第14話 おさがりの服

楽しい朝食を終えて、皆で食器の片付けを終えた頃。裏口の扉がノックされた。

「はーい。今、行きます!」

紅夜が濡れた手を拭きながら、対応する。扉の前に立っていたのは、サチの父親だった。

「さっきぶりですね、シスター。お話しした、服を持ってきました。男の子の分も近所の人に頼んで、貰ってきました。着られるといいんだけど。」

「まあ、ルイスさんの分まで!ありがとうございます!!」

紅夜は手を叩いて喜び、その歓声に何かあったのかとルイスとアリスがひょっこりと顔を出した。

「丁度良かった。ルイスさん、アリスさん。こっちへいらっしゃい。」

「…。」

紅夜の言葉に、ルイスとアリスが無言で近づく。扉の外にいるサチの父親を警戒しているようだった。

「こんにちは。」

サチの父親は二人と目を合わせるために、屈んで見せた。

「…こんにちは。」

「この服、着てくれるかい?」

そっと差し出された子供服をルイスとアリスはおずおずと受け取る。

「いいの…?」

「ああ、もちろんだ。そうだ、今度うちの子と遊んでやってくれないか。君たちと同じくらいの年で、名前はサチという。」

「…。」

二人は同時にこくんと頷いた。

「じゃあ、またね。この教会にいるならまた会う機会もあるだろうから。」

「あの…っ、」

背を向けて帰ろうとするサチの父親を、ルイスが引き留める。

「ん?」

「ありがとう、ございますっ!」

アリスと供に、二人は大きく声を張った。そして、紅夜も頭を下げる。

「本当に、ありがとうござました。」

サチの父親は手を振って応えて、去って行った。

「早速、着てみたらどうだ。」

食器を棚に戻し終えた蝶々が、三人の元へと来る。

「そうですね。せっかくのご厚意ですから。」

「ああ、でも。先にお風呂かな。お前たち、よく見ると泥だらけだぞ。」

蝶々の指摘に、アリスは首を傾げた。ルイスは逃げ腰に、後ずさろうとしている。

「おふろって何?」

「アリス、水浴びのことだよ!」

ルイスの答えにアリスも、ひっと声を引きつらせた。そして逃げようとする二人を予想していた蝶々が捕まえてしまう。

「いーやー!やだやだ!!」

「離せよ!」

きゃんきゃんとわめく二人を見て、紅夜は苦笑した。

「大丈夫よ。ちゃんとお湯にするし。」

その声も、騒ぐ二人の声にかき消されてしまう。

「水浴び、嫌いー!」

「まあ、気持ちはわかるけどな。川や湖の水って心臓がキュッてなるし。」

蝶々はうんうんと共感するが、二人を離す気は無い。

「じゃあ、悪いけど紅夜。俺は二人を説得するから、お風呂の準備をお願い。」

「わかりました。」

昔はかまどで涌かしたお湯をいちいち浴槽に運んでいたが、今はガスが普及し始めて楽に入浴を楽しむことが出来る。その発明に蝶々は随分と驚いたものだった。

紅夜は浴室を軽く掃除して、カランを捻りお湯を浴槽に貯める。その間、何やら蝶々と双子たちは真剣に話をしているようだった。

そして、お湯が溜まった頃。

アリスが一番手を申し出た。

「わ、私、お風呂に入る…。」

「えらいわ、アリスさん。じゃあ、一緒に入りましょうか。私も昨夜はお風呂に入っていないし。」

そう言って、紅夜はアリスと連れだって浴室へと向かうのだった。さすがにこの男女のチーム分けにルイスは異論を唱えなかった。

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