プロローグ

「危ない、アル!」

 ぼくはそう叫ぶと、棒立ちの親友に飛び付いて抱きしめた。その刹那、

 ばこーん!

 という音がすると同時に、後頭部に激痛が走った。

 あ、これ、死ぬな……

 



 今日はいつものメンバーでピクニックに来たんだ。

 つまりぼくと、かわいい妹のミリアム。親友のアルとジョー。アルの妹のレティ。それと、今日は特別にアルの飼い犬のバウも一緒。


 バウはすごく賢い犬だから、とってこいが上手なんだ。

 だからみんなで順番に、バウお気に入りのフリスビーを投げて遊んでたんだ。

 そのフリスビーが。

 レティが投げるのに失敗して、手からすっぽぬけた。そのままアルに一直線。


 考えるより先に体が動いた。

 アルを守らなきゃ、って。

 親友だもんね。

 でもフリスビーに当たって死ぬのは、カッコ悪いなぁ。

 もっともっと、みんなと楽しく過ごしたかった……。




 ◇◇




 声が聞こえる。

「死んじゃイヤ」

「なんで死んじゃったの」

 途切れることのないすすり泣き。


 誰かお亡くなりになったのかな?声の主たちは女の子たちみたい。わたしと同じくらいの歳かな。

 かわいそうに。


 目を向けると、棺のまわりで沢山の女の子たちが泣いている。お揃いの紺色のブレザーにチェックのスカート。女子高生だ。


 って、あれ?

 わたしの学校の制服だ。

 ていうか。

 泣いているの、みんな部活の仲間だ!なんで?誰のお葬式?

 わたし、何も聞いてないよ?


 あれ。なんで聞いてないお葬式に、わたしは来てるんだ?


 おそるおそる、視線をあげて遺影を見る。

 知った顔。

 誰だっけ?


 って、わたしだー!!




 ◇◇




 叫んだ瞬間、目の前に見慣れた天蓋が飛び込んできた。

 全身にじっとりとした汗をかいている。


 しばらくしてから、ほっ、と息を吐いた。

 夢だったんだ。

 わたし、死んじゃったのかと思ったよ。

 あー、焦ったわー。


「死んじゃいやっ」


 ん?

 このセリフ。夢だったよね?


「死なないで、ヴィー」


 ん? ん ?ん?

 今度は誰のお葬式なんだ?


 またしても声のほうを見やると、寝台の傍らでレティとミリアムが泣き伏していた。

 その後ろにはアルとジョーが椅子に座って、ぼくを見ている。


「お嬢様がた! ほら、お目覚めになりましたよ!」

 ウェルトンの声がけに、レティとミリアムも顔をあげてぼくを見た。涙にまみれてぐちゃぐちゃだ。


「ヴィー」

 と、アル。レティの隣に膝をつくと、硬い表情をわずかに和らげて言った。

「ありがとう、ぼくを助けてくれて」


「当然だろ! ぼくたち親友じゃないか!」

 そう答えてから。

 あれ、わたし。ぼく、って何?

 いや、待て。わたしってなんだ?


 順ぐりにみんなの顔を見る。

 アル、ぼくの親友。レティ、アルの妹。ミリアム、ぼくのかわいい妹。ジョー、ぼくの第2の親友。ウェルトン、ぼくの侍従。

 いつものメンバー。いつものぼくの寝室。


  がんがん痛む、後頭部。


 でも。

 さっきまで泣いていたのは部活の仲間。

 わたし。女子高生。だよね?


 あれ? どうなってるの?


 頭、割れそうに痛いし。

 視界がぐるぐるとまわる。気持ち悪い。


「ヴぃー!? 大丈夫!? ヴぃー!!」

 みんなが叫ぶ声が遠くに聞こえる。


 ごめん、ぼくはダメみたいだよ…… 




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