悪魔召喚

神楽堂

ルキ ①

お金が欲しい……

名誉が欲しい……

彼女が欲しい……



そうだ、悪魔を召喚して、願いを叶えてもらおう!



俺は魔法陣を2つ書いた。

召喚した悪魔を閉じ込めておく三角形の魔法陣。

そして、俺自身を護るための円形の魔法陣。


魔法陣の中には五芒星ペンタグラムと呼ばれる星を書く。

これを上下逆さまにすると、逆五芒星デビルスターになるわけだ。



俺は護身用の魔法陣に入り、悪魔召喚の呪文を唱えた。


お!



出てきた出てきた。


召喚用の魔法陣の上に、うっすらと悪魔の姿が見えてきた。


俺は悪魔の召喚に成功したらしい。



悪魔の姿がはっきりと見えてきた。

どうやら、女性のようだ。

なかなか魅力的だ。

これが本当の「悪魔的魅力」というやつか。



俺は召喚した悪魔をよく見てみた。

悪魔なんだから、角が生えていたり、背中に羽があったりするのかと思いきや、どう見ても人間の女性にしか見えなかった。

儀式を間違えて、人間を召喚してしまったのであろうか?


「……あの……悪魔……ですよね?」


恐る恐る話しかけてみた。

すると、その悪魔はこう言った。


「アンタ、誰? なんで私の名前、知ってんの?」


「え? いや、あの……悪魔召喚の儀式を行った者です……」


「へぇ~、私を呼び出す儀式なんてあるんだ」


悪魔は笑い出した。

なんだか、とっつきにくい悪魔だな。

悪魔は言った。


「アンタは誰なの? ひょっとして白馬の王子様? ……って、そんな感じでもなさそうね」


悪魔は、俺の顔をまじまじと見てくる。

なんなんだ、この悪魔は。俺が想像していた悪魔とは、だいぶんイメージが違う。

とはいえ、せっかく召喚に成功したのだから、願いを叶えてもらおう。

俺は言った。


「あの……願いを叶えてほしいんですけど……」


「なんで?」


「あなたは悪魔ですよね?」


すると、悪魔は不機嫌になって言った。


「なにそれ? つまり私が悪魔だから願いを叶えろと、そう言いたいわけ?」


「……はい、そのつもりですけど」


「……もうねぇ、それ、何度も言われているの。でさ、今回はアンタみたいな知らない人からも、それを言われるわけ?」


う~ん、なんだかやりにくい。

今どきの悪魔とは、こういうものなのだろうか。


「さっそく、願い事をしていいですか?」


「あのさぁ、私はね、白馬に乗ったステキな王子様と出会いたいの!」


なんと、悪魔の方から願い事をされてしまった。


「はぁ……ご希望にそえず、すみません……」


「まぁ、いいわ。アンタの話だけは聞いてあげる。願い事って何?」


「3つ、いいですか?」


「3つも願い事するの?」


え? 悪魔といえば3つの願いを叶えるのが定番なのでは?


「まぁ、話だけは聞いてあげる」


「え~っと、1つめは大金が欲しいです」


「あっそう。私も欲しいわ。お金が欲しいなら、給料のいい仕事をすればいいんじゃない?」


どうも俺が想像していた悪魔とは違う。


「2つめは、人からすごいと思われたり尊敬されたり、そういう名誉が欲しいです」


「あっそう。じゃあ、頑張るしかないわね」


呼び出したのは悪魔ではなくて、ただの人生相談の相手なのか?

俺はこんなアドバイスをもらうために悪魔を呼び出したのではない。


「あの……願いは叶えてくれるのですか?」


「なんで私がアンタの願いなんて叶えないといけないの? カネも名誉も私が欲しいくらいよ」


「あなたは悪魔なんですよね?」


「そう呼ばれているけどさ、さっきから何なの、悪魔悪魔って。私には名前があるんだから」


「そうですか、それは失礼しました。悪魔さんのお名前って何ですか? 女性の悪魔だから、ソロモンの72柱の紅一点、ゴモリーとか?」


「小森? 誰それ? アンタの知り合いの名前?」


本当にとっつきにくい悪魔だな……


「まぁ、いいわ。せっかくこうして会えたんだから、名前くらいは教えてあげる。真由美まゆみよ」


真由美まゆみ? 随分と日本的な名前ですね」


「当たり前でしょ! 私は日本人なんだから!」


そっか、たしかにさっきから日本語で話しているし、見た目も普通の日本人だ。


「アンタも名乗りなさいよ!」


「あ、すみません……俺はルキって言います」


「ルキ? アンタの方がなんだか悪魔みたいな名前ね」


そう言って笑い出した。

確かに俺は、変わった名前だとよく言われる。

けれど、自分の名前を笑われて、いい気分はしない。


「あの、俺の名前、笑わないでくれますか?」


「なによ! アンタは私のこと、悪魔悪魔って言っておいて! それで、自分の名前は笑うなとか、ムシがよすぎるわ」


悪魔がなぜ怒っているのか、俺にはよく分からない……


どうもこの流れから、悪魔との契約という流れにはならなそうだ。

だいたい、真由美ってなんだよ。

ただの人間じゃないか。


「真由美さん、今日はこの辺で失礼します。変な願い事とかしてすみませんでした」


「私も、てっきり白馬に乗った王子様と会えるかと期待していたんだけど、出てきたのはアンタだったからねぇ」


「じゃあ、儀式はこれで終わりにしますね」


「そうね、そうしましょ」


俺は本に書いてあった通りの手順で、召喚を終える作法を行った。

すると、悪魔を閉じ込めておいた魔法陣から、悪魔の姿は消えた。


ふぅ……


もう一度、悪魔召喚について勉強して、明日やり直してみるとするか。


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