第5話 冤罪を晴らす為の第一歩

「なぁ翔太。俺は1つ言わなくちゃいけないことが有るんだ。」



「ん?何?」



「…俺はこのまま翔太のことを家に連れて帰りたい。でもな、それをすると俺は捕まる。そうなるとこの冤罪を晴らすことが難しくなる。だから…その…」



俺は言葉をつまらせながらも話を続けた。翔太だって辛い思いをしているんだ。だから俺もしっかりと話をしなくちゃいけない。



「家を出てきてもらった所悪いが、再び家に戻ることになる。その…大丈夫か?」



「…大丈夫か、大丈夫じゃないといえばすごく気分が悪い。大丈夫じゃないかな。正直あんな家に1秒でもとどまっていたくない。でも魁兄に迷惑をかけるようなら…俺は数日くらい我慢できる。」



「…本当にそれで良いの?」



「うん。大丈夫。」



「…わかった。とりあえず翔太のお父さんとお母さんには俺の方から説明をするよ。だから俺のそばにいるか、部屋に入って部屋の中で待つなりしてて。」



俺は翔太にそう告げて、車の事をロックしているバーを下げるための料金を払うため一度外に出た。料金を支払い、車に戻ってきた俺はすぐに車を発進させた。




車はここに来るときよりもなんだか簡単に動くような気がした。雨はまだ止まず、先程よりも激しくなっていた。俺は翔太から話を聞きながら、翔太の家へと向かった。翔太の家には数回来たことがあるから、迷わずに来ることができた。



俺は家のインターホンを押して、反応を待った。インターホンからは『誰ですか?』という声が聞こえてきた。翔太に聞くと、妹だと言われた。



「翔太どうする?このままとりあえず車の中に居るか…それとも俺と一緒に家に上がるか?」



「…大丈夫。俺は魁兄と一緒に行ける。」



「そっか。…じゃあ俺の後に付いてきて。」



俺はインターホン越しに翔太の妹に、『家に入れてほしい。話がある。』と伝えた。当然疑ってくるが、翔太の件についての話をすると急に空気が変わったかのように、こう俺に告げた。



『…入って。玄関のドアは開けておいたから。それと、もし貴方があいつを連れているんだったら、絶対に家にあげないで。あんな変態野郎がいたら私の精神が保てないの。』



俺は翔太の方に顔を向けた。翔太は少し辛そうな表情をしていたが、それ以上に頭が痛いようで頭を手で抑えていた。



「大丈夫か?車の中にいた時からずっと頭を抑えているけど、本当にどうしたんだ?」



「うぅ…俺は…いや…そんなこと無い。」



「翔太?しっかりしろ。急にどうしたんだ?」



俺は今の翔太に少し恐怖しながらも、何度も話しかけた。なぜ俺が少し恐怖しているのか…それは、翔太が目を大きく見開いてこちらを覗き込んでいたからだ。



俺は心配の言葉以外をかけることができなかった。それ以上することができず、俺はただひたすらに翔太のアクションを待つだけになってしまった。



翔太は不意に頭を抑えていた手をおろして、俺の方に視線を向けてきた。今までに感じたことのないような視線だった。なんというか…こっちの事を全て見透かしているような視線だった。



翔太は続けて俺に向けてこう言ってきた。



「なぁ…魁兄は、俺の事をいつでも味方してくれるか?それとも…もし自分に危害が加わるようだったら、例えそれが親しいやつだったとしても見捨てるか?」



「見捨てない。俺は翔太の味方だ。世間がお前のことを厳しく言うかもしれない。高校生が起こした不祥事だ。大人とは違ってテレビでも大きく伝えられているのかもしれない。だが、世間がどれだけ敵になろうが俺の考えは変わらない。」



「…それだけ覚悟を持ってるんだ。」



「当たり前だ。俺と翔太は歳が離れていたとしても友達だ。なにか困ったことがあればしっかりと頼ってくれ。」



翔太は妹に入ってこないでと言われた以上、入るわけにも行かないと言って車の中に居ることにしたようだ。俺は念のために車のロックを掛けておいて、家の玄関を開けて中に入った。



家の中は比較的整理されていて、昔入ったときとほとんど同じような状態だった。そして俺が玄関から見えるすべてのものを観察していると、俺に翔太の妹が話しかけてきた。



翔太の妹は予想以上に美人だった。だが、先程の発言を見過ごすことはできない。翔太のことをこいつは貶したんだ。でもここで話をした所でなにも解決には繋がらない。うわべだけでも取り繕うべきだ。



俺はそう判断し、軽く挨拶をした後リビングで翔太の父親と母親が来るのを待った。翔太の妹に電話をしてもらったが帰ってくるまでまだ時間がかかるそうだ。



スマホを取り出し、翔太と軽くやり取りしていると翔太の妹が話しかけてきた。



「あの〜1つ質問があるんですが…」



俺は突然話しかけられたため、びっくりした。がすぐに返答を返した。



「なんですか?答えられる範囲であれば、答えますが…答えられないものもあることを理解してくださいね。」



「もちろん分かってます。それじゃあ質問しますね。どうして貴方はあいつの味方をするんですか?あいつは女性に対して痴漢をするような最低なやつだったんですよ‼それにニュースでも散々言われてましたよ‼『こういう人が大人になるのは怖い』とか、『性犯罪の再犯率は高い』だとか沢山言われてますよ‼」



「私は弁護士ですから。翔太と仲が良い以前に、友として現場を見たわけでもないのに見捨てたりするなんてことはしません。それと…具体的な証拠がないのに疑うのはやめたほうが良いと思いますよ。」



俺は若干の不快感覚えつつも、『少し言葉が汚くなったかもな…』と思いながら、眼の前の椅子に座り質問をしてきた翔太の妹に告げた。

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