メスガキ聖女に鯖の味噌煮を与えてみた。

 俯き、戦意喪失している魔女シーアンドスカイ。全ては勘違いから始まった一連の悲劇、が……聖女ラムではなく勇者ディタが魔女シーアンドスカイに尋ねた。

 

「シーアンドスカイ。君の封印を解き放ったのは、ニコラシカ・キラーガールで間違いありませんね?」

「ああ」

 

 聖女ラムはニマニマとシーアンドスカイを見つめているので、また面倒臭い事を言いそうだなと一葉は聖女ラムに、

 

「聖女サマ、前に1日前から作ってた鯖の味噌煮良い感じで味がしみてると思うっすよ」

「ふーん、良いじゃない! 外にいるラーダも呼んで雑魚魔女を眺めながら食べるわよ!」

 

 ほんとこの聖女サマはと思いながら、一葉は「二人とも、外でご飯にしましょう。というか、シーアンドスカイさん。外のドラゴンどうにかしてくれますか? ラーダさんとディタさんの仲間が戦ってるんすよ」

 

 そう、外は外でシーアンドスカイとか別種の脅威と戦っている。そんな一葉の言葉を聞いてフッと笑うと、「私が敗れたんだ。ドラゴンももう戦意を喪失している」と言うので、実際に外を見に行くと、丸まっているドラゴンと疲れ果てて座り込んでいる魔女ラーダ。そして勇者パーティー達の姿。

 

「ラーダさん、無事っすかー?」

「ひっくん! もうへとへとじゃああ」

 

 と、本当に疲れたような顔をしているのを見て、聖女ラムは「ほんとにざぁーこ!」と煽り散らかしている中、キラキラした瞳で勇者ディタが聖女ラムを見つめ、

 

「聖女様! 是非、聖女様の奇跡で従者の魔法使い殿と私の仲間達を癒してくださいませんか?」

「はぁ? ……し、仕方がないわね。アンタ達、こっち見ときなさい! あーしの最高の回復魔法使ってあげるんだからぁ! 泣いて喜びなさいよ」

 

 聖女ラムは目を瞑り「神よ神よ、我ら神の子に等しい慈愛の光を与えたもう。オメガ・ヒール!」

 

 体力、怪我、それだけじゃなく、精神的な安定すらももたらす聖女ラムの回復魔法。おぉ! と皆感動している中で、怪我や病気という物がそんなに簡単に治ってしまう状況に一葉だけ、身体に悪そうだなぁと思って見つめていた。

 

「そうだ。鯖の味噌煮だけだと寂しいのでご飯と味噌汁も作りますね」

 

 とは言ったもここには全員で八人いる。一葉の持つ飯盒はマックス5合炊き、山盛りご飯を食べるであろう聖女ラムが足りないとごねるだろうから、最大サイズのメスティンも用意した。これなら3.5合。これを聖女ラム用として、残りのメンツは5合あれば足りるだろう。

 続いて味噌汁。今回はワカメの味噌汁を作ることにした。なんせメインは鯖の味噌煮。同じ海の幸であるワカメのシナジーは言うまでもないだろう。

 

「聖女様の勇者殿、何か手伝うことは?」

「そうっすね。じゃあ、このたくあんを一口大に切ってもらえるっすか?」

「これは……見たことのない野菜の漬物? それも味がつけられてる」

 

 沢庵ももちろんこの世界では謎すぎる食べ物なんだろうなと、お味噌汁はすぐに出来上がるので、あとはお米が炊けるのを待つ。

 

「カミヤァああああ! まだーーーー!」

「まだっすよ」

 

 お腹が空くとイライラが溜まっていく聖女ラム、イライライライラ、絶対行列のできるラーメン屋とかに聖女ラムを連れていく事はできないだろうなと一葉は思いながら、良い感じでメスティン、飯盒共に吹き出したのでそれらをひっくり返す。

 

「メスティンはひっくり返さなくても良かったんだ。まぁいいや」

 

 基本、これらの道具は失敗しにくくできている。しばらく蒸らすとホクホクのお米が炊き上がる。こんな事もあろうかと、紙皿に紙の器を用意してもらっていた一葉は全員分、味噌汁とご飯をよそって入れる。紙皿には沢庵を四切れとしっかり味のしみしみにしみた鯖の味噌煮。

 

「できたっすよ!」

 

 全員に配り終えると、「こんな豪華な食事を冒険中に食べられるとは思いませんでした! いただきます」と勇者が言うのでそれに続いて、

 

「「「いただきまーす」」」

 

 と勇者パーティーが食べ始める。魔女ラーダも「おほぉお! この甘辛い魚の旨いことぉ!」と満足気なのに、聖女ラムは、下手くそなお箸の持ち方をしながら、機嫌が悪そう。

 

「聖女サマ、口に合わなかったっすか?」

 

 砂糖醤油に生姜、もしかしたらこっちの世界の味覚にはマッチしなかったかなと一葉は思っていたが、その逆だった。

 それ故、聖女ラムは機嫌が悪い。

 

「ちょっとおー、あーしの食べる分、これだけじゃない! あいつらいなかったらもっとあったのにぃ!」

 

 要するに鯖の味噌煮がもっと食べたいと言う駄々を捏ねているのだ。とは言え一人分としては大きめに煮付けている。

 

 

「まぁ、良いじゃねーすか、また作ってあげるっすよ」

「当たり前じゃない! 一葉はそんな当然の事言ってあーしに恩を売るつもり? はぁ? きもっ!」

 

 とか言いつつ、ガツガツご飯を食べ進める。3.5合の米がみるみる内に減っていくのは流石の一葉も呆れるしかなかった。

 

「カミヤぁあ? ごはん!」

「めっちゃ米好きっすね? 聖女サマ」

「はぁあああ? アンタがあーしをこんな身体にしたんだから責任取りなさいよねぇ! 分かってんの?」

 

 どんな言い方だよと思いながらもご飯が入っていた紙の器を無言で差し出してくるのでそこにご飯をよそう。今までパン文化で生きてきた聖女ラムからするとお米という物は強烈な食文化革命だった。日本昔ばなしばりの超大盛りをよそって聖女ラムに一葉は渡すと、勇者パーティーに囲まれている魔女シーアンドスカイ。もうすでに抵抗するつもりはないが、その中で鯖の味噌煮定食を食べているので、一葉はシーアンドスカイに話しかけてみた。

 

「シーアンドスカイさん、うまいっすか?」

「ああ、うまいよ」

 

 きっとこれからシーアンドスカイはなんらかの罪の償いがあるんだろう。勘違いしていたとはいえやった事は犯罪だが、被害者である部分も一葉は考えていた。そこで懐から、小さな瓶のワインを二本取り出す。

 

「まぁ、あれっすよ。あれでいて、聖女サマそれなりに優しいところもあ流かもしれないので、罪を償ったら聖女サマの従者をしに戻ってきてくださいっす! その選別にコレ飲みませんか? ワインっす」

「酒か……」

 

 キャップを渡してコツンと瓶を合わせて一葉はグビグビと飲んで「プハー、うまいっすね」とシーアンドスカイはちびりと口につけて、少し目を瞑る。

 そして……

 

「美味いな。初めて酒を飲んだ」

「マジっすか……」

 

 もしかして未成年に飲酒させたかと一葉は少し不安になるが、随分昔の人だしセーフだろうかと考える。そして屈託のない笑顔でシーアンドスカイは笑った。

 

「ありがとう。お前の名前は?」

「神谷一葉っす。ラーダさんも魔女ですし、それなりに楽しい旅になると思うっすよ」

「そうだな。そうなればいいな」

 

 ころんとシーアンドスカイはワインの入った瓶を捨てて、剣を抜いた。それをみた瞬間、勇者パーティーは立ち上がる。シーアンドスカイは一葉をドンと突き飛ばした。

 

 そしてその瞬間、ズドン! とシーアンドスカイは天より放たれる魔法に撃ち抜かれた。

 

「聖女サマ!」

 

 一葉の叫びに、聖女ラムは口一杯にご飯を頬張った状態で、今の状況を見てむぐむぐとご飯を飲み込む。そして血を流して倒れているシーアンドスカイに、

 

「だっさ! 魔女の癖に他の魔女の攻撃受けてやんの」

「聖女サマ、すぐに傷の手当てを」

「っち。わーってるわよ。ちょっと見せてみなさいよ」

「触るな……呪いがかけてある。私を媒介にお前たちを一網打尽にするつもりだろう。私に回復魔法を掛ければ奴の呪いが発動し、全員に死の呪いをかけるだろう」

 

 めっちゃヤバい奴だと一葉はそのに驚愕する。このまま、シーアンドスカイを見殺しにしなければいけないのか……そんな時、聖女ラムは、

 

「神よ神。我が祈りを聞き入れ、過弱き者に癒しの力を与えたもう。オメガヒール!」

「私に魔法をかければ呪いが発動すると言っただろう!」

「は? あーしにそんなクソ呪いが解けないとでも? ほんと、古代の魔女ってナーンも知らないのねぇ、あーしは古今東西あらゆる呪いが効かないんだから! ぷぷー、ウケるー」

 

 シーアンドスカイの身体の傷を癒しながら聖女ラムは発動した魔女の呪いも同時に対処する。勇者パーティーの魔法使い、そして魔女ラーダも驚くそれ、


「神よ神。我らが愛おしいきアルバスの神よ。いずれその御身に近づく我らの整列を乱す悪しき者を割り出し、戒めをお与えたもう! オメガアンチカーズド!」

 

 シーアンドスカイの中で発動し、周囲の者を巻き込んだであろう。強烈な呪いを聖女ラムは解除してみせた。そして聖女ラムは、

 

「あーしにこんなクソ面倒な事させてくれた魔女には置き土産を与えておいたんだから! 今頃、指の一本でも吹っ飛んで泣いてるんじゃなーい? 何が全員を殺す呪いよ。あーしからしたらカスみたいなものね。程度が知れるは古代のまーじょ!」

 

 ツンツンとシーアンドスカイを突いて煽る聖女ラム。一葉からすればかなりウザいそんな聖女ラムの行動だが、シーアンドスカイは開いた口が塞がらない。自分を目覚めさせた魔女ニコラシカ・キラーガールの呪いは自分の魔法の全てを使っても解除させることができなかった。それを聖女ラムは最も簡単に解除してみせた。

 

「聖女ラム・プロヴィデンス。お前は凄いな。お前ほどの魔法使いを我は見たことがない」

 

 聖女ラムは煽り耐性は低いが、褒められ慣れはしているので、その言葉に嬉しそうにシーアンドスカイを見て「はぁあああああ? 今から尻尾振るつもりぃ? ちょーきもいんですけどー! これが魔女って言う連中なのぉ? ラーダ、アンタもなんかいいなさいよ」


 いきなり絡まれる魔女ラーダ。彼女の考えている魔法術式のいくつかを考えても先ほどの聖女ラムの力はまさに聖女と言う者が使うに相応しい力だった。

 

「いや、わしも正直、驚いたぞ。魔女の呪いをあーも簡単に解除してのけるとはな……」

「キャハハハハハ! 何それ! 魔女ってそんなに凄いのぉ? なのに、あーしに負けてんじゃん! ざーこ! ざーこ!」

 

 ウゼェと一葉は思うので、聖女ラムに、話を変えてこのくだらない時間を終わらせようと思っていた。

 

「次の魔女、ニコラシカ・キラーガールさんで魔女の討伐は終わりっすよ? 場所とかどうやって探しましょうか?」

「はぁ? カミヤぁ、アンタ馬鹿ぁ? あーしがさっき置き土産したって言ったわよね? もう既に特定してるわよ! 最後のクソ魔女の居場所」

 

 小さい身長でめちゃくちゃ厚底の高下駄を履いた聖女ラムは、巨大な胸をふるんと揺らしながら仁王立ちして一葉を見下すように笑った。

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