3 クラーク様に無視されました

「私はメイベリー子爵令嬢ですわ。カタレヤと申します。あなたはクラーク様たちの真実の愛を邪魔する『お邪魔虫さん』なのですわ。クラーク様が愛しているのはナタリー様ただ一人だけですわよ。あの二人は一年前から愛を育んでいらしたのだから」

 三人のなかの中央にいる上級生だけが、自ら名乗り持論を展開した。自分が正しいことを言っていると信じて疑わない愚かさに苦笑した。


「婚約者がいる身で他の女性とお付き合いすることは単なる浮気です。愛を育むという表現は相応しくありません。クラーク様は二年前から、私の婚約者ですのよ」


「人を好きになるということは理屈ではないのです。婚約者がいたって自分の気持ちに嘘はつけないでしょう? クラーク様がお可哀想だと思わないの?」


「だったら、私と婚約を解消してから愛を育むべきでした。可哀想? このようにおかしな噂をたてられた私こそが可哀想ですわ」


 きっちりと反論した直後、偶然にもクラーク様が生徒会室に向かうため、裏庭に面した廊下を歩いてきた。ちらりとこちらに視線を向け、一瞬目が合ったような気がしたが、すぐに目をそらされる。


 気づかなかった訳はない。彼の瞳がほんの少しだけ揺らぎ、楽しむように唇が輪を描いていたのだから。きっと、さきほどのカタレヤさんの声も聞こえていたはずだ。私をまるっと無視して、蜂蜜色の髪と瞳が印象的な女性の肩を抱き寄せ、並んで遠ざかる姿をただ見つめた。まるで、私に見せつけるようだった。それに、ときおり浮かべる笑顔はグラフトン侯爵家で見た笑顔の数倍も嬉しそうだった。


「ほら、あれがナタリー様ですわ。それにしても、たった今、クラーク様があなたの姿を認めましたのに、すっかり無視されましたわね。どれだけ嫌われているかおわかりになったでしょう? これを機に、もうクラーク様を解放してあげてください!」


「おっしゃりたいことはわかりました。ですが、クラーク様とは家同士の婚約です。私の一存で決めることはできませんわ。それから、いくら学園内では無礼講とはいっても、なんでも言っていいわけではありません」


「なによ、まさか親に言いつけるつもりなの? ばかみたいですわ。子供の喧嘩に親がでてくるわけないもの!」

カタレヤさんの言葉に両側にいた令嬢たちの顔が青ざめた。他の二人の名前も聞いたところで、私は足早に屋敷に急いだ。



☆彡 ★彡☆彡 ★彡



「お父様、クラーク様は私がお嫌いだったようです」

 私は学園で起こったことを報告した。王都の屋敷内、ここはお父様の広い執務室よ。令嬢たちになにを言われたのかも詳細に説明すると、お父様は愉快そうに口角をあげた。


「クラーク君はナタリー・サーソク令嬢を選んだのかい? だったら、望みを叶えてあげよう。お金は早速打ち切るし、今まで援助していた分は、利息も含めてきっちり返済していただこう」


お金ってなんのこと? 


初めて私はお金をグラフトン侯爵家がスローカム伯爵家に援助していることを知った。半年ほど前からのスローカム伯爵家の投資の失敗で、王立貴族学園の学費さえグラフトン侯爵家が出しているなんて知らなかったのよ。


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