第16話 聖女(1)

(ふう、思ってたよりも好かれてたな、俺。本当に七~八割が支持していた? まあ、危機になると集団の凝集性は高まるというのもあるか)


 マスコミを富士山の山頂から自衛隊が警護している避難所に送り返した光二は、再び自宅の核シェルターの中へと戻り、一息つく。


 護衛たちが拍手で光二を出迎えた。


「総理、お疲れっす。マジチートでしたね!」


 園田が備蓄していた二リットルのペットボトルの水を差しだしてくる。


「まあな。でも、まだ拍手するには早いぞ。この感じだと地上の敵は普通に残ってる」


 光二はそう言うと、その飲み口に唇が触れないように気を付けつつ、水をあおった。


 確かに想定していたパターンの中では、上々の結果だった。


 上空の敵を壊滅し、制空権を取り戻すことに成功した。


 日本全土にバリアを張り、新たな敵の侵入も防いだ。


 だが、すでに地上に降下した敵を掃討するには至らない。


 そこまでするには、さすがに光二の信望が足りなかった。


「それでも、少なくても日本が壊滅するのは免れそうですから、喜ばしいです」


 本郷が全国各地で快哉を叫ぶ国民の映像を見せてくる。


「大将! とりあえずこの辺りの安全は確保しときやした。現在はインフラの確保を目標とし、順次部隊を展開しておりやす」


 シェルターを開け、三島が顔を覗かせる。


 すでに自衛隊と警察の全てに武装の使用許可を出しており、エイリアンたちの残党狩りが始まっている。光魔法の効果で多少弱っていると思うので、いくらか戦いやすいはずだ。


「お疲れ。あとはルインたちが来てくれれば――」


「どうやら上手くいったようだな。敵の気配がかなり弱まっている」


「ルイン!」


 光二はルインに抱き着きつこうと歩み寄る。


 つい数時間前にも抱き着いたけど、長い間彼女に会えなかった寂しさを埋めるには、身体的接触が全然足りなかった。


「勇者様! お久しぶりございます!」


 そんな光二とルインの間に割り込んでくる影。


「っ! フルーリャ――か」


 反射的に柄に手をかけそうになってグッと堪える。


「はい! 勇者様の敬虔なる僕、フルーリャですっ!」


 フルーリャはそう言って、光二に抱き着いてきた。


 だいぶ大きくなってはいたが、その甘ったるい声と無邪気な笑顔には確かにあの時の面影があった。


 パルソミアは種族ごとに年の数え方が違ったり、複雑な数え年のロジックがあったりして、誕生日の概念が地球ほど明確ではない。だが、彼女は当時が小学校の低学年くらいだったことは確かなので、今はざっくり二十代前半くらいである。


 もっとも、光二と同じく若返りの魔法を使っているとすれば、実年齢はあまり意味をなさない。


 実際、今のフルーリャは高校生くらいにしか見えないし。


 セミロングの金髪で、綺麗系というよりは、かわいい系の万人から好まれる愛嬌のある顔をしている。背は園田よりは少し高い程度。胸はルインよりもさらに巨乳である。


 服は、地味めのウエディングドレスとでも言おうか。肩が少し露出した、フリルのついた白いドレスを着ている。


 日本でアイドルとして売り出せば人気が出そうな感じで、客観的に見れば美少女といって差し支えない。


 もっとも、光二はルインのようなモデル体型のキツめの顔の美人の方が好きなので、あまりタイプの容姿ではないのだが。


「おー! これが異世界のリアル聖女っすか! ジブン、園田って言うっす。よろしくっす!」


 園田がフルーリャに握手を求めにいく。


「フルーリャ、とっても寂しかったですー。でも、次に勇者様に会う時に誉めてもらえるように、聖女のお仕事いっぱい頑張りました!」


 フルーリャが光二の背中に手を回したまま、上目遣いで見てくる。


「え、今、ジブン、シカトこかれたっすか? もしかして言葉が通じてなかったり?」


 園田がキョトンとした顔で言う。


「いや、フルーリャは聞こえていてなお無視している。こいつは勇者以外の人間は全て、塵芥未満の排泄物だと思っているからな」


 ルインが首を横に振る。


「ええ……、ちょっと想像してた聖女と違うんですけど」


 園田が手を引っ込めて、がっかりした顔になる。


「そうですか? ネット小説の聖女って大体狂った悪人じゃないですか」


 本郷は小首を傾げた。


「いや、ジブンはあの乙女ゲーへのリスペクトのかけらもない悪役令嬢モノは受け入れられない派なんで。そこは王道の真面目な聖女を求めていたっす」


 園田が妙に真面目腐った顔で答えた。

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