第2章 悪夢と知りたくもない現実

第24話 絶望の調べ1

 Cランク冒険者、《夜明けの旅団》が行方不明になってから一年が過ぎた。情報の進展がないことに、冒険者ギルド会館ではギスギスした空気が続いている。不安や危機感を覚えつつも俺たちは順調にクエストをこなしていた。


 耳と鼻が大きい巨人族の緑醜鬼トロルとの戦いにも慣れてきて、戦い方のコツや連携なども少しずつ形になってきていた。俺と瀧月朗が前衛でその間のフォローはジャック、陽菜乃は中距離からの支援というフォーメーションも安定している。


 ──がああああああああああああ。


 断末魔と共に巨体が大地に倒れ、その巨体はすぐに炭化して消えた。戦闘終了。

 Dランクパーティーとしてはまずまずの戦果と言えるだろう。この一年地道かつ効率よくクエストをこなしCランクの瀧月朗の火力と、陽菜乃の適格な支援魔法の功績によって最短で昇進していった。


 俺とジャックは現在Dランク冒険者として、平凡で地味といった感じだ。複雑な思いはあるものの、世の中には適材適所というのはあるのだと自分に言い聞かせる。

 武装はDランク冒険者の平均より少しいい物を選び、俺は左手の円盾に右の湾曲した三日月刀シミター、身軽だが丈夫な騎士用藍色のサーコートを着こなしている。鎧の類はお金がないのもあるが身軽さを重視して魔法防具による物理攻撃、魔法国撃無効化の腕輪を装着してカバーしている。


 ジャックの装備は呪いのせいで基本的に変えられない。黒マントを新調したぐらいで武器としてダガーや投げナイフを愛用している。当初は「手裏剣かっこいい」といって購入したものの上達しなかったため、泣く泣く投げナイフに切り替えたらしい。


 陽菜乃は白のローブに赤と白の十字の紋様が入ったワンピース、太ももまであるロングブーツは悪くない。主に敵の動きを止める影魔法や敵の攻撃を弾く防御魔法を得意とする。すでに上位魔法などの習得が可能らしいが、MP消費と制御が難しくもう少しレベルが必要だとか。


 ちなみに陽菜乃は俺の嫁でもある。

 この世界で結婚は神殿に書面を提出するだけでいいのだが結婚式をする場合、かなり金額がかかるというので俺と陽菜乃はお揃いの指輪を買うだけに留めた。


(陽菜乃、ますます可愛さが増したような。……ん?)


 ふと陽菜乃の手にしている杖を見て思った。


「陽菜乃は護身用に短剣をもたないのか? 荷物になるなら杖剣もあるだろう」


 なんとなく尋ねただけなのだが陽菜乃の顔が強張り、口を開閉しながらなんとか言葉を紡ぐ。


「その……、刃物を自分で持つのがどうしても怖くて……」


 青白い顔をしているので、俺はそれ以上言及できなかった。


「じゃあ、いざという時はアイテムでカバーすればいいか」

「ごめんなさい」


 しょんぼりする陽菜乃に「構わないさ」と明るく声をかけた。陽菜乃の生存確率を上げたいと思っていただけだ。いざとなったら──なんてことを考えだしたら限がないが。


「なあなあ、コウガっち。投げナイフの練習に付き合ってくれよ。頭にリンゴ乗せるだけでいいからさ!」

「駄目に決まっているだろう。あとコウガっちってなんだ。そして空気を読め」

「えぇー。いいじゃんか。動かない的に当てるのも飽きたし」

「却下だ」

「ほう。ならばワシが相手になろうか」


 瀧月朗はアイテム・ストレージの画面を見ながら会話に割って入ってきた。外見は二十代の偉丈夫で長い髪を一つにまとめ和装に紋付き袴、大鎧の一部、大袖や籠手、脛当てなど完全武装ではなく部分的な防具に日本刀を腰に帯刀している。完全に主人公を張れる風格である。


 最近ようやく腹部に筋肉がついたと喜んでいた。俺よりも筋トレはもちろん修行をしているのに、本当に森人族は筋肉がつきにくいようだ。


「いや、ソウちゃんに頼んだら投げナイフを真っ二つにするだろう」

「うむ、ダメか」

「当たり前だよ! 何考えているのさ!」

「では投げナイフを素手で取って投げ返す程度にして──」

「怖いから! なんで、素手で取れちゃうの!? というかオレが言いたいのはそういうことじゃなくてぇええ!」

「おい、ジャック」

「なんだよ! コウガっち!」


 ジャックは睨むが全く怖くない。カボチャ頭の表情も今や芸のレベルに昇華している。こんな風に笑いが取れてしまうのは、彼の人柄によるものだろう。居るだけで周りを明るくするようなムードメーカー。


「最近、ギルマスに求婚していないようだが変なものでも食べたのか?」

「違うわ! やっと交際OKを貰えたんだよぉおおおおおおおおおお!」

「は」

「マジか」

「そうだったのですか!」


 全員が驚愕の声を上げる。

 ジャックはこの世界に来た当初から「ギルマスがオレの妻だ」と終始叫んでおり、ストーカー行為までは行かないにしても熱烈アプローチを続けてきたのだ。

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