やり直し女王陛下の逆転劇~今度こそ、最後の瞬間まで貴方を信じるわ~

あさぎ かな@電子書籍二作目

第1話

 

 鈍い音と真っ赤な血が世界を染めた。

 女王を庇い、その最期の最期まで忠義を尽くしてくれたのは――もっとも最初に裏切ったとされるディミトリ宰相だった。


 城が燃え落ち、今まさに首が落とされる寸前で、その男は私の代わりに槍に貫かれた。


「ディミトリ!?」

「がはっ……。……申し訳ありません、女王陛下。……貴女の思い描いた国家をお渡しする予定でしたが、一手およばなかったようです」

「……っ」


 抱き寄せるように腕の中に包まれ、追撃で打たれた矢から私を守るため自身が盾となって受けた。もみくしゃに抱き寄せられた腕の中で、ジャスミンの香りが鼻孔をくすぐった。


(ああ、この香りは……いつも送られてくる手紙の……)

「女王を殺せ。そうすれば黒薔薇病も治まる!!」

「はっ!」


 逆光で指示をする騎士の顔が見えない。


(黒薔薇病? ……でもあれば……)

「愚かな……っ、あんなものを引き合いに出して……女王、私は……」


 そう告げた紫色の美しい瞳に、黒く長い前髪が私の頬に触れる。

 どうしてこんなにも私に尽くしてくれた彼を、その御心を信じて上げられなかったのだろう。

 敵の刃が振り落ちる寸前、私は自身の愚かさを呪った。


(なぜ私は君の話を、言葉を、その瞳を……真っ直ぐに受け止めなかったのだろう。……すまない、ディミトリ)



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