第15話 理不尽を強いる者(+他視点)

冨士山先生は最終的に俺の事を謝らせるのをあきらめてくれた。時間がかかるのは嫌だという考えなのだろう。それと校長先生が介入してきたのも大きいと考えられる。



俺は事情をしっかりと説明をしたため、すぐに帰ることにしたのだがそれは校長が許さなかった。校長は俺に封筒を1つ渡すと、興味がなくなったかのように何処かへと行ってしまった。校長先生の代わりにこの封筒について説明をしてくれたのは、いやみったらしく話しかけてくる教頭だった。



「この封筒の中身はですね〜今の君にとって一番重要なものですよ。」



中身を開けて確認すると、中には一枚の髪が入っていた。表題を見ると、『退学届』と書かれていた。



「…一体どういうつもりですか?」



「決まっているじゃないか。我が校に不要な人間である君に対して最後の温情だよ。これにさっさとサインをして、すぐに出してくれたまえ。あっちゃんと親に許可をもらってくるんだぞ。じゃないと退学にすることが出来ないからなぁ。」



「そうですか。」



俺はそれ以上会話をすることなく、その場を後にした。








魁戸視点


俺は聞こえてくる音声に耳を疑った。教育者である教員にはあるまじき内容が聞こえてきて、思わず俺は拳を握り込んだ。



翔太の服には録音機能がついている物を複数個取り付けておいた。万が一何かしらの原因で動作不良を起こしてもこれだけあれば問題ないという考えだ。それとバレないように小型にしてある。



話をしているのは校長室のようで、翔太の声以外を確認すると、校長、教頭、担任、学年主任が居るらしい。学年主任は翔太に対して罵声を数回浴びせていて、今すぐにでも問い詰めてやりたかったが、今それをしても意味がないことは分かっている。



証拠が乏しい状態で疑い、訴えた所で相手をしてくれるわけがないのだ。決定的な証拠を掴むなりしなければどこも動いてくれるわけがないのだ。



まずはこの録音が一つの証拠になる。小型カメラも取り付けてはあるけど、期待することは出来なさそうだ。映像がきれいに取れていないのでかりに証拠になるとしても顔を見ることが出来ない状態だ。これは不味い…今度もっと良いものを買ってきたほうが良さそうだ。



だがこれでひとまず安心できた。流石に暴力行為等はしてこなかったので翔太が傷つくということがないことに安堵した。



話の内容は聞こえたので、後は翔太にもう一度だけ話を聞くことにしよう。



取り敢えずこの件についてはこれくらいにして、詳細な話は本人から聞いたほうが早そうだ。次に他の件について対処をすることにしよう。



まず先輩を含め、沢山の人が頑張って調査をしてくれたお陰で、ある程度慰謝料の使い道がわかった。まず慰謝料の使い道として、1つ目が娯楽品の購入とのことだった。



具体的に言うと、競馬を始めパチンコ等回収が難しそうなものだったそうだ。それに加えてゲームの類を多数購入しているようで、支払った金額を考慮すると約半分はもう無くなっているのではないかとの推測だった。



翔太の両親が支払った慰謝料の金額は相場よりも高い。昔聞いた話だが、翔太の父親は会社の社長をしているらしいので、自分の会社に影響が出ないようにということで相場よりも高い慰謝料を出したのだと想像できる。



だが、翔太の話をろくに聞かず、周囲の人を頼ったりすることもなく自分だけで解決をしようとしたのは大きな失敗だ。弁護士に頼るなり、翔太の話を信じてあげていれば何も問題なかっただろう。



「クソ女が…他人に冤罪をふっかけておいて、そんな行為に及んでるだなんて…許せねぇ。」



俺はその他にも独自で調査を進めた。例えば翔太の事を電車内で取り押さえた男。そいつはあいも変わらず結構やばいことをやっているようだ。



テレビで散々私人逮捕がどうたらこうたらという話が出ているにも関わらず、今もなお動画を更新し続けるその精神に俺は驚愕した。



3日~5日程度に1本というペースで動画を更新しているが、こういった行為は危険が大きい。もちろんこういう風に行動をしてくれる人のお陰で助かる人もいるかも知れない。でもそれ以上に、動画という形で名誉を毀損をされる人の方が多い。



確信を持ってその行為に挑んだものの、結局その人は犯人じゃありませんでしたなんて笑えない。しかもこいつは悪いことに、動画のみという形だった。



生配信をしているというわけではなく、編集等をしている事で多少はプライバシーに配慮しているようだったが、やはり許されない。なぜなら加害者らしき人物の顔にはモザイクを入れたりするなどの編集が施されていないからだ。



詳しく調べていくと、名誉毀損で数回訴えられたこともあるそうだ。でも何故この活動をやめようとしないのだろうか?普通なら名誉毀損で訴えられた時点で、自分のやっている行為は間違っていると感じると思うのだが…



「普通の人間じゃないってことか。注意されても改善されない人間は何度も見てきたけど、この人は本当にやばいやつなのかもしれないな…一応注意をしておく必要がありそうだ。」



俺は他の動画も視聴したが、とても気分が悪くなるようなものばかりだった。だがそういった動画に限って再生回数が多いのだから笑えない。



「自分の正義を他人にまで押し付けようとか考えてるんだろうな。こういう奴等が1番危険なんだよな。」



俺は冤罪に関わった人間全員の事を調べた。それと並行して、翔太の家族とも話を進めることにしていた。



翔太が俺の事を信頼してくれているのはとても嬉しいが、やはり家族というのは特別だ。どれだけ拒絶をしていても縁はある。今までのような関係に戻すというのは難しいかもしれないが、ぎこちなくても話をすることが出来るくらいの関係には戻してあげたい。



これが俺の切実な願いであり、最終的に絶対完遂させる目標だ。

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