第8話




「サーシャはお菓子を作るときどうやって作っているの?」


 サーシャに薬づくりの過程を見せながら、尋ねる。

 ちなみに今は材料をすりつぶしているところだ。

 まずは薬草をすりつぶしている。


「んー?美味しくなってねって思いを込めて作っているわ。」


「ふぅ~ん。薬も美味しくなれって思って作ればいいのかなぁ?」


「ミーニャはなんて思って作っているの?」


「えっと、よく効く薬ができますようにって思ってたかなぁ。」


 サーシャに聞かれていつも薬を作っている時のことを思い出す。

 毎回、誰よりも効果の高い薬を作りたいって念じながら作成していたなぁ。

 うわぁ。今思い返すともしかして、私、薬に呪いをかけていたかも……?


「私と同じね。お菓子や薬に込める気持ちが強すぎたのかしら。」


「あっ……。私も同じこと考えてた。」


 サーシャと同じことを考えてた。薬に込める気持ちが強すぎて失敗してたんじゃないかって。

 実は私とサーシャって似ているのかもしれない。

 

「ふふっ。一緒ね。なら、薬に込める気持ちを変えてみよっか。」


「うんっ!」


 私はサーシャのアドバイスどおりに薬に込める気持ちを少しだけ薄めて、次にすりつぶす蚯蚓を壺から一つまみほど取り出した。

 

「ひっ!!?」


「え?」


 突然サーシャが悲鳴を上げて私の側から飛ぶように後ずさった。

 

「ちょっ!!!あんたなんてもん掴んでるのよっ!!」


 サーシャは私が摘まみ上げた蚯蚓を指さしながら震える声をあげる。

 

「え?薬の材料だからこれから潰さないと……?」


「はっ!?そ、そんなのを薬に入れてたのっ!?」


「うん。蚯蚓はね滋養強壮に良いんだ。だから、薬の品質を上げることができるんだよ。必需品なの。」


「えっ……。それって、ニルヴァーナさんの回復薬にも入ってんの?」


 サーシャの顔色は悪い。なぜだかとっても悪い。

 

「どうなんだろう?薬師はね、弟子以外には薬のレシピを公開しないんだよー。弟子にも秘密にするレシピだからね、ニルヴァーナさんがどんな回復薬を作ってるのかはわからないかなぁ。」


 私は考えながら答える。

 正直ニルヴァーナさんの薬になにが使用されているのかはわからない。

 ある程度は見たり飲んでみたりすればベースとなっている素材はわかる。だけど、ベースとなっている素材に効果を高めるための隠し味的な独自の素材を用いていることが薬師には多い。

 薬師によって薬の効果に差異があるというのは、この点が原因だ。


「え?ミーニャってニルヴァーナさんの弟子じゃないの?」


「うん。そうだよ。私の師匠は別にいるよ。もう死んじゃったけどねー。」


 私は手にした蚯蚓を薬研の中に放り投げると問答無用でぐにぐにと潰していく。

 

「うわっ。」


 サーシャは私が蚯蚓をつぶすのを見て居られないようで、両手で目を覆ってしまった。

 よっぽど蚯蚓が嫌いらしい。

 

「だからね、サーシャも秘密にしてね。私の回復薬に使用している材料については。」


「わ、わかったわ。」


「うん。ありがとう。」


 サーシャと話しながら作業をしていると薬に対して強い思いを注ぎ込まなくてすむ。なんかいいかもしんない。

 この調子なら臭いも味も問題ない薬が作れるかもしれない。

 私の期待は大きく膨らんだ。

 次の材料であるカプリンという香辛料を手に取る。この香辛料は栽培が難しく野生でしか手に入らないので入手難易度が高い。

 でも、入手難易度が高い分だけ効果は抜群。血流を良くするので傷ついた細胞を修復しやすいのだ。ただ、そのまま食べると辛すぎてかなりやばい。

 口から火が出そうになるほど辛いのだ。


「なんか、辛そうね……。」


「うん。辛いよ。」


「どばどばいれるわね……。」


「その方が効くからね。」


 カプリンを5つほど薬研ですりつぶしているとサーシャが引きつった顔で話しかけてきた。まださっきの蚯蚓を引きずっているのだろうか。

 やっぱり生き物をすりつぶすってのは薬師じゃなければ抵抗を感じるのかもしれない。

 まあ、生きている物っていったら薬草やカプリンもなんだけどね。動かないからあんまり抵抗を感じないのかな。


「……それ、一人分の回復薬なのよね?」


「うん。そうだよー。」


「その赤いのそんなにいれる必要あるのかしら?」


「あ、これカプリンって言うんだよ。可愛い名前だよね。えっと、いっぱい入れた方が薬の効果が良くなるかなって思って。」


「でも……そんなに入れたら辛すぎて薬飲めなくならないかしら?」


 サーシャは恐る恐る問いかけてきた。

 

「うん。辛すぎて飲めないね。一口飲んだら悶絶するよ。」


 私は初めて回復薬を作った時のことを思い出して顔をしかめた。あれはもう二度と経験したくない。それほどまでに辛かった。というか、痛かった。

 口が切り離されたんじゃないかってほど痛かった。


「だからね、このカエルの油で辛さをまろやかにするんだよ!」


「ひぇっ!?」


 私がガマガエルの油を取り出すとサーシャが悲鳴を上げた。

 いや、でもガマガエルの油だし。ガマガエル自体はここにいないし。

 ガマガエルの油は生きてないから大丈夫だと思うんだけどなぁ。まあ、臭いけど。尋常ないくらい生臭いけど。

 私はすりつぶした薬草と蚯蚓、カプリンを小鍋に入れ、その中にガマガエルの油をたっぷりと入れた。

 そして、火にかけてぐるぐると混ぜる。

 

「ね、ねえ、臭いんだけど……。」


「うん。臭いね。薬を作ってるからね。」


「……そんなレベルじゃないくらい臭いと思うんだけど……。」


「そうかな?私の中では普通だからよくわからないや。」


「……そう。」


 それっきりサーシャは黙ってしまった。

 私は薬づくりに集中する。

 

 そして、回復薬は完成した。

 どろどろの見た目は今までと同じだ。

 臭いも……たぶん同じ?ずっと臭い中にいたから鼻がマヒしてよくわからなくなってる。

 

「できたよぉ。サーシャ。サーシャに手伝ってもらったし少しは飲みやすくなってるかな?」


「……変わんないと思う。絶対。」


「そうかなぁ?私は良くなってると思うんだよね。ちょっとニルヴァーナさんにも聞いてみようよ!」




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