第11話 【何故幕府へと至ったか】

 当時から武名は名高くも……御大将軍は糞上司だった。

 国威発揚の為の装備や人材を丸ごと私物化したのが彼である。

 そんな奴が幕府の最初期に最大の権力を持っていたのも悪い。

 

 今も当時も外様は将軍家の無茶ぶりから「将軍死ね!」と叫んでいる。

 最初期の譜代でも「家康じゃなくてテメーは秀吉!」と絶縁したこともある。

 

 権威の裏付けであった時の陛下でさえ、


「金元くん、部下を労わって、お賃金を上げないとだめだよ?」


 とお叱りを与えた記録が残る。

 だと言うのに部下へのナチュラル・パワッハラ体質は改善しなかった。

 ただ時の陛下を心の底から尊敬していた御大将軍。

 どうやら盛大に勘違いしたようである。


「ならテメーらにもコロニー(米露欧のモノを接収)をくれてやるよ(意訳)」


 ここで別の政策を取っていれば?

 歴史のIFだが、幕府は封建制でなく連邦国家の様になったのだろう。

 だが現実は御大将軍の独断により、叶わなかった。

 かくして食うためのコロニーを領地と見たて、部下に公平に与えられた。


 テラフォーミング中の火星、水星、金星の領地(予定)すら、である。


 末端の部下まで平等に領民なんみんごと一方的に割り振られたのだ。

 最初期のコロニーと言う閉鎖空間。

 その狭い世界が、ミニ国家化するのも自然であったのだろう。

 フューダリズムが再燃したのは誰も予想しなかっただろうが。


………既存の国家を解体する自覚もないまま、御大将軍は事業を進めた。


 これに堪忍袋の緒が切れた勢力は多かった。

 伊達の二代目は領地発言を受け、直ちに離反。

 御大将軍に賛同した初代から見て娘婿の彼は愛国心から、御大将軍による国家の解体を許容できなかったのだ。

 そのまま彼はVNMに押され気味の金星圏でなく、水星圏に引きこもることを決断。これに上杉も何故か便乗。

 日系二大巨頭が去った為、流石の御大将軍も焦ったらしい。

 独裁者であったのに、一時的に政治や軍事への影響力が陰ったのだ。


――――この政情の変化と、とある新技術が世界を動かした。


 新技術、完成したばかりの超猫理論。

 俗に言うワープ理論は輸送に革命を起こした。

 これは当時の主武装であった水爆弾頭の補給が激変しただけではない。

 惑星間の距離が問題とならなくなったのである。


………ところが、そんな状況にも関わらず領地システムは上手く行った。


 まだ民族問題が再燃していないことも後押ししたのだろう。

 国家や地域コミュニティごとに分けたのが上手く行ったのだ。


 当時は生きることに精一杯。


 地球上の国家群が後継国家の認定に難航したことも手伝ったのか?

 小さなコロニーの中だけなら、確かに平和が回復したのだ。


 なお幕府から去った伊達と上杉のその後であるが、指導者同士の対立で統合に失敗。今なお日本国は書類上に残るだけ、となってしまった。


(中略)


 領地の配布後、事情が変わって来た。


――水星のモグラどもはいい、木星のヘリウム野郎が調子をぶっこくのだ。


 超猫理論は太陽系の流通と、汚染VNM戦争を変えた。

 幕府が、なんとか地球圏から汚染VNMの打ち上げ機能を喪失させた同時期。

 ヘリウム野郎こと、ジェンキンスが野心を抱く。

 彼は秘密裏に木星圏の諸勢力を統合し、自勢力を増していた。

 木星圏の汚染VNM散布量が低く、超猫の実装が彼の行動を可能としたのだ。


 嘘か誠か、独裁者の「け」があったジェンキンス。


 彼は幕府が月を奪取した時を見計らって反旗を翻した。

 手始めに月面都市の接収作業中の二代目将軍を純粋水爆で吹き飛ばした彼。

 そのまま、何を思ったか古巣へと宣戦布告。

 そうして彼は民主主義の守護者を僭称した。

 そんな彼の大義名分は次の発言であったそうな。


―――悪逆非道のタイクーンが支配する太陽幕府は悪の全体主義である、と。


 意外だが、この時まで実は太陽幕府と言う名は無かった。

 事実、公式文書に【Shogunate】の文字が現れるのは時代が下ってからだ。

 後世と違い、当時は多国籍企業かNGOの寄り合い所帯。

 そんな認識だったのだろう。


 ただ愛息ごと月面都市をお釈迦にされ面目丸つぶれ。

 その上、火星まで分捕られで、流石にプッツン来た御大将軍。

 三代目(当時は二代目)を就任させると正式に内部へ外敵への戦いを宣言。

 

―――これも賛同する層と、離れる層が出た。

 

 上杉はガン無視。ペリエやデッドーリはどっちつかず、伊達は日和見。

 李はジェンキンスに参加しようとして、遅刻した。

 結果、置いてきぼりとなった。

 これにより、望まない形で独自統治が加速していった。

 こうして、封建制の芽が再び世に出たのだろうと思われる。 

 

…………結局ジェンキンスは太陽幕府に敗北した。


 そして、その頃には軍事力と技術力で将軍家は頂点に立った。

 領地や人口はともかく、他の星腕まで手を広げられる家など、将軍家、その御三家、そして五閥の他に存在しなかった。



――――緑青社 自費出版作品:太陽幕府の穿った歴史 より抜粋

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