第3話 推しへの告白

 目を開ける。

 さっきまで自転車に乗っていたはずなのに、ぼくは足で立っていた。

 辺りを見渡すと初めて来た場所だった。


 ココは?


 この景色には見覚えがある。

 もしかして今のぼくは病院のベッドにいて夢を見ているのか?

 それにしても、この世界はリアルである。

 転生、という言葉が頭に浮かんだ。


 自分が着ている制服を見た。ぼくが通う学校の制服ではない。

 この制服にも見覚えがあった。

 そして見覚えのある後ろ姿を発見した。

 黒髪の三つ編み。


 新田一。


 見間違えるわけがない。恋焦がれ、何度も想像してきた推しヒロインである。

 彼女は小道に何かを発見したらしく、足を止めた。

 そして数秒間だけピタリと身動きもしなかった。

 そしてよーいスタートと言われたかのように彼女が走り始めた。


 ぼくは自分の推しヒロインを見つけて、走って追いかけた。

 勝手に体が動いていたのだ。

 走っている最中に彼女が見た小道に視線を向けた。

 そこには山本世界観と本田ナノがいた。

 2人はキスをしていた。


 新田一と山本世界観と本田ナノがいるということは、ココは『魔法少女ナノ』の世界である。


 原作では時間を操ると思っていた怪異のせいで何度もタイムリープを繰り返し、本田ナノが死んだ世界線に行ったことで山本世界観が彼女の大切さに気づく。そして怪異を倒した後にキスをするのだ。

 それをたまたま新田一が見てしまったのだ。


 これが切掛けで彼女は消滅してしまうのだ。

 新田一が消えてしまう、とぼくは思った。

 だからぼくは必死に新田一を追いかけていた。


 はぁ、はぁ、はぁ。

 全速力で走った。

 息切れしながら彼女の細い腕を掴んだ。

 三つ編み、黒縁メガネ、の新田一が振り返る。

 彼女は泣いていた。

 推しの涙に胸がキュン、と痛くなった。 


「和田君?」

 と震えた声で彼女が尋ねた。


 和田?

 ぼくは和田なのか。

 和田和也。

 山本世界観の親友で見える君である。見える君というのは怪異が見えるという事である。

 コレは夢の中か?

 それとも転生か?

 新田一が目の前にいるのだ。夢の中だろうと転生だろうと彼女が消滅しないように救いたかった。

 ぼくは新田一を愛していた。

 初めて女の子キャラのフィギュアを買ったぐらいなのだ。


「泣いているの見られちゃったかな?」

 と彼女が言って、ポケットからハンカチを取り出して目を拭いた。

 そして新田一は気丈に笑った。


「ぼくは新田一が好きだ」

 とぼくは言った。

 言わなければ彼女は消滅する、と思った。

 伝えなければ彼女は消滅する、と思った。

 ココが夢でも彼女が消えるのは嫌だった。

 ぼくの推しなのだ。


「えっ……」

 新田一はいきなりのぼくの告白に戸惑っている様子だった。


「ぼくは新田一が大大大好きだ。ぼくが君の事を求めている。ぼくが君と一緒にいたい。新田一が消えてしまうならぼくも消える。君がいないとぼくは生きられない」


「和田君……どうしたの?」


「今、ぼくは新田一に気持ちを伝えています」

 とぼくが言う。

「新田一は1人ぼっちじゃない。どんな事があってもぼくは君の味方だし、君がこの世界で生きていてくれるだけでぼくは嬉しい」

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