やはりエスメラルダ王子殿下は世界一かっこいい!!

 私こと剣帝ミルア・レーニスは、ただただ驚きを隠すことができなかった。


 我が親愛なる主、エスメラルダ・ディア・ヴェフェルド王子殿下。


 この方は私の想像以上にストイックで、そして根性があった。


 ごく一部の人しか立ち入れない《エルフリア森林地帯》にて、王子殿下はただひたすらに己を鍛え続けた。


 食事もほとんど取らず、睡眠時間も五時間程度で、私やローフェミア王女が疲れてもなお修行に出始めて。


 そこで初めて、私は格の違いを思い知った。


 ああ、私は世界最強の剣士などではない。


 世界で最も強いのはエスメラルダ王子殿下であって、流派を二つ極めた程度の私では、もはや王子殿下の足下にも及ばない。


 それだけに不思議だった。


 ストイックなのは素晴らしいことだが、しかしなぜ、そこまでして頑張るのか。


 我が親愛なるエスメラルダ王子殿下のことだから、きっとなにかしらの理由があるのではと思っていたが……。


 そしてやはり、その推測は当たっていた。


 アウストリア洞窟の最深部にて待ち構えていた鬼は、なんと長年もの間エルフを苦しめてきた元凶らしい。呪いにかかって身体が石化してしまったエルフとか、高速で寿命を蝕んでいく呪いとか……。


 時おりあの洞窟から出てきては、エルフを苦しめてきたのだという。


 もちろんエルフもその度に抵抗してきたが、鬼の強さは尋常ではなかったらしい。

 

 ベテラン魔術師からの攻撃さえ無傷で耐えたうえ、さらにたった一度の殴打でエルフたちを瞬殺。


 そうして甚大な被害を及ぼしては洞窟に帰っていくため、アウストリア洞窟の周辺には、《エルフリア森林地帯》とは比較にならないほどの門番がいた。


 エスメラルダ王子殿下は、その鬼をなんと一撃で倒してみせた。


 過酷な修行に耐え続けてきたのも、きっと現在進行形で呪いに苦しんでいるエルフたちを救うためだったのだ。

 あんなに急ピッチで修行し続けてきたのも、きっと一日も早くエルフたちを救うためだったのだ。


 そう考えたら涙が止まらない。


 自分はなんて浅はかだったのだろう。あのときもっと、自分も王子殿下の修行に付き添えていればよかったのに。


 いくら剣帝と呼ばれる私でも、エスメラルダ王子殿下と比べれば凡俗も凡俗、同じ空気を吸うことさえおこがましい存在である。


 だからこれからは、エスメラルダ王子殿下の一挙手一投足を真似していきたいと思う。


 かつての師が言っていたように、まずは尊敬する者の動きを完璧に再現することが上達の近道。

 だからこれからは、エスメラルダ王子殿下の一挙手一投足を観察していきたいと思う。


 ――そして、あの鬼を倒してから一週間。


「あ、王子様だ~~‼」

「握手握手!」


「クックック……いいだろう」


 エスメラルダ王子殿下の活躍は瞬く間にエルフたちに知れ渡り、今では王子殿下を嫌う者は誰一人としていない。


 エルフ王国をずっと苦しめてきた悪鬼を倒し、呪いにかかっていた者を回復させてしまったわけだしな。


 エルフ王国のヒーローになることは間違いないだろう。


 はじめてエルフたちに感謝されていた時、エスメラルダ王子殿下は何が起こっているのかわからなかったようで目を白黒させていたが……。


 そうした謙虚なところも含めて、まさに王にふさわしい人だと思う。


 そう――エスメラルダ王子殿下こそ、これからの王国にふさわしい人物。


 玉座争いに明け暮れている他の王族はもちろんとして、私利私欲にまみれたユリシア第一王女は絶対に王になるべきではない。


 大好きです……エスメラルダ王子殿下。


 本当はこの身体を捧げて女としての喜びを味わいたい欲求に駆られることもあるけれどエスメラルダ王子殿下はまさに神に等しい存在だしそんな下心を抱く時点で人間失格ああエスメラルダ王子殿下よ哀れな私をお許しください私はえっちな女なのです。


「……おい、おい、ミルア。聞こえてるか」


「はっ」


 ひとりそんな考え事に耽っていたところに、エスメラルダ王子殿下に呼び止められた。


 ちなみに現在は、エスメラルダ王子殿下を労うパーティーの真っ最中。


 悪鬼を倒してもらっておいて、何もしないのは申し訳ないとエルフたちが考えたのだろう。


「申し訳ございません、エスメラルダ王子殿下。私はえっちな女なのです」


「は……?」


 しまった。

 エスメラルダ王子殿下のことを思いすぎるがゆえに、あまりにも支離滅裂な言動を取ってしまった。


「……いいから、ちょっとこっちに来てくれないか。話がある」


「はいっ、かしこまりました!」


 だがその羞恥心も、親愛なるエスメラルダ王子殿下に呼ばれたことで、綺麗さっぱり吹き飛んでいった。

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