メスガキ聖女にわかめの味噌汁を与えてみた

 勇者一行によって魔女シーアンドスカイの足取り、そして居場所までついに突き止めるに至った。魔物を操る魔女、シーアンドスカイ。今までの魔女とは比べ物にならない程の年月を生き、比例してその強さは底知れない。


「いわば、古代の魔女と言って差し支えないだろう。残念だがワシや、ニティアフィーと同じだと思えば火傷するぞ」


 と魔女ラーダが忠告するが、ぷぷぷと聖女ラムは笑う。勇者一行がいるからわりと控えめになっていたが久々にメスガキムーブが飛び出した。


「アンタもあのオカマ魔女も、あれ魔女って言えるのかしら?」

「魔女に性別は関係ないからの」

「聖女サマ、俺の世界にいたら色々と叩かれて炎上しそうっすね」


 聖女ラムは一葉の言っている事を殆ど理解していなかったが、それがディスられているという事をなんとなく、聖女の感で感じ取り、一葉と魔女ラーダをにらみつける。


「はぁあああ? 魔女って言うんだから普通女でしょ? バカなの? あぁ、そっかぁあ。魔女ってバカだもんねー。ごめんねー! それにカミヤぁ、あーしの事なんか悪く言ったでしょう? あーしが言う事が正しいの。分かる? あーしが赤って言えば空の色だって赤になるんだから」

「どこの暴君っすか」


 そんないつものやり取りを見て、勇者ディタがふふっと笑う。「三人とも仲がいいんですね!」とよくある月並みなセリフ、一葉はこういう時少しだけ邪推してしまう。この勇者ディタはお世辞でそう言っているのか、本当に心が清らか過ぎて考える事をやめてしまっているのか? 兼ねて、聖女ラムや魔女ラーダとの関係は良好な方だが、この聖女ラムの煽りを無視しているから成立するだけで、本来であればいつ戦争が勃発してもおかしくはないくらい聖女ラムの言葉はウザい。


「見えてきた! あの砦跡にシーアンドスカイがいるハズです」


 古くて朽ちた建物、砦というから城みたいな物を想像していた一葉だったが、物見台みたいな簡素な建造物。攻略は容易いと思えるのだが……砦の上に巨大な生物。

「あれはこの前やっつけたドレイクって奴っすか?」


 と一葉が何気なく聞くと、勇者一行の剣士が「あの従者さん、マジか……」とあきれている。そんな一葉に説明してくれたのは勇者一行の魔法使いの少女。


「従者様、初めて見られますか? アレは世界最強の生物。ドラゴンです」


 あぁ! 異世界っぽいなと一葉は少しだけテンションが上がってスマホでドラゴンの雄々しい姿を撮影。確かにドレイクよりも何倍も大きくて、地に立てる発達した足、そして掴む事もできそうな腕、プロポーションはかなりいい。神々しい物は黄金比だと聞いた事があるが、多分ドラゴンもそうなのだろう。


「ふーん、ここにいる魔女、ドラゴンとか出してくるんだー、そういう事するんだ! 殺すわ」


 聖女とは思えない言葉、だが普段の聖女ラムとは違って、減らず口がない。という事はドラゴンという生物はそういうレベルの存在なのだろう。今までの魔物達とは次元の違う驚異。しかし、ここで先ほどの魔法使いの少女が付け足す。


「ドラゴンを従えさせるのは不可能に近い所業です。恐らく魔女シーアンドスカイが年老いたドラゴン等を魔法で操っているとみて間違いないです。本来の力の半分以下でしょうが……強さは魔王軍上級クラスかと」


 魔王軍幹部クラスがどの程度か分からない聖女ラム一行はぽかーんとしているが、勇者ディタの表情の険しさから中々ヤバいんだろう。そんな中、魔女ラーダが、


「これでもワシは暗黒系譜の魔法の使い手じゃ、ドラゴン殺しの魔法が使えぬ事もない。時間を作ってもらえればの話じゃがな」

「はぁあああ? なんでアンタの為にあーしが盾役しなきゃいけないのよぉ。あーしがぶっ殺してあげるわ! あんなボケたドラゴン」


 と聖女ラムが煽るので、また面倒な事になりそうだなと思った時、勇者がびっくりする提案をした。


「ラーダさんはよほどの魔法使いなんですね。であれば私と聖女様にて魔女シーアンドスカイを撃破します。そしてみんなはラーダさんの為に力を貸してください! ドラゴン撃破組と二手に分かれましょう」


 要するにここは俺に任せて先を行けではなく、お前達にここを任せるから先に行くをやってのけた。勇者の言葉に頷く勇者一行達、今生の別れみたいな表情をしている中、一葉が鍋を取り出すと、


「まぁ、勇者様一行はめちゃくちゃ強いんすよね? それにラーダさんもすげー強いので多分大丈夫っすよ。戦の前の腹ごしらえって事で味噌汁でも作るっすけど、どうっすか?」


 と皆の返事を待たずにあごだしを取って合わせみそで味噌汁を作る、豆腐も入れるとタンパク質も取れるのだが、今手持ちにないので増えるわかめでわかめの味噌汁。全員分、紙の器に入れると、紙のスプーンと一緒に渡す。


「ふーん、カミヤの癖にいいこと言うじゃない。ずずっ……んんっ! んまっ!」


 と聖女ラムがばくばく、ずずーっと味噌汁を飲むので、他みんなも続く。数百メートル先にはドラゴンがいる状態で、ドラゴン見物をしながら味噌汁をすするというかなりシュールな集団。それでもそれぞれが英雄クラスなんだろう。檄を入れるつもりはなかったが、みな戦士の目をして、一葉に「ご馳走様、勇気が湧いてきました」「魔法力がたぎります」とか言って勇者パーティーと勇者ディタは物凄いパワーアップを感じている中、きょとんとしながら、聖女ラムと魔女ラーダは


「そういえば、カミヤが作る食べ物食べると身体が軽くなるわね」

「そうじゃな、これもしかしたら、ワシら気づいてなかったのかの」


 へぇ、そんなご都合主義みたいな事あるんだと思いながら一葉は自分が作ったわかめの味噌汁をすすって、一息ついた。


 ついに三人目の魔女を追い詰めたので、ここで決着をつけれるのが一番だなと思いながら。一葉は、

 

「それじゃあ、お互い行動開始と行きましょうか?」

 

 おう! 了解! と勇者パーティー達は一葉の言葉に従い、勇者ディタまでもが「はい!」とこの場の中心がみんなの胃袋を掴んだ一葉になりかけているのが聖女ラムは気に入らない。

 

「カミヤぁ、アンタはあーしより目立たないで! 行くわよディタ、それにその従者とラーダ、あーしが魔女シーアンドスカイをボコボコにしている間、羽のついたトカゲの足止め頑張んなさい!」

 

 そう言って手を振る聖女ラム、一葉はそんな小さい事を言う聖女ラムの代わりに「みんな頑張ってくださいっす」と激励するのでお互い背中を向け合い、お互いの仕事を全うする為に歩を進めた。

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