第10話 モンスター肉食系

 街よりモンスターがいる森に行く方が安全だなんて皮肉な話だ。


 だが、今の俺達には森へ行き、依頼を達成して稼ぐ以外の選択肢を持ち合わせていなかった。


 森へ入ると人の気配の少なさに俺達は安堵してしまい、大きくため息をついてしまった。同時に同じ行動をしていた俺達はお互いを暫く見つめると自然と笑いだしてしまった。


 ヒュノは慣れない街の生活に気苦労し、俺はヒュノがドルミーラ教の人間だと知られないかと肝を冷やす日々が続いた。


 知りたい。ヒュノはどういう人間で、どんな想いを持って生きてきたのか。それに、親父が生前に『ドルミーラ教は嘘だった』と語った本当の意味を。



「また森に戻ってきちゃったね~」

「あぁ」


「ファゼックさんから紹介してもらった依頼書、山菜採りのクエストだったよね?」

「あぁ。なんだ、今日は山菜でも食べたいのか? マンドラゴラはもう懲り懲りだぞ。それにしても、部屋から出てないヒュノがどうやってマンドラゴラを手に入れたんだよ?」


「ん? 庭に生えていた草引っこ抜いたら普通に出てきたよ? ライくんが育てていたんだよね?」

「モンスター育てるとか俺は魔王かよ」


 庭で育てていたのは紛れもなく人参。無論、食用として育てていたやつだ。


 突然変異しモンスター化したとでも?

 それも2本同時に?


 そんな奇跡起きてたまるか。


「マンドラゴラさん美味しいのに~~。なんでそのクエストにしたの? 報酬金額凄く少ないよ。それなら『ふにゃん』を街で売っている方が、ずっと『早く』て『高く』て『安心』だよ?」


 耳障り良い言葉をゆっくり丁寧に強調しているヒュノさん。街での販売していたときもそうだったが、ヒュノは宗教の司祭じゃなくて、ただのインチキ路上販売人の方が似合っているのかもしれない。


「森への通行許可が降りれば何でもいい。目的はそっちじゃないからな」


 それから俺達は、前回作動したモンスター探知機があるエリアへと移動し、その際に使用したトラップ式アイテムを再度設置した。


 移動中にモンスター探知機の説明と、どこに仕掛けてあるかをヒュノにも教えた。


「さて、ここが終われば、あと1ヵ所」

「ライくんが街にいても真夜中にモンスターと遭遇出来たのは、この探知機のおかげだったんだね」


「そう。そして、殺傷能力が高いアイテムは誤作動が絶対に無いように細心の注意をしている。街の兵団クラスに見つかると厄介だが、ギルド管理組合に出入りしている冒険者ぐらいであれば、幾ら触っても爆発はしないさ」


 この森は他の地域とは大きく異なる点がある。それは、夜行性モンスターが極少であること。そして2つ目は、人間を襲うモンスターも少ない事だ。


 それ故に、昼夜問わず物流を行うのに最適なエリアと呼ばれる由縁にもなっている。以前遭遇したモンスターのスタンピードやドラゴンは他の地域では珍しいわけではない。


 人間が住むのには好条件過ぎる、このエリアで夜間にモンスター探知機が何個も作動すれば、1つの疑念が頭を過る。


『他のエリアから強いモンスターが侵入してきた』と。


 俺はこのエリアに迷い込んできたモンスターから街を護るために行動している。亡くなった親父から頼まれた最後の願い。


『人を驚異から護ってほしい』と。


 剣の才能も、魔法の才能もない。無能の息子に託した嘘みたいな馬鹿げたお願い。


「さて、確かこの辺りに……」

「ん? どうしたの?」


「静かに……何かいる」


 仕掛けられたラスト1か所のモンスター探知機のある場所へと移動中、聞きなれない音が草むらの向こうからした。何かうなり声のような音。だが、少しだけ高い。絶望に乗せた最後の灯かのようにか細い音。


「いた……音の正体はコイツか」


 黒い毛並みに鋭い眼光。その長く尖った爪と牙で仕留められた動物はこれまで何頭いたのだろうか。


「このもふもふさん、怪我している……」

「コイツの毛並みが心地良さそうだからって無闇に触るなよ? こいつはデスファング。恐らく他の地域からこのエリアに迷い込んできた来たのだろう」


 厄介な化物がいてくれたものだ。デスファングは獰猛でかつ頭が良く、群れで大型のモンスターを狩りを得意としている。


 単独でいるという事は、群れからはぐれたのか、それとも……


 真剣に考えていると、困り顔で俺の顔を覗き込んできた。


「うわ、近っ! 何だよ急に……」

「この子でどんな夕食作るか考えないで」


「誰が食べるか!!」

「ヒュノ。ドラゴンの時のように操れるか? 元いた住み処まで帰るように命じてほしい」


「私のあの力って、夜にならないと深い暗示がかけられないの。今はまだお昼だから、寝たとしても暗示が効くかはわからないよ……」


「……そうか。なら眠らせてくれ。せめて手当てだけでもしよう」

「グルルル……」


 俺が近づくとデスファングは低い唸り声で威嚇してきた。


「おいおい。弱っているのだからあんま体力使うなよ。帰る体力くらい温存しておけ」


 深い眠りに誘われるデスファングのお腹を擦りながら、落ち着かせた後、持っていたアイテムでデスファングの怪我していた後ろ足を治療した。


 数分後にはヒュノの力から解放されたデスファングは眼を覚ました。ドラゴンのときとは違い、デスファングの意識はハッキリしている。


 やはりヒュノの操作は完全に解けているようだ。自分の足許をじっと見ていた。


「おっ、もう起きたか。脚治療しておいたから、もうこのエリアに逃げてくるなよ? お前に街が襲われたら大変なんだ」


 眼を覚ましたデスファングは威嚇を止め、何故かこっちにゆっくりと歩み寄ってきた。


「はっ?! えっと、もしかして俺達はコイツの昼ご飯になる展開?!」


 しかし、デスファングは俺を襲おうとはせず、ずっと俺の傍を行ったり来たりしていた。


「何これ、懐いている?! まだヒュノの精神操作続いているとか?」

「ううん」


「じゃあこれって……」

「もしかして、もふもふさん付いて来たいんじゃない?!」


「まじかよ……」


 俺はコイツに元いた場所へ速やかに帰ってほしくて治療しただけなのに。テイマーでもないのにモンスターに懐かれるっていったい……


「連れて帰ってあげようよ。この子も独りで寂しいんだよきっと」


 俺もヒュノもコイツも独り。そう考えると可哀想な気もしてきた。


「そうだな、家来るか?」

「グルル」


「ほら、嬉しそうだよ。良かったね、今日の夕食楽しみ~~!!」

「えぇぇぇ?!そっち?!」


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