第20話 崩壊 (他視点)

あの日あいつがしたことのせいで、私の家庭は崩壊した。私は会社の社長であり従業員を抱えている。だから、今回のようなことが起きてもしっかりと対処しなければいけない。



数日前、私と妻は被害者の女性に和解金として500万ほどを指定された口座に入れた…しかし、マスコミは私の会社のことを以前から嗅ぎ回っていたらしく、今回の事件も運悪く従業員の耳に入ってしまったようだ。



今はその対処に追われる日々を過ごしている。



コンコン



「だれだ?」



「秘書の波多野です。入ってもよろしいですか?」



「あぁ。なんのようだ?私はこれから幾つか作業をしなければいけないのだが。」



波多野は社長室に入ってくる…あの事件があってからと言うものの、具体的な名前は出されていないものの、俺の息子ではないか?と噂で聞いたらしい中学,高校生時代の友達が急に俺と関係を絶ちたいと言ってきた。



正直悲しかったが、俺の息子がしでかしたことだししょうがない…でも俺の会社の株主からも変な事を言われているしさっさと対処をしないと不味い!!



「貴方の息子さんの件なんですけど…実際どうなんですか?」



「…和解金も支払ったし事件自体は一応解決となっている。だからこれ以上マスコミには騒がれたくない…」



「私が聞いているのはそうでは有りません…社長…貴方のことは起業時からこの会社に勤めてきた私が一番知っていると思います…一度お子さんと話をしたほうが良いと思います。」



「一度話をした…だが、結局あいつは自分の罪を認めなかった。俺はそれも許せないんだ。せめて罪を認めるならと思ったんだが…」



「社長!!私の言っている意味を理解していますか!!」



「どうしたんだよ。」



「貴方は世間の目を気にしている…それは私にだってあることですから分かります!!ですが貴方は自分の息子が本当に犯罪を犯したと思っているのですか?私は今まで彼とは数回しか話をしたことが有りませんが、とても犯罪をするようには見えません!!」



「うっ…」



「それに冤罪の可能性を考えないのですか?私の出勤時間と彼の学校への電車の時間はいつも同じだったので分かりますが、あの時電車は緊急停止をしていましたよ?私はその事をお伝えしようと思ったのですが…正直私は貴方が息子の無罪を信じていると思いましたよ?」



「…」



「もうこりごりですよ。私は会社のためとはいえ、自分の息子の無罪を信じることが出来ない貴方にはついていけません!!本日限りで退職させていただきます!!」



「待ってくれ!!君とはかれこれ10年以上付き合ってきた…それに君がいなくなったらどうするつもりなんだ?」



「私がいなくなっても変わらないでしょう?社長は前に私や従業員にこういった事を覚えていますか?『君たちのような人材はいくらでもいる』と」



「‼」



「私のように秘書を数十年勤めている人材はいるでしょうし問題はないでしょう?それにこれを渡しておきます」



俺の机の上に大量の紙が置かれた…これは…



「従業員から届いた退職の届けです。此処まで一斉に辞めるとは思ってもいませんでしたが、我々のような人材は腐るほどいるでしょうしね…だから我々は他の企業に行かせてもらいます…今までありがとうございました。」



「待ってくれ!!今此処で君たちに辞められると一気に仕事が滞る!!せめて新しい従業員を雇ってから辞めてくれないか?」



「いえ…申し訳有りませんが我々はもう行きます」



そう言えば退職に関しては2週間以上前に口頭や文章などでこちらに申し出なければいけないはずだ!!



「お前ら…2週間以上前に口頭や文章でこちらに申し出たか?」



「はい?」



「2週間以上前に口頭や文章でこちらに申し出なければだめなのを知らないのか?」



「社長は何を言っているんですか?我々は社長に3週間前に言いましたよ?」



「は?」



「どうせとぼけられても無駄ですからこちらを…というか今回の事件が決め手になりましたが、前々からこの会社をやめようと思っていた人は多かったんですよ?」



秘書が渡してきたのは録音機…そして再生すると…



『社長…こちらをお願いしたいのですが…』



『すまんが今手を離せない…口頭で伝えてくれないか?』



『ここの従業員と私の辞職をお願いします』





…は?



「まて!!これは違う!!退職は認めない!!」



「何を言っているんですか!!まぁ我々から言えるのは貴方が息子さんの無罪を証明してくれたら帰ってきてくれる人が出てきてくれると思いますよ。」



俺は辞職を認めるしかなかった…これでこの会社は終わりだ…



これも全てアイツのせいだ!!



「翔太…絶対に許さないからな!!俺の会社をほぼ潰し、どこかをほっつき歩いてるなんて…」



俺は自分の息子に初めてここまで強い恨みを抱いた気がする。だが、会社をまずはどうにかして建て直さなければいけない。新規の従業員を雇って、その後他にもたくさんしなければいけない。



「くそっ…どうして急にこんな事になったんだ‼」

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