第35話 重力魔法の極致

「な、なんだ・・・この魔力は」


 オルスト王国の南東にある町は今、混乱の渦中にあった。夕方になり、ほとんどのものが仕事帰りで羽を伸ばしているそんな中。いきなり遠方に現れた圧倒的な魔力に全員が動きを止めて息をのんだ。

 そして、おおよそ生物では放つことができないその魔力に、町に住んでいるものは15年前に起きた事件を思い出していた。


「い、急いで本国に・・・」


 それは町に潜伏している帝国諜報員も変わらなかった。あの事件以降、10人目の超越者の存在について調査をしていた帝国ではあるが、一向に足取りは掴むことができなかった。他の超越者の魔力放出も勘ぐったが、しかしわざわざ目立ってまでそれを行うメリットがない。さらに、その者たちですらもその動向を探っている現状であるため、その可能性はすぐに排除された。


 そうして真相がわからないまま時が過ぎ、どこも調査を断念したときに起きた、この絶大な魔力放出。諜報員の男は急いでこれを本国に伝えるため、帝都にいる上層部にのみに通話ができる小型の魔道具を手に取る。


「よし・・・?」


 魔道具に魔力を込め、連絡する準備が整ったその時。後方で何かが倒れたような物音がした。


「はあ、はあ」

 

「・・・ク、クルース様ッ?きゅ、急にいかがなさいましたか?」


 後ろに突如、男の上司であるクルースが現れた。いきなりのことで手に持っていた魔道具を落とし、唖然としながら膝をついて息を切らしているクルースを見る。

 確か今日は王国にあるシルセウス学園を襲撃する手筈だったはずだ。恐らく、この場には転移の魔道具を使って飛んだのだろうが・・・この様子を見るに失敗したのか?


「まさか、あそこまでの化け物が王国内にいたとは・・・」


 そう言うクルースの顔は恐怖に満ちており、いつもの余裕のある態度からは考えられないほど体を震わせている。自分の上司であり、帝国が誇る上位者のクルースがここまで怯えている。男はすぐさま異常事態が起きているのだと判断した。


「・・・一刻も早く帰還して現状を報告し、対策を立てねば・・・」


「そ、それは一体・・・」


 それは一体どういうことか、そう口を開こうとした瞬間。クルースのちょうど頭の後ろにある空間が螺旋状に歪み、ザーッと耳に不快感のある音が部屋に響き渡る。そして底が見えない奈落の穴が空間に現れ、そこから伸びた腕にクルースの後頭部がガシッと掴まれた。


「は?」


 急に頭の後ろを掴まれたクルースは、後方で何が起こっているの分からず後ろに振り向こうとする。しかし、掴まれた腕の力が強いのかピクリとも頭を動かせない。


「な、なにが起こっているので・・・」


 クルースは最後まで言葉を発することができず、穴から伸びた腕とともにその場から突如姿を消してしまった。


「・・・」


 そうして残された男は、状況が理解できず呆然とその場に立ち尽くすしかなかった。だが、突然空間に出現した不可解な腕に、普通ではない何か異質なものを感じ取っていた。









次元支配ディメンション・コントロール、-起動スタート-」


 強烈な電子音を発しながら、俺は魔法を発動し黒白の雷を走らせながら右腕を消失させる。脳内で重力魔法を使用するための魔法思考領域を作成し、引力と斥力を生み出しながら同時に使用する。

 

 重力と斥力、それはそれぞれ引き合う力と反発する力を意味している。この二つは言ってしまえば反対の力同士であり、絶対に交じり合うことがない。それが世界の法則であり、ルールでもある。


 だがしかし、俺の重力魔法はそれを可能にする。


 例えば俺が発動した「断絶力場インシデント・プロテクト」は、いわゆるその二つを併用したことによる空間のゆがみを利用している。

 これは二つの力の混交によって強力な力場を形成し、攻撃を防ぐ防御系の魔法である。また同時に力場に触れたものを歪ませる効果も備わっており、攻守ともに利用可能だ。



 そして、「次元支配」はこの空間を歪ませる力場の使用を、極限まで突き詰めたものである。



 等級でいえば神級に該当するであろうこれは、空間のゆがみからを作り出せる。


 この次元界域というのは簡単に言ってしまえばワームホールに近い。この中では距離という概念がなく、また次元というものが変動するようになっている。

 俺はそんな次元界域を作成し、二つの力を相互に利用することで操ることができる。加えて脳内に特殊な魔法思考領域を置くことで視覚や触覚、または魔力で認識した座標に空間接続を行える。


 ちなみにこの特殊な思考領域というのが、属性魔法と特質魔法の発動プロセスの大きな違いでもある。・・・とまあ、難しい説明になるため詳細は置いておいて、とりあえずこれをすることでどのようなことができるか。


「・・・」


 俺は認識した方向にある座標に右手のみを空間接続させる。加えてその手で奴の頭を鷲掴みにし、次元界域を通してまるごとこちらに取り寄せる。



 そして。



「おかえり」


「ッ」


 俺の目の前に突如出現し、右手で頭を掴まれているクルースが驚きと恐怖で顔を歪ませる。


「そ、そんなバカな・・・、確かに私は転移に成功して・・・」


「・・・そう簡単に逃がすと思うか?考えが甘いんだよ」


 動揺を隠せない様子のクルースに、俺は淡々とそう告げる。コイツに操られて死んでいった者たちは、怯えながらも逃げなかった・・・いや、逃げられなかったはずだ。その元凶を作ったコイツをみすみす逃すなどあり得ない。


「・・・終わりだ」


 そう告げ、俺はもう一度黒白の雷を手に走らせる。それを見たクルースは慌てた様子で「ま、待ちなさ・・・」と何か言おうととするが、そのまま魔法を発動する。 



消去デリート



 俺がそう口を開くと、奴を掴んでいる右手を中心に螺旋状に空間が歪み始める。そして、クルースはその空中に生み出された渦に飲み込まれ、跡形もなく姿を消失させた。


 「消去」は作成した次元界域に対象物を引き摺り込み、そのまま閉じてしまうものだ。作り出された次元界域は消された時点で完璧にその存在を失くし、再度作った時には違う別物になっている。今のはそれを利用しただけで、所謂「消去」などと言ってはいるが「次元支配」を発動してそれを解いているだけとも言える。



「・・・はあ、終わった」



 俺は疲れたように息を吐き、青とオレンジのグラデーションができた薄明の空を見上げる。さらに深呼吸を繰り返しながら、徐々に精神を切り替えていき魔力の放出を極限まで抑えこむ。

 この無感動な自分は、この世界に生まれてすぐに人間的な生活を取り戻したことで封じられている。まあ、長年寝ることも食べることもできない状況だったため、こうして人間性が戻るのは当たり前かもしれない。


 しかしながらこうして重力魔法を連続で使用すると、長年の記憶の影響からか精神性が修行時のものに変化してしまう。これは戦闘を行う際は冷静でいられるためいいことではあるが、いかんせん通常の自分に戻すのに多少時間がかかる。



「すぅ・・・」 



 大きく深呼吸をしたのを最後に、俺は待たせているシオンさんの元に足を進める。その間、自分がした惨状をしっかり視界に入れながら、ゆっくり一歩一歩進んでゆく。


 そうして戻ると、彼女はまだ目を閉じて耳を手で押さえていた。



「シオンさん」



 俺はそんな彼女の肩を叩き、そう呼びかける。するとびくりと体を跳ねさせながら、彼女はゆっくりと目を開けた。そして、目の前の俺を見たあとに首を動かして周りを見渡す。


「・・・お、終わったのか?」


「ええ、終わりました。・・・待たせてすみません」


「・・・そうか」

  

 シオンさんは安堵のため息を吐く。それから何か考えているのか、星が煌めき始めた夜空をじっと見つめ始める。夜空を見るその碧眼の瞳は、まるで過去を追想しているかのように俺は思えた。


「帰りましょう、シオンさん」


 俺は地面に腰を下ろしている彼女に手を差し伸べる。


「・・・ああ」


 彼女は俺の手を取り、ゆっくり立ち上がった。





★★★

 またまた小説という場をお借りして書かせていただきます。かなりの長文ですので気になる方だけご覧ください。


 











 まず、前話でハートや応援コメントをくださった方々にお礼を言いたいです。多くの方から暖かいコメントを頂き、デスクの前で見た時に恥ずかしながら涙を零してしまいました。一つ一つの言葉に、ものすごく心が救われました。本当にありがとうございます。


 加えて誤字脱字報告をしていただいた方にも感謝しています。大変な作業のはずなのにもかかわらず、コメント欄に修正後の言葉まで載せて頂き本当にありがたいです。ですが、ちょっとまだ1話から応援コメント見るのが怖すぎて辛いため、修正に時間がかかるかもしれません。これに関しては覚悟が決まり次第行います。申し訳ないです。


 あれから一週間、言われたことに対して色々考えました。考えて考え抜いた答えは「そもそも執筆歴一ヶ月程度の自分が、完璧な作品を書けるわけない」になりました。そうです、こうして批判や疑問が集まってしまうのは当たり前だと気づきました。


 そして、現在の悩みの種であるアンチコメントに対しては今後、他の書き手様の意見などを参考にした結果「作品を見ていないと感じられるもの、または自分が本気で不快に感じたコメントは削除、そして書いたユーザを即刻ブロック」させていただくことにしました。


 すみません。本当は全てのコメントに向き合いたいのですが、流石に精神が参ってしまうのが現状です。本当に器の小さい書き手で申し訳ありません。


 ・・・加えて、元々二週間ランキング圏外にあったこの小説が、何故か週間一位になってしまっています。自分としては全く見合っていないランキングであると感じており、他小説と比べ明らかに劣っていると思っています。この小説を見て、「こんなのが一位かよ」とがっかりさせてしまった方には大変申し訳なくて仕方ありません。


 あと、身分不相応すぎて胃がプレス機で潰されてるみたいに痛いです。


 超長文すみません。色々疑問に思う場面もあると思いますが、もしよろしければ自分の恥ずかしい処女作を今後も読んで頂ければと思います。あと改めて、励ましの応援コメントには物凄く感謝しています。皆様のおかげで、もう一度筆を取る勇気ができました。


 とりあえずは第一章最後の予定である「プロローグ[3]」まで執筆頑張ります。





 

 

 






 

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