控えめすぎるヒーロー達

@mustardflower

第1話 小1のゴミ捨て

マンションの同じ階に住んでいた、同級生の男の子とのお話。


私の実家はマンションで、エレベーターは家の前。

そのエレベーターを降りると重いドアの先に駐車場があって、それをまっすぐ横切った50m先にゴミステーションがある。

そのゴミステーションは、毎日24時間使用可能な代わりに、重い引き戸がついたごつい建物になっている。おまけに、締め切られた建物の中は、ひどく臭う。


そんなわけで、その朝、両手にゴミ袋を引っ提げてエレベーター前に立った私は、渋い顔をしていた。

今朝母に頼まれたゴミは発泡スチロールの塊。重くも臭くもないけれど、登校前の一仕事は、小1の私にとって理不尽極まりなかった。


左から近づく足音を聞いて、私の顔はさらに曇る。同じ階に住む同級生と時間がかぶってしまったのだ。

顔を向けて、彼の「おはよう」に重ねるように挨拶をして。

相手に何か言われる前に、と私が息を吸ったそのとき。


「それ、重くない?」

私は吸った息をそのまま呑んでしまった。

急いで吐き出す。「大丈夫!」


「あ、そう」


彼はそのままエレベーターに乗って、「開く」ボタンと1階のボタンを押した。

私は自分が気づかない間に、重いドアと、駐車場と、引き戸を乗り越えて、通学路を歩いていた。


あの時飲み込んだ、「これ臭くないから」は、言わずじまいのままだ。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る