ろして、辻斬り権兵衛が高らかに嗤う。

 弱者を嬲ることに快感を感じるとは、なんたる邪悪だろう。

 しかしこの場に彼の悪逆無道な蛮行を咎める者はいない。死の淵にいる彼女を助ける者もまた、同じく存在しない。


「法悦ノ時、デ、アル……サア、首ヲ……差シ出セ……」


 刀の切っ先が天を衝き、空を駆ける稲光に輝く。

 錆で濁った鈍色の輝きはモガの瞳を射貫き、己の首が刎ね飛ぶ最期の瞬間を幻視させた。


「我ガ……手柄ト、シテ……死スル事ノ……真……誉高キ、也……」


 ついに振り下ろされた刃が雨粒を斬り裂きながら宙を走り、もはや悲鳴すら上げられなくなったモガの白く細い首に迫った。


 あわや日本橋にて斬首刑か。

 そう思われた、刹那。


「ム……苦無、カ……」


 突如として飛来した数本のナイフが、辻斬り権兵衛の足元に突き刺さる。

 すわ何者か! 後ろへ飛び退いた辻斬り権兵衛が顔を上げると、そこには真っ赤な番傘を差した書生がひとり、壊れて点滅を繰り返す機関街灯の明かりの下で静かに佇んでいた。


「な、何……今度はなんなの……」


「不意打チ、トハ……オノレ、卑怯ナ……不届キ者、メ……面、見セイ……!」


 黄ばんだ歯を剥き出しにして、辻斬り権兵衛が怒声を放つ。

 番傘の少年は足音もなくゆっくりとモガの傍に近寄り、傍に跪くと傘を置いてその正体を露わにする。


「あ、貴方は……」


「この傘を持って、早く逃げてください」


 縋るように見上げてくるモガに無表情のまま、しかし微かに心配の籠った声でそう告げたのは、眼鏡が特徴的な学生服の少年。


 帝都守護を担う若き陰陽師、赤城凛之助。


「面妖、ナ……餓鬼ノ、類カ……」


「辻斬り権兵衛だな?」


「餓鬼ニ……名乗、ル……名、ナド……ナイ……我、ガ……成敗シテ、クレル……」


「そうか」


 興味なさそうに短く答えた凛之助が、身体を覆っていた外套を翻して呪符を一枚取り出す。

 それは先日に作ってた土の属性を持った長方形の呪符ではなかった。人形を模したその符は、彼がもっとも信頼する味方に身体を与える依り代、式神札である。


「人々の平穏を乱す怪異をこれより滅殺する」


 式神符を眼前に掲げた凛之助は、身体の奥底から霊力を練り上げた。

 その量と密度は尋常の量ではなく、普通は目に見えないはずの霊力が荒らしい渦を巻く蒼白い光として目視できるほどだ。

 多量の霊力を一挙に与えられた式神符が、まるで呼応するように生き物の如くどくりと脈打ちながら徐々に膨れ上がる。

 霊力の輝きは闇夜を昼間と見違うばかりに辺りを照らし、逆巻く風が雨すらも吹き飛ばす。


「我が呼び声に応え、姿を現せ」


 そして、ついに。霊力の輝きの中から彼に取り憑いた悪霊が、式神となって姿を現した。


「出でよ、戌子!」


 呼び声と共に召喚されたるは、三尺五寸の小さな少女。

 しかしその橙色の長い髪の上には一対の犬の耳が、そして死装束たる白い着物の尻部分からは美しい毛並みの尻尾が生えている。

 可愛らしい人形と云っても疑えない姿だが、その正体は餓えた犬の怨念が形となった悪霊。

 恐るべき呪いの獣、犬神である。


「うむ! 戌子、ここに参上、なのじゃ! 待ちくたびれたぞ凛之助!」


 辻斬り権兵衛を鋭く睨みつけた凛之助は、刀を抜くと戌子に檄を飛ばした。


「人に仇なす怪異、辻斬り権兵衛を滅殺する! いくぞ、戌子!」


「応なのじゃ!」


 ひょいと隣まで浮かび上がって両手の鋭い爪を構えた戌子と共に、辻斬り権兵衛に切っ先を突きつけた。

 帝都守護の大任を背負う陰陽師の威厳、全身から放つ殺気は本物である。

 牙無き人々の安寧を曇らせる怪異を、凛之助は許さない。

 帝都の守護を担う誉れある陰陽師として、自身を育ててくれた御師の名に懸けて、己の責務を全うする。その決意が、彼の瞳を輝かせていた。


「邪知、暴虐ノ……餓鬼、ヲ……成、敗……致ス……」


 対する辻斬り権兵衛は、刀を構えることすらせずいかにも侮ったにやけ顔で仁王立ちする。よもや敵とすら思っていない。

 まるで油断し切った態度に、凛之助の怒りはいよいよもって限界に達した。


「驕りを絶つ! 陰流・圏土徴隷浄剋界(けんどちょううらいそうこくかい)!」


「ドトンがドン!」


 胸のポーチから土の呪符を六枚取り出し、呪言を唱えて戌子の霊力を合わせると、地面に叩きつけた。


 ”浄剋界”とは外から封ずる結界術。

 

 呪符より煌々と溢れ出る蒼白い霊力の輝きが、土を現す黄色に変化して広がりながら、長方形を作っていく。

 日本橋全体を囲んでしまえる大きさの結界は、宿りし土の属性を以て雨を遮り水を吸収する強固な壁となり、辻斬り権兵衛が持つ水の力を相克する土の属性を帯びている。

 その威力は凄まじく、結界に覆われた日本橋は見る見るうちに水分を奪われて乾き、雨は結界に当たった端から瞬く間に乾いて塵となってしまうほどだ。


「水は土を相剋する! この結界内ではろくな力も出せんじゃろう。観念するのじゃな、落ち武者モドキ!」


「ヌゥ……餓鬼、風情ガ……姑息、ナ……手ヲ……」


 思わず片膝を突いて、辻斬り権兵衛が悪態を吐き捨てる。

 あらゆる水分を吸収する結界に水分を奪われ続けるのは、水辺に生まれた怪異にとっていったいどれほどの苦しみか

 。人の身には到底計れぬ。当然、これほどに効果を強めた結界内では凛之助たちにも影響が出るのだが、そこは陰陽師、きちんと対策は用意してある。


「続けて、陽流・醒金霊殻覆浄生陣(せいきんりょうごくそうしょうじん)!」


 掲げた二枚の符から金の力を纏った白色の輝きが現れ、凛之助と戌子の身体に吸い込まれていく。


 ”浄生陣”とは内に封ずる結界術。

 

 金の属性を自身に封じて纏わせることで、土属性より生まれ出るは金属性、すなわち”土生金”の法則に適合し、凛之助と戌子のふたりだけがこの土の属性に満ちた結界内でも何ら影響なく動けるようになる。


 当代帝都守護任陰陽師、赤城凛之助が得手とする五行の真髄がここにあった。


「これにて準備は整った……いざ、推して参る!」


 怒りを滲ませて低く呟いた凛之助が霊力を身体に纏って身体能力を強化し、神速の踏み込みと共に退魔刀である祀狼丸を横一閃に叩き込む。

 二間ほどもある距離を一瞬で詰めて正確無比に首を狙った一撃は、常人の目に捉えることは不可能どころか気付くことすらままならないだろう。

 しかし辻斬り権兵衛もさるもので、不可視の踏み込みから繰り出された一撃をいとも簡単に刀で受け流して見せる。

 怪異の強さは呪詛や怨嗟の大きさで決まる。帝都全域で噂されていた辻斬り権兵衛の強さは云うに及ばず、大幅に弱体化したともその実力は侮り難し。


「何ノ……コレ、シキ……!」


「往生際が悪いッ」


 一合、二合、三合。

 一秒もないうちに三度続けて斬り結び、刃を鳴らす。

 束の間、残心。両者が一瞬だけ硬直した。


「とつげーき!」


「ム……」


 ところへ来るのが戌子である。

 凛之助の背後から現れた彼女が、不意打ち気味の貫手を頭上へ振り下ろす。

 舌打ち混じりに戌子の貫手を後ろに跳躍して躱すが、避けきれず辻斬り権兵衛の額に縦一筋の浅傷が刻まれる。

 赤とも紫ともつかぬ、異様な色をした無気味な液体が額の傷口から滲み滴るが、すぐに乾いてひび割れた青白い肌に跡だけを残していった。


「卑怯千万、也……!」 


「へーん! 戦いに卑怯もヘチマもないのじゃ! ばーかばーか!」


「戦闘中にふざけない!」


 空中でべっかんこうする戌子を叱責しつつ、凛之助が下段斬りで足元を狙う。

 ほとんど転ぶみたいにして辛うじて躱す辻斬り権兵衛だが、そこへ再び、凛之助の影から戌子の貫手が襲い掛かる。


「そこだ!」


「そりゃそりゃそりゃー!」


「グッ……」


 ふたりの息の合った連撃を前に、辻斬り権兵衛は体勢が崩れたまま立て直せず、ついに躱し切れずに傷を負う。

 無気味な色の血飛沫が、空中で乾いて粉塵と散った。

 戌子の影から飛び出すようにして振るわれた神速の突きが、赤い陣羽織を引き裂いて左肩に深々とした傷を刻んだのだ。


「オノレ……!」


 ほとんど無理やりな体勢で跳躍して距離を取った辻斬り権兵衛は、限界が近いのか疲労困憊といった様子で片膝を突く。


「終わりだ」


 凛之助はゆっくりと、油断なく刀の切っ先を向けて云った。

 後ろでは戌子が勝ち誇った顔で胸を張っている。

 勝敗は、決していた。

 追い詰められた辻斬り権兵衛は呻き声を発して俯くが、すぐに立ち上がり刀を向ける。怪異でありながら勝ちを諦めぬ姿勢は見事だ。

 だがしかし、この不利な状況下では抵抗もそこまでである。


「陽流・泥染土替封縛唱(でいせんとがふうばくしょう)……とどめだ、戌子!」


「応! やるぞ凛之助!」


 二枚の呪符が土の属性を放ち、ふたりの身体を包み込む。土生金から水虚土乗、土の力が過剰になり完全に水を制圧する状態へ変化する。

 凛之助が腰を落として刀を水平に構える。

 付き従う戌子は彼の身体へと溶け込み、すべてを切り裂く大爪として刃に宿る。

 溢れ出る霊力の奔流は荒々しく宙を満たし、常人ならば場にいるだけで冷や汗が滲むであろうほどの圧を放つ。


 最中。


「オォッ……!」


 獣の如き雄叫びを上げて、辻斬り権兵衛が動いた。

 技が完成するよりも早く斬り倒してしまおうと、大上段から練り上げられた一撃を凛之助へと叩き込むつもりなのだ。

 窮鼠猫を噛む。

 死の淵に瀕してもっとも鋭く研ぎ澄まされた辻斬り権兵衛の刃は、並の陰陽師には……否、指折りの実力があると云われる陰陽師にすら迎え撃つのは不可能に近かった。

 ましてや大技の準備中である凛之助が、これを躱せようはずもない。はたして死は絶対のものと思われた。


 だが、一歩届かない。


「祀霊忠技殺法(しれいちゅうぎさっぽう)──」


 全身から練り上げられた霊力が土の属性を現す黄金色の輝きとなって身体を包み込み、やがて餓狼と見違うほど獰猛な獣の形を作る。瞳が琥珀色に染まり瞳孔が赤い燐光を放つ。

 ここに、式神を己に憑依させその力を自身のものとして振るう陰陽師の奥義にして禁断の御業、当世において"唯一の使い手"たる彼の祀霊忠技殺法が完成した。


 そして、一閃。


「狼牙地爆断(ろうがちばくだん)!」


 倒れ込むかのような深さで踏み込み、大きく身体を回転させながら刀を振るう。

 あらゆるものを切り裂く必殺の刃は、交錯した辻斬り権兵衛の刀を半ばからへし折り、血の赤紫を纏った弧を描く。


「無念、ナ……リ……!」


 折れた刀が派手な音を立てて、日本橋の上を転がった。

 臍を境に真っ二つに両断された辻斬り権兵衛の身体から、人々の畏怖や怨念が籠った赤黒い邪悪な霊力が噴き出し、恨みの咆哮と共に爆発霧散した。


「伏魔滅殺」


「御粗末! なのじゃ!」


 あとに残るは、耳鳴りにも似た静寂だけが残されるのみ。

 刃に付着した血粉を振り払い、鞘に納める。戌子が身体から分離して大口を開き、赤黒い霊力の塊を飲み込むと、いかにも恰好つけてふんぞり返った。


 これにて、一件落着。


 日本橋に張られていた結界が解かれて、黒い雨がふたりを濡らした。

 ここに怪異辻斬り権兵衛は討たれた。これで日本橋に怪異が出ることはない。

 噂もじき消え失せて平和も戻るだろう。

 怪異辻斬り権兵衛、これにて討伐完了である。


「のおのお凛之助! 今日のわし、とってもえらかったじゃろ! いっぱい活躍したじゃろ! ほめてほめて!」


「ん? ああ、偉いぞ戌子。よくやった」


「むふーっ!」


 腰に手を当てて胸を張る戌子の頭に手を置いて手櫛で労るように髪を梳けば、戌子は尻尾を千切れんばかりに振り回して喜びを露わにする。

 陰陽師にとって式神とは使い捨ての道具である。

 本体は霊体で、式神符さえあれば霊力が続く限り何度でも召喚できる消耗品である。それを労いかわいがるなど、一般的な陰陽師の感性ではない。

 だが見るがいい。

 彼女の頭を撫でる凛之助の表情は、感情の見えない冷え切った人間の姿ではなく、年相応の情緒に溢れた美しい少年の顔だった。


「あ、あの……」


 戌子を褒めていると、恐る恐ると近付いてきたモガが声をかけてきた。

 

「助けてくれて、ありがとうございます。……でも、その……君は、いったい?」


 貰った番傘を凛之助の頭上に差し出してモガが云う。その表情は、相手が命の恩人である奇妙な格好の少年と幼女ゆえなのか、恐れ少しの興味がほとんどと云ったところだ。


「帝都守護任陰陽師、赤城凛之助です」


 対して凛之助は、さきほどまでの豊かな表情を急に失い、鉄仮面になって答えた。

 モガは、呆気にとられたような、納得したような、変な顔をした。

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