第16話  ~⑯~

 中間テストが、なんだかんだでやっと終わった。昼休みだって、なんだかのんびりとしている。

 もう制服の上着を着ていると、蒸し暑い季節になった。

 一夜づけだが、ちゃんと勉強はしたので、まあ、そこそこ大丈夫な点数はとれると思う。クラスで一番になんてなれっこなくたっていいんだ。そんなのは初めからあきらめてたけどね。俺なんかより頭のよさそうなのが、いっぱいいるからなあ。せめてジュンちゃんたちとの中で一番になれたらいいや。

 そんなときだった。

 教室のドアから上級生の顔が、なぜかひょいとのぞいた。きょろきょろと教室の中を、誰かを探すように見回している。いきなり上級生が教室にきたんで、クラスのみんながざわつきはじめた。俺もなんだろうと、ちょっと緊張した。

 すると上級生の女子と男子の二人組が、「ちょっといい」って、女子の方がいって、教室にずかずか入ってきた。そりゃあ、このときみんなはおどろいた。普通、上級生が下級生の教室に入ってくることなんて、ありえないからだ。「ええー。うそー」とかいう声があちこちで飛びかった。俺もふくめて、みんながみんなビビったのだ。

 女子の方は、髪をポニーテールにくくっていて、いかにもお姉さまって感じだ。

 男子の方は、黒縁の眼鏡をかけて、ひょろっとしていて、いかにもヤサ男って感じだ。

 ちなみに女子の方が男子の方より、ほんの少し背が高かった。男子の方は俺よりちょっとだけ背が低いって感じだ。

 俺は最初、生徒会の人だろうと思ったけど、どうやら違うようだ。

「ねえ。君。このクラスに斎藤さんっているかなあ?」

って聞かれたのは、まさにトイレにいこうとしていたジュンちゃんだった。

「斎藤さんなら、この子だけど」

と、ジュンちゃんは自分の席で本を読んでいるサヨカちゃんを紹介した。ジュンちゃんはどこか面倒見のよいとこがあるんだ。

 サヨカちゃんはきょとんとしていていた。

「そう。わかったわ。ありがとう」

「ああ。じゃあ。俺、トイレいくんで、これで。おーい。アキオ。たぶんおまえに関係する話だぞ。こっちこいよ。じゃあ」

ジュンちゃんは大声で俺を呼んだ後、教室を出ていった。

 クラスのみんなの視線が俺に集中し、また上級生の方にうつって、そしてまたその視線は、俺に戻った。俺も何ごとだろうと思って、サヨカちゃんの席の方へと、近づいていった。俺とサヨカちゃんに関係する話といえば、たぶん占い部に関する話か?   もしかしてこの人たちは新入部員なのか?

「あなたが斎藤沙世香さんかしら?」

「はい。そうです。あなたたちは?」

「斎藤さん。単刀直入にいうわ。私たち占いとかに興味あってね。占い部に入りたいんだけどさ。まだ大丈夫なのかしら?」

「部員になってくれるんですか? それはもう喜んで。大歓迎です」

サヨカちゃんも立ち上がって、手を合わせてうれしそうにいった。

 俺はそういや掲示板はもう新しいのにかえられたのに、よく新入部員がきてくれたもんだなあと、二人の顔を交互に、ぼんやりと見た。やっぱり上級生はなんか怖い。

「よかったわ。もうだめなのかと思ってたから。私はダウンジングとかに興味あるの。それから、こいつは……」

「ぼくは、小嶋健太朗。二年三組だ。もちろん君たちより上級生だ。ぼくは水晶占いに興味がある」

「もうそんなふうにいわなくていいのよ。二年生だからってそんなに気を使わないいからね。そうね。まだ名前いってなかったわね。私は吉川一伽。私も同じく二年三組よ。占い部があったらいいのにってずっと思ってたの。だからよろしくね」

「あの……ぼくも占い部で、堂島彰生っていうっす。アキオって呼んで下さい。よろしくっす」

俺も一応なのかどうか知らないが、自己紹介してみた。

「よろしく。アキオくん」

「よろしく。同じ男同士だ。仲よくしようじゃないか」

そういわれても、俺はこのとき、小嶋さんと仲よくやっていく自信はあまりなかったんだ。

 男子の部員が増えるのはうれしいんだが、なんかこの小嶋さん、どこかオタクっぽいんだよ。別にオタクが嫌いってわけじゃあないんだけども、ちょっとからみづらそうな気がするんだよな。

「二人とも喜んで入部を認めます。二人とも今日から占い部の一員です。けど、まだ正式に部は立ち上がっていないんです。部室とかもまだないですし、でも部員はじゅうぶん集まりました。全部で七人です。近いうちにこちらから連絡します。石田先生に部員のみんなで相談しにいきます。よろしくお願いします」

俺はサヨカちゃんって敬語が上手だなあと思いながら、口をぽかんと開けて、彼女をぼんやり見ていた。

 俺なんて、上級生に敬語なんて上手く使えそうにないや。サヨカちゃんってすげえなあって、ちょっとまた尊敬しちまった。

「じゃあ。よろしく」

「よろしくね。斎藤さん。アキオくん。連絡待ってるからね」

「ああ、よ……よろしくお願いします」

上級生二人はウキウキした様子で、そして、ちょっとおじゃまだったかしらというふうに、教室を出ていった。

 クラスのみんなが何ごとだったんだろうって、ざわざわしている。「また占い部の斎藤さんと堂島くんよ」とか、「もういいかげんにしてほしいわねえ」とか、聞こえてくる。悪かったなあ。俺たちのせいで。

「おーい。アキオー。今のなんだったんだー。占い部なのかあ?」

「アキオ。また何かやらかしたんだろー。怒らすなよーん。上級生をさあ」

「いいから。ソウタやナオは向こういってろ。なんでもねえから」

ソウタとナオは、「はーい。向ういきゃいいんだろ」と、離れていった。

「それより、よかったなあ。サヨカちゃん。これで部員集まったんじゃあないか?」

「ええ。だからいったでしょ? 必ず部員は集まるって」

「でもサヨカちゃん、二週間くらいっていってたけど、もう二週間すぎてるぜ。そいつはどうなんだよ?」

「占いはそんなピンポイントには当たらないわよ。しょうがないのよ。そればっかりは」

「でも、ほんとによかったなあ」

「ええ」

サヨカちゃんはいつものようにそっけないけど、本当は喜んでるんだろう。

 これでまたペダルを一歩前に進めたな。占い部は。ここから本格的に始動だ。やったぜ! 

 もう七人も集まったんだ。みんなで力を合わせれば絶対大丈夫だ。やるぞー! 占い部! テンション上がってきたぜ!


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