第3話 いざ王宮へ!!

 例のクレーター事件から、数日が経過した。

 普段の生活自体に大きな変化はなく、今まで通りの日常を過ごしている。

 ただ、私はと言うと、魔法の研究に没頭していた。

 幸運なことに、財力のある家だ。

 大抵の本は家にあり、無い本は父にねだれば、五日後には家に届く。


 ちなみにだが、クレーターの事は一日と経たずに父にバレた。

 初めこそドギツイお叱りを受けたが、魔法を独学で学び、それを試し打ちしただけだと言ったら、すぐに手のひらを返してくれた。

 息子に人並外れた才能があることが嬉しいのだろう。

 社交場でのネタになるからな。


 そんなわけで、私の魔法の研究に、父はかなり協力的な姿勢を見せてくれるようになった。

 欲しい本はすぐに取り寄せ、分からない点は宮廷魔術師を呼びつけ、懇切丁寧に解説させてくれた。

 おかげで、私の魔法技術はすくすくと成長していった。

 初級魔法などは余裕も余裕。

 中級魔法も難なくこなせ、高等魔法もある程度扱えるようになった。


 というか、私がクレーターを作ったあの魔法は、最高位魔法に位置するらしい。

 しかも、その中でも黒魔術という、絶対禁忌の魔法だそうだ。

 宮廷魔術師からは、今後の使用禁止と使用した事の他言厳禁を言い渡された。

 ……まあ、そんな事で諦める私ではないが。


 実は、剣術稽古の後、こっそりと指南役──つい最近、ホーリー・オリーブという名前を知った──と魔法の稽古もしている。

 あのクレーターの中であれば、二度目、三度目の爆発が起こってもバレる確率は非常に低いのだ。

 木を隠すなら森の中、黒魔術を隠すなら黒魔術製クレーターの中だ。


 そして、私は才能のない剣術と、才能爆発(文字通り)の黒魔術の力をメキメキと伸ばしていった。

 オリーブは本当に冒険者しかやったことが無いらしく、黒魔術の危険性をあまり認知していないようだ。

 私としては、助かるが。

 とはいえ、掠りでもしたらやばい、とだけ念押ししておいた。


 そうして月日は流れ、私は十七歳になった。

 この二年間、日々細心の注意を払いながら生活をしていたが、これと言って死亡フラグらしいフラグもなかった。

 ……まあ、冷静に考えれば当然なのだが。


 作中でエリヌス様が初登場したのが、第二巻第二章中盤。

 その時点で、エリヌス様は二十四歳であった。

 過去編なども特になかったので、死亡フラグが立つのはその年齢あたりだと考えるのが妥当だろう。

 そうなってくると、私のやるべきことは至極単純だ。


 ただ鍛える、それだけだ。


 いつ、どんな死亡フラグを見逃しても、それに対処できるような力さえつけてしまえば、ある程度はごり押しでどうにかできるはずだ。

 まあ、死亡フラグを見逃すつもりはないが、備えあれば患いなしという奴だ。



 そんなこんなで、ひたすら鍛錬をしながら、貴族としての生活を謳歌していたある日。



「エリヌスよ」

「はい。父上」


 夕食を食べている途中、突然、父から声をかけられた。


「エリヌスの魔術の才は、私もよく分かっているつもりだ」

「ありがとうございます。ですが、この力も、すべては協力してくださっている皆様の──」

「御託はいらん。それに、私も端的に話を済ませる」


 いつも以上にマジモードな父に、少しだけ身構えてしまう。


「どうだ、エリヌス。王宮に行ってみる気はないか?」

「王宮に、ですか……!?」

「ああ。あそこなら、才能のある者ばかりが集まっている。数日滞在し、その力を体感してみるというのはどうだ?」


 ……つまり、王宮で勉強して来いってことか。

 そして、ついでに私の力を見せつけてこい、と。

 …………。


「喜んでお受けいたします。私自身、最近の鍛錬は少々退屈に感じておりましたので。新しい風に当たるというのも、よいかもしれません」

「うむ。それでは、私から国王陛下に手紙を送っておく。長旅になるだろうから、準備を怠るなよ?」

「はい、父上」


 王宮かぁ……。

 確か、主人公のダフネ様が勇者に任命されたときに登場したっきりだな。

 どんな人間がいるのか、楽しみで仕方がない。

 ……願わくば、私の死亡フラグにかかわる人間がいてくれ。

 そして、早期のうちから手を打たせてくれ!!





 あれから、数日が経過した。


「それでは、いってまいります」

「ああ。気を付けて帰って来い」


 手には大荷物、後ろには馬車。

 そして──


「貴重なご機会をありがとうございます、旦那様」

「うむ。息子に剣を教える以上、お前自身も何か学ぶ場が必要だからな。しっかりと学んで来い。ただし、護衛としての任はきっちりとこなすのだぞ?」

「はい。心得ております」


 護衛兼付添人としてきたオリーブは、深々と頭を下げた。

 正直、一人で王宮に行くのはほんの少しだけ怖かったが、顔見知りが一緒なのであれば安心だ。


「それでは、御者よ。二人を王宮まで」

「かしこまりました。荷物はご自分の席の近くに置いておいてくださいませ。揺れますので、壊れやすいものなどがあれば、事前にお知らせください。当方で防護魔法をかけさせていただくので」

「大丈夫だ」

「左様でございますか。それでは、馬車の方にお乗りください」


 御者に案内されるがまま、私たちは馬車に乗り込んだ。


「それでは、出発いたします!!」


 御者の掛け声とともに、馬車は走り出した。

 私の死亡フラグ対策勉強会の地へと向かって──

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