第3話 一滴の涙がうまいアルゼンチン

私はティータイムが好きだ。

「ティー」タイムの名の通り、コーヒーよりもお茶が好き。


実家にいたころから、それは物心ついたころからずっと我が家にはティータイムがあった。

ティータイムと言えば、なんだかおしゃれな感じがするけれどもつまりはお茶を飲む時間だ。

厳密に何時からティータイムと言う訳ではなく、休日は誰からともなく「お茶入れるけど、飲む人~?」と聞かれ、大体全員が「はーい」と手をあげる。

それは日本茶のこともあれば、コーヒーサーバーで入れるコーヒーのこともあれば、インスタントの飲み物を各々作るときもある。

お菓子も食べることもあれば、ただただお茶を飲むだけのこともある。

そんな習慣がすっかり身について、私一人でもお茶タイムがある。

一人暮らしを始めたころも急須と日本茶、ハーブティーに数種類の紅茶があって、もちろんお湯を注げば飲めるインスタントの飲み物もあって、一人暮らしなのにたくさんあると驚いた友人もいた。


コーヒーよりもお茶だった私も今ではコーヒー屋で豆を挽いてもらい、ぽたぽたとドリップするまでとなった。

今ではコーヒーとお茶はどちらも同じくらい好きな飲み物だ。

と言っても、(コーヒー好きには笑われるかもしれないが)私はブラックコーヒーが苦手である。

昔は砂糖もミルクもたっぷり入ってないと飲めなかったが、今はミルクとコーヒーだけで充分おいしい。

砂糖なしというのは、私にしてはすごい進歩だ。

そんな私が、まだ砂糖入りのカフェオレ(というかコーヒー牛乳くらいの濃度)しか飲めなかった頃、アルゼンチンで出会ったコーヒーがもう完全ドストライクな私好みだったので紹介する。


日本では私は今のところ見たことがないそのコーヒー。

最初に出会ったのは、アルゼンチンのコルドバという地方だっただろうか。

あまり人はいなかったような気がする。

うろ覚えだけれども、そこで出会って日本に帰ってくるまでの8か月間そのコーヒーを数えるほどしか見ていない。

だから多分アルゼンチンでもマイナーな飲み物なんだろうと勝手に予測している。


ちなみにアルゼンチンはカフェ文化があって、カフェがそこら中にあるし、老若男女問わずカフェによくいく。

昔からある様なカフェでは近所のおじさんと思われる男性が新聞読みながらコーヒーを。

街中では、まるでパリのようなオープンテラスのカフェもちらほら。

ティータイム大好きな私もよくあっちのカフェ、こっちのカフェと通ったものだ。

夫と二人で将来カフェでも開くのもいいなぁなんて夢物語を話しながら、「このカフェはこの内装が素敵」「このメニューは将来カフェ出すなら絶対入れたいメニューだな」など話題は尽きない。


話をコルドバで出会ったコーヒーに戻すが、そのコーヒーの名前はLagrima(ラグリマ)という。

スペイン語で「涙」という意味だ。

察しのいい方はもうどんなコーヒーかわかったと思うけれど、初めてこれをメニューで見つけたときどんな飲み物かわからず店員に聞いた。

すると、「泡立てたミルクの中に、涙(コーヒー)が1滴。子供がよく飲むやつだよ!」と。


実際は1滴なわけではないけれど、あわあわのミルクの真ん中にちょっぴりすとんと落としたコーヒー。

圧倒的に多いミルクの中にもそのコーヒーの香り、風味が感じられて凄く旨い。

なるほど確かに子供にピッタリである。(私も大好きだけど)


結婚してからは夫がコーヒー好きなので、夫がいる週末はコーヒーを飲むことが多い。

基本的にカフェオレで飲んでいるけど、たまにこのラグリマを思い出してたっぷりの牛乳にぽたっぽたっと涙をミルクに沈めるのだけど、どうもあの時の味にはならない。

泡立っていないからか、砂糖を入れないからか、もっと濃いエスプレッソを使っていたのか……。

わからないけれども、あの味を再現しようとあれこれ試している。

旅先や以前住んでいた地域の味をもう1度味わうのは難しい。

南米でよく食べたミラネサというカツレツや、エンパナーダと言ったパイも。

東京でよく通ったタンタンメンも、もうなかなか食べられない。


そういうものは時折家で実験してみる。

身の回りのもので再現を試みる。

あの味にはならずとも、あの頃を思い出し楽しくなる。

夫と二人食べながら、あーだった、こうだったと昔話するのもなかなか楽しい。

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