one's kind-hearted
フェルトの部屋を出て。カルメン村の民宿の廊下を歩く。
「002、どこへ行くのですか?」
振り返ると、ライアがいた。
「待っていてくれ。すぐに戻る」
「それは返答次第です。教えてください、002。どこへ、いいえ、何をしに行くつもりなのですか?」
聞かれて、答えを探す。
目を泳がせて迷っていると、彼女は俺の手を握った。
「あのミサとかいう人間との約束を守るつもりなのでしょう?それは、責任を感じているからですか?」
図星だった。
「……あの時、俺からフェルトに攻撃を仕掛けたのは事実だ。戦闘は避けられないと考えての不意打ちだったが……しかし、事実は事実だ」
「出会ってまだ一日ばかり、その正体はかつて殺し合った兵器の操縦者、そんな森人を庇うための動機としては、小さいように感じますが?ちゃんと教えてください。ミサと、何があったんですか?」
声こそ落ち着いたものだったが、その声色には糾弾するような凄みが混じっていた。
「話した通りだ。ミサと約束をした。フェルトを守る代わりに、戦線から俺達を守ると」
「ええ、それが嘘だとは思っていません。しかし、それだけではないでしょう。ミサから、何を聞いたんです?何を聞いて、彼女を信じようと思ったんですか?」
「それは…………」
「言えない…のですか?ミサは、一体何者なんです?何をしようとしているんですか?何に002を巻き込んだんですか?」
「……俺も全てを聞いたわけじゃないんだ。全てを信じたわけでもない。だが…少なくてもあいつは、俺達の敵にはならない。それは確信できた。だから大丈夫だ」
「大丈夫、と言われましても…」
未だ胡乱に眉を顰めるライアの手を握り返し、俺は彼女の目を見る。
「それにな、何もずっとフェルトを守る必要はない。一年、ミサが死ぬまでの間だけでいい。そういう条件なんだ。だから、俺を信じろ、ライア」
「……わかりました。フェルトについては、もう言いません。しかし、これだけは教えてください…………これは、私のせいですか?」
不安げなライアの瞳は、俺が隠している事実にいくつか見当がついているかのようだった。
しかし、それを明かす事は出来ない。
何故なら俺は決めたのだ。
例え世界中が敵になっても、世界人類を滅ぼすことになっても、何度でもライアを守ってやると。
ならば、いちいち伝える必要はない。
伝えたところで、訪れる未来は変わらないし、その時やるべき事も何も変わらないのだから。
「…いいや、違う。ライアは関係ない。俺の私情だ」
「…そう、ですか。それで、002はどこへ行くのですか?」
「シウバがミサをつけていたらしい。戦線の手のものが近くまで来ている。連中を始末して、ここを発つ」
「接触してしまって大丈夫なのですか?」
「問題ない。瘴国の連中がうようよいるからな。魔法を使って始末すれば、連中に擦り付けられる」
「なるほど、承知しました。魔法なら私も使えるので、手伝いましょう」
「いいのか?俺が引き受けた厄介事なのに」
「構いませんよ。私は、あなた専用のガイドですから。どこへでもお供します」
握った手はそのままに、俺達は宿を出た。
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